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どうぶつのくに どうぶつえんとすいぞくかん

Vol.2 ゴリラの会話

2011.3.10

現代の私たちは、言葉や文字を使って会話をすることになれているから、つい相手がどんな表情をしているかを忘れがちだ。今はケータイやメールがあるから相手と直接会って話すことも少ない。でもつい最近まで私たち人間は言葉より相手の顔の表情を読んで会話をしていたのである。人間のような言葉をもたないゴリラは、そのことを教えてくれる。人間に遺伝的に近縁なゴリラは顔の表情も私たちに近い特徴をもっているからだ。たとえば、緊張しているときや、どうしようかと迷っているときは、上下のくちびるをまき込んで口をぎゅっと結ぶ。人間だって緊張して思わず体に力が入ったとき、同じような表情をする。徒競争で横一列に並び、さあスタートというときに口をぎゅっと結ぶ。

不満そうな時には口をとがらす。くちびるを三角にしてとがらし、こほっこほっと咳のような音声を出す。お母さんに甘えようとしたら無視されたとか、自分が食べようとしたキチゴを横取りされた、などという場合にこの表情をして声を出す。人間は言葉に出して不満を言うが、そのときの表情はきっと口をとがらしていると思う。私たちは不満の理由は言葉によって理解するが、不満であることや不満の強さは顔の表情と声の調子から察知するのである。 おそらく人間も言葉をもつ前は、ゴリラと同じように相手の顔やしぐさから気分を推し量り、それによって自分の態度を変えていたのだろうと思う。ためしにテレビの音を消して、しゃべっている人の表情を読んでみるといい。案外その人の気分が表情から伝わってくることがわかるはずだ。言葉で嘘はつけるけれど、表情ではなかなかごまかしはきかない。私たちがまだ言葉のない会話の能力を失ってはいないのである。

著者プロフィール

山極寿一(やまぎわ・じゅいち)

1952年東京生まれ。
京都大学理学部卒、同大学院理学研究科博士課程修了。理学博士。
カリソケ研究センター客員研究員、(財)日本モンキーセンター・リサーチフェロー、京都大学霊長類研究所助手を経て現職。
1978年からアフリカ各地でゴリラの野外研究を行っている。
著書に『ゴリラ図鑑』(文渓堂)、『ゴリラ』(東京大学出版会)など。

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