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Vol.1「弁天様のお使い」と呼ばれたナマズ

2019.7.27

 琵琶湖には3種のナマズが生息しています。1つめはどうぶつのくに123号の特集で紹介された「琵琶湖の主」ことビワコオオナマズ Silurus biwaensis、2つめはマナマズとも呼ばれるナマズ Silurus asotus、そして3つめがイワトコナマズ Silurus lithophilusです。イワトコナマズはビワコオオナマズと共に1961年に新種記載された琵琶湖淀川水系の固有種で、現在は琵琶湖とその近くにある余呉湖、そして琵琶湖から流れ出る瀬田川、宇治川、淀川に生息しています。「岩床(いわとこ)」の名の通り、琵琶湖では岩場に多く生息しており、眼が他のナマズより横にあること、顔の大きさに対してヒゲが長いこと、体の色は主に茶色がかったブリキ模様をしており、お腹の部分が黒いのが特徴です。ナマズの中では最も美味と言われており、特に冬に獲れるイワトコナマズの刺身は絶品です。味の話になると、語ることがたくさんありすぎるので、それはまた別の機会にすることにしましょう。

ベンテンナマズと呼ばれるイワトコナマズの黄変個体。この個体は現在琵琶湖博物館のトンネル水槽で見ることができます。

 さて、このようなイワトコナマズの中には、ときどき黒色の色素を作ることができず、黄変個体となった個体が見られます。このような黄変個体は江戸時代に記された「湖中産物図證」にも『黄ナマズ』として登場しており、古くからその存在は知られていたようです。黄変個体は他の2種でもまれに見られるのですが、イワトコナマズである確率が高いのです。
 琵琶湖の漁師さんの間では、ナマズの黄変個体のことを「ベンテンナマズ」と呼んでいます。これはこのナマズが琵琶湖に浮かぶ竹生島に祀られている弁財天様のお使いである、ということで、網にかかると、湖へ逃がすといわれています。

野外で見かけたベンテンナマズ。暗くてもその存在感はひときわ目立っていました

 私も調査中に何度か琵琶湖の湖岸で見かけたことがありますが、やはり夜でも黄色い個体は目立っており、どこか神秘的なものを感じました。そんなベンテンナマズを、琵琶湖博物館では、現在1個体だけトンネル水槽で展示しています。神様のお使いを見世物として展示しているなんて、いずれバチがあたるのではないかと思いますが・・・。

竹生島にある「かわら投げ」の場所。投げた小皿が鳥居の中をくぐれば願い事は成就する、ということだったのですが・・・。

 さらに、このベンテンナマズの秘密を探ろうと、現在仲間と共に研究をしているのですが、その際に、やはり弁天様にお許しをいただこうと仲間と竹生島へお参りに行きました。竹生島には「かわら投げ」という小さな焼き物のお皿に願い事を書き、鳥居に向かって投げ、それが鳥居の中をくぐれば願い事が叶うと言われている場所があります。そこで私は「研究成就、論文受理」と書いて投げました。見事鳥居の真ん中に向かって飛んで行ったのですが、いきなり突風が吹いて、鳥居の柱に直撃!!なんと皿が粉砕したのです!一同唖然としました。ひょっとしたら弁財天様に「お前にベンテンナマズの研究はまだ早い」、と言われたのかもしれません・・・。

著者プロフィール

金尾滋史(かなお・しげふみ)
滋賀県立琵琶湖博物館 主任学芸員

1980年、広島県生まれ。滋賀県立大学環境科学部、同大学院環境科学研究科、多賀町立博物館学芸員を経て、2011年より現職。博士(環境科学)。専門は水族繁殖学、魚類保全生態学で、主な研究テーマは水田地帯を利用する魚類の生態と保全、地域とともに歩む希少淡水魚の保全、自然史情報集約の場としての博物館の機能など。趣味は写真、鉄道の旅、紅茶など。特技は書道。トレードマークはペンダント。現在、琵琶湖博物館の広報担当でもある。

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