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Vol.3 「琵琶」や「近江」の名がついた湖国のドジョウ 

2020.1.18

ドジョウと聞くと、みなさんは何を想像するでしょうか?細長い、ぬるっとしたというイメージもあれば、「どんぐりころころ」に出てくる生き物、場合によっては食べたことがある!という人もいるでしょう。そんなドジョウは1種類だけと思う人もいるかもしれませんが、実は違うんです。現在、日本には未記載種や国外外来種も含めると30種以上のドジョウが知られており、ドジョウ専門の図鑑も出るほどドジョウの世界は熱いんです!さらにこれから分類学的研究が進めば、もっと種数も増えるのではないかと思います。

さて、滋賀県には現在ドジョウの仲間として在来種9種と国外外来種1種、合計3科10種のドジョウ類が生息しており、実はドジョウ県ともいえるほど国内でもドジョウの種類が多い地域です。その中には琵琶湖固有種のドジョウが2種おり、そのひとつであるビワコガタスジシマドジョウは和名の中に「琵琶」、そして学名はCobitis minamorii oumiensisと、亜種小名に「近江」の名がついているドジョウです。かつてからスジシマドジョウ小型種琵琶湖型として認識はされていたものの、このドジョウが新種として発表されたのは2012年と意外に最近のことでした。
全長は6cm~8cmで、横から見ると頭から尾びれにかけてはっきりとした縞模様がありますが、上の列は点列状になることもあります。オスとメスの見分け方は胸鰭を見るとわかりやすく、オスの胸鰭は先端が尖り、基部に骨質盤と呼ばれる板状の骨があります。メスの胸鰭は丸くあまり大きくありません。自然下での寿命は1~2年と言われています。

ビワコガタスジシマドジョウのオス。胸鰭が大きく、先端が尖る。

ビワコガタスジシマドジョウのメス。胸鰭は小さく丸い。

ビワコガタスジシマドジョウは普段、琵琶湖の沿岸部、特に砂浜のある湖岸を生活場所として利用しており、普段はよく砂にもぐっています。琵琶湖博物館の水槽でも実はたくさん個体数が入っているのに、砂にもぐることが多いため、ほとんどいないように見えてしまうことがあります。その一方で、産卵期になると、湖岸の近くにある草むらが冠水するような場所へ移動して、産卵をします。このような場所は、氾濫原環境と呼ばれ、内湖や田んぼの環境とも異なり、現在琵琶湖の周りで多くが失われている環境でもあるのです。普段暮らしている場所と繁殖する場所が異なる魚は意外と多く、それぞれの場所、そしてそれらを繋ぐ移動経路も含めた保全が必要となるのです。

ビワコガタスジシマドジョウが生息している琵琶湖岸

砂に潜っているビワコガタスジシマドジョウ

ビワコガタスジシマドジョウは、かつて琵琶湖とその周辺域に広く分布していたと考えられていますが、現在はごくわずかな地域に残っているのみで、環境省レッドリスト2019絶滅危惧IB類、滋賀県レッドデータブック2015年版絶滅危惧種に位置付けられており、絶滅が心配されています。
そんな中、滋賀県高島市では2005年から「みずすまし水田」という休耕田を活用した魚の産卵場所の造成を行い、農家の方々、地域住民の方々を中心とした田んぼの生き物の保全活動がはじまっています。当初は田んぼに産卵にやってくるニゴロブナやナマズなどの繁殖を期待していました。しかし、活動をしていく中で、フナ類やナマズと同時に、当時すでに個体数が激減していたビワコガタスジシマドジョウやオオガタスジシマドジョウもやってきて繁殖していることがわかり、みんなでびっくりしたことがあります。

滋賀県高島市にあるみずすまし水田

私はこのみずすまし水田でいくらか調査も行ってきましたが、夜になると、繁殖にやってきた成魚などが水深3cmくらいのところをうろうろしていたり、そのような場所で卵や稚魚を見つけたりと、一時的にできるごく浅い場所が繁殖や稚魚の生息場所としてとても重要であることがわかってきました。このような研究から、少しずつではありますが、スジシマドジョウ類の産卵環境や稚魚の成育などに必要な生息条件なども見えてきました。

みずすまし水田にやってきたオスの成魚

みずすまし水田で見つけたビワコガタスジシマドジョウの卵。大きさは2mmほど。

また、この場所では定期的に観察会も実施されており、多くの人たちに琵琶湖の魚のゆりかごとしてのこの場所の価値を知ってもらっています。そして、この場所には、有名なドジョウ博士も何度か来訪して調査をされました。その関係もあって、みずすまし水田周辺の水路がビワコガタスジシマドジョウの模式産地(新種の基準となった標本の採集場所)にもなりました。まだまだ国内ではドジョウ類の保全が進展しているとは言い難い状況ですが、このような地域での活動が国内のドジョウ類における保全活動の起点となればと願っています。

また、滋賀県立琵琶湖博物館では保護増殖センターという施設を併設しており、そこで国内の絶滅の危機にある淡水魚約40種を飼育し、遺伝的系統関係を重視した累代繁殖を行っています。飼育下での系統保存というのは緊急的ではありますが、繁殖技術に関する研究も行い、生息域外での種の保存に関する役割を果たしています。この中でビワコガタスジシマドジョウの系統保存も行っています。スジシマドジョウの仲間はホルモン注射による人工受精での繁殖技術が確立していますが、まだ自然産卵には至っていません。しかし、前述のように野外での産卵環境などがわかりつつあり、それらを基にした繁殖も今後は検討していきたいと考えています。生息域内での保全と生息域外での保全の組み合わせた保全で、絶滅のおそれのあるビワコガタスジシマドジョウがいつまでも琵琶湖とその周りで暮らしていけるように願うばかりです。

琵琶湖博物館にある保護増殖センター

人工繁殖のようす(写真はオオガタスジシマドジョウの人工繁殖)

著者プロフィール

金尾滋史(かなお・しげふみ)
滋賀県立琵琶湖博物館 主任学芸員

1980年、広島県生まれ。滋賀県立大学環境科学部、同大学院環境科学研究科、多賀町立博物館学芸員を経て、2011年より現職。博士(環境科学)。専門は水族繁殖学、魚類保全生態学で、主な研究テーマは水田地帯を利用する魚類の生態と保全、地域とともに歩む希少淡水魚の保全、自然史情報集約の場としての博物館の機能など。趣味は写真、鉄道の旅、紅茶など。特技は書道。トレードマークはペンダント。現在、琵琶湖博物館の広報担当でもある。

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