vol.1 「ラッコのクーちゃん大冒険」

釧路川幣舞橋

クーちゃん降臨

北海道の東の端に近い釧路市に2009年2月、野生のラッコが現れた。ラッコといえば、水族館でもシャチと人気を2分するスターで、あおむけに浮かんで両手を使って器用に貝を割るしぐさが実にかわいい。

ふだんはもう少し冷たい海に暮らす珍獣が、人口18万人の中規模都市のど真ん中を流れる釧路川に現れたのだから、たちまち全国ニュースとして津々浦々に伝わった。それもアクリルケースごしではない。手を伸ばせば届くぐらいの「天然水族館」で無心に生きる"泳ぐぬいぐるみ"見たさに、市民をはじめ観光客らが押し寄せた。明け方にはマイナス20度近くまで冷え込む吹きっさらしの河畔に、である。

すぐに「クーちゃん」と命名された。多摩川に現れたアゴヒゲアザラシのタマちゃん同様、頭文字がそのまま愛称になった。やがてオスと判明。観客が川に転落したり、クーちゃんの肢に釣り針が引っかかるような"事件"が起きるたびに、悲喜こもごものニュースとして動向が報じられた。まるでアニメ「魔女の宅急便」のキキにならって、一人前のラッコになるための修行先として釧路を選んだかのようであった。

「クーちゃん」と呼ぶと、かなりの確率で近寄って来た。そうしたフレンドリーで野生動物らしからぬ警戒心のなさも、愛された理由だろう。「2、3日でいなくなる」との大方の予想に反して計86日間も釧路に滞在し、人々の心に癒しを与え続けた。

その彼が5月8日、姿を消した。1週間後、東に約150km離れた根室市納沙布岬に現れた。以来、この最果ての岬を拠点に、まるで「フーテンの寅」のような日々を過ごしている。

齢70の歳を重ねながら、いつしか「クーちゃんのパパ」を自称していた僕は、神出鬼没の彼がどこかへ現れるたびに逢いに行くのがならいとなった。いや、逢いに行かずにはいられない「追っかけ」の一人として、きょうもその姿を追い続けている。(つづく)

著者紹介

林田 定昭

林田 定昭

1940年 釧路市生まれ。歯科医師
2009年
7月 「ラッコのクーちゃん大冒険写真展」
9月 「ラッコのクーちゃん大冒険」
  「たなかまさこ[詩]プラス林田定昭写真展の二人展」
10月 「ラッコのクーちゃん大冒険」写真展
 
 
 
2010年
1月 「愛・癒し・自然・命」たなかまさこ・林田定昭二人展
2月 フレーム記念切手「50円切手発売」
2月 「ラッコ・フオーラム」
2月 サンシャイン国際水族館内写真展
6月 「クーちゃんから愛をこめて」写真詩集出版
 
 
 
 
 

*ラッコの写真はNHKテレビ(全国版)、フジテレビ(全国)HTB、UHB、STV、毎日新聞(全国版)、北海道新聞、釧路新聞、読売新聞、東京新聞、STVラジオで紹介される。釧路市住民票、クーちゃんモニュメント、商品券、モザイクアート写真、釧路川岸壁等多数採用されている。「ラッコの住めない海は人類も滅びる」「ラッコの保護は環境保護」を唱えている。