vol.2 冬も元気! オオサンショウウオ

図1:定期調査による大口川の発見頭数(1975年12月~1976年12月)


冬の隠れ場調査。あまりに寒い日は落葉だまりや大きな石の下に隠れている。1976年12月18日松歳川

何かが少しずつわかり始めたのは、調査拠点を広島県山県郡豊平町(現北広島町)志路原(しじはら)に定めてからだ。そこは安佐動物公園から車で1時間の距離にあり、住民各氏の親切を受けながら、この地での調査研究が始まった。1973年のことである。

その頃、私たちはオオサンショウウオのことが知りたくて燃えていた。毎月1度の定期調査を継続し、オオサンショウウオの活動の年周性を知ろうとしていた。夕方仕事を終えてから調査に出かける。時には一人で夜の川を歩くこともあったし、途中で立ち寄る飯屋に振られ腹ペコのこともあった。でも、なんとか、月1回の定期調査を続けた。そこから見えてきたものの一つが冬のオオサンショウウオの暮らしである。

オオサンショウウオは基本夜行性で、日が暮れて30分たてば川の中に出てくる。調査は必ず川下から始め、遡りながら懐中電気の光を頼りにオオサンショウウオを探す。見つけると網で捕まえて、全長、体重、性別、体の特徴などを計測、記録して、再び元の位置に放す。その頃はマイクロチップがなかったので、尾の模様を絵にかき個体識別をした。次から次にオオサンショウウオが現われて、真夜中を過ぎても終了できず、もう出てくれるなと言いあいながら川を歩いたこともあったが、今考えると贅沢な時間をもったものだ。

図1は大口川の年間定期調査でのオオサンショウウオの発見状況である。約1kmを踏査し、多い時は10頭、なぜか0頭のこともある。発見頭数は川中への出現行動と関連していて、図1は概ね川中への出現活動の年周性を示す。発見頭数が多いのは4月中旬と8月下旬で、4月中旬は水温む時期、8月下旬から9月上旬は繁殖期である。春、夏、秋のスリーシ―ズンを通して出現活動が見られるが、特筆すべきは12月から3月の冬期にも出現活動が見られるということだ。真冬の大口川の水温は4度から6度。出現数は多くはないけれど、確かにオオサンショウウオは活動している。

大口川が流れ込む本流の志路原川の水温は2度ほど高い。冬でも何頭もが川中に出てきて、餌の魚を待ち伏せしたり、呼吸のために水面に鼻先を出したりと元気に活動している。その中で、1977年1月17日の観察は今も記憶に新しい。その日は特別に寒い日で、積雪30cm、凍ることのない志路原川のほとりが凍てついていた。水温は3.5度。そんな中でも9頭のオオサンショウウオが発見されたが、彼らの様子はいつもとは違って、深みの岩に寄り添い網を当てても動かなかった。こちこちになっている1頭を掬いあげ、雪の上で計測を始めて5分ほどたった時のことだ。オオサンショウウオがにわかに動き始めた。いったん動き始めるとその動きは計測者が止めることができないほど力強く、両生類は寒くなると体が動かなくなると思っていた私たちの概念を打ち砕いた。

オオサンショウウオは変温動物でありながら、冬でも冬眠しない。水温が3度くらいになると、さすがに活動をやめて隠れていることが多くなるが、それでも動こうと思えば体は動く。2月、4cmほどに育った幼生たちが産卵巣穴を出て雪解け水の流れる川の中へと離散する。幼生の旅立ちをヌシ※が見送る。冬眠はせず、冬も元気に活動するオオサンショウウオ、それは氷河期を生き抜いてきた遺伝子の働きであろうか。不思議な生きものだ!

※オオサンショウウオは産卵巣穴と呼ぶ特別な巣穴に産卵し、「ヌシ」と呼ぶ巣穴を占有する特別な雄が半年間にわたって子育てをする。このことは後に詳述する。

積雪のある川で魚にアタックするオオサンショウウオ。
2004年3月8日大口川

冬の生息地の風景。2010年12月28日 北広島町志路原川

著者紹介

林田 定昭

桑原一司(くわばらかずし)
広島市安佐動物公園 副園長(事)管理課長

1949年 愛媛県松山市生れ。子どもの頃から自然大好き。愛媛県立博物館に育てられたと、自分では思っている。中学生のころ、道後動物園にオオサンショウウオが保護され見に行った、あの不思議な生きものが忘れられない。
愛媛大学理学部生物学科、熊本大学大学院理学研究科修士を経て、1974年、飼育技師として広島市安佐動物公園に勤務。すぐにオオサンショウウオチームに入り、以後36年間オオサンショウウオの調査研究に従事。おもに、トラ、水鳥などの飼育、教育活動に従事。管理課長を経て2009年から現職。
オオサンショウウオの研究をまとめたくて、2004年に広島大学大学院国際協力研究科に入学。2007年卒業、博士(学術・オオサンショウウオの繁殖行動の解析)取得。 自然の研究、カメラ、園芸、美術鑑賞など多趣味。
・JAZA種保存委員会爬虫両生類類別調整者
・日本オオサンショウウオの会会長
・アンフィビアン・アーク日本代表理事。