ゴリラの好物って何?

ゴリラがヨーロッパの動物園に初めて登場したのは19世紀の中ごろです。当時はゴリラが暗黒のジャングルにすむおそろしい動物だと考えられていたので、当然肉を好んで食べると見なされました。そのため、動物園では長い間ゴリラに肉を与えていたのです。そのため、お腹を壊したりリューマチになったりするゴリラが後を絶ちませんでした。日本でも、1950年代に初めて上野動物園にゴリラがやってきたころ、馬肉のスープを与えていました。でも実は、ゴリラは肉食ではなかったのです。

また、つい最近まで、ゴリラは巨大な体を持つように特殊化し、進化の袋小路に入ってしまった動物だと考えられていました。硬い木の葉や樹皮、根などを食べられるように頑丈な歯と胃を持ち、長大なそしゃく器官と消化器官を収める大きな体を発達させたというわけです。たしかにゴリラは、繊維質をたくさん含んだ植物をバリバリと音を立てて食べます。竹の子を食べているときなど、大きな歯で苦もなくかみ割る迫力に圧倒されてしまいます。でも、最近の調査でゴリラは実は甘い果実が大好きだということがわかってきました。

こういった誤解は、これまで野生のゴリラの調査が標高の高い山地にすむマウンテンゴリラを対象に行われてきたためです。熱帯の山地は、気温が低いために果実がほとんど実りません。その代わりに地上にはセロリやアザミなど、水分に富んだおいしい草がふんだんにあり、マウンテンゴリラは一年中それらの草を食べて暮らしているのです。ところが、ゴリラの分布域の80パーセントを超える西ローランドゴリラは、多種多様な果実が実る低地熱帯雨林に暮らしています。最近の調査で、彼らはときにはチンパンジー以上にたくさんの種類の果実を食べることがわかってきました。しかも他の果実食の霊長類と同じように、ゴリラも甘い果実が大好きです。熟した果実を手に入れるために、体重200キログラムに達しようかというシルバーバックも器用に木に登り、慎重に枝をたわめて果実をとることもわかってきました。

さらに、ゴリラは昆虫食もします。何百万という大群で列を成して地上を行進するサファリアリや、樹上にフットボールのような形の巣を作るツムギアリ、お尻を上げてピコピコ歩くシリアゲアリなどをよく食べます。ヘイタイアリの鋭い口で咬まれないように、腕の長い毛に絡ませてから食べるという技術ももっています。また、硬い土で塗り固められた塚を手で崩して、中にすんでいるシロアリを手づかみで食べるゴリラもいます。これまで考えられてきた以上に、ゴリラはチンパンジーや私たち人間のような雑食だったのです。

◇プロフィール

山極 寿一(やまぎわ じゅいち)
1952年東京生まれ。
京都大学理学部卒、同大学院理学研究科博士課程修了。
理学博士。
カリソケ研究センター客員研究員、(財)日本モンキーセンター・リサーチフェロー、京都大学霊長類研究所助手を経て現職。
1978年からアフリカ各地でゴリラの野外研究を行っている。
著書に『ゴリラ図鑑』(文渓堂)、『ゴリラ』(東京大学出版会)など。