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Vol.2 “ありえない動物”ハオリムシのいる日常 2回目

2017.9.1

 “ありえない動物”ハオリムシのヒミツに迫る本連載。2回目の今回は、ちょっと不思議なハオリムシのからだのつくりと、口がなくても生きていくことができるヒミツを紹介します!
 キーワードは「共生」です。「共生」というと、クマノミとイソギンチャクや、アリとアブラムシなどを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか?このように、異なる生物が密接な関わりをもって生きていることを、「共生」と呼びます。それではハオリムシはどんな生きものと共生しているのか、「棲管」の中をのぞいてみましょう。

 さて、ハオリムシは「鰓」と「殻蓋」だけを棲管から出している、ということは前回もお話をしました。それでは、外から見えない“棲管の中”はどうなっているのでしょうか?棲管はとても細長く伸びていますが、ご想像の通り棲管の中も同様で、とても細長い体が収まっています。
 大きく分けると、鰓のすぐ下にある「ハオリ部」、大部分を占める黒から焦げ茶色の「栄養体部」と、しっぽの部分に少しだけある、筋の入った「後体部」に分かれます。「ハオリ部」は羽織に似ているということで、「ハオリムシ」の名前の由来になりました。「後体部」には、体節と言われる節があり、ハオリムシがゴカイの仲間であることを示す証拠です。そして、「栄養体部」は、今回はキーワード「共生」に関わる、ハオリムシの一番面白い部分です。

 「栄養体部」にはとても他の生きものがいるようには見えませんが、ここではれっきとした共生が成り立っています。というのも、ハオリムシの共生相手は目に見えないほど小さい「バクテリア」なのです。外から見て黒く見える部分は無数の「栄養体」という袋からなり、“他の生物である”バクテリアはその袋の中にすんでいます。
 私たち人間も腸内細菌のようなバクテリアに消化を助けてもらったりしています。しかし、ハオリムシとハオリムシの共生バクテリアは、腸内細菌などとは根本的に異なる共生関係を営んでいるのです。

 まず注目すべき点、実はこのハオリムシと共生するバクテリアは、植物と同じように、「栄養」を作り出せるというところです。前回、ハオリムシは他の生物が寄り付けない硫化水素という毒がたくさんある海底温泉周辺にすんでいるという話をしました。ハオリムシの中に共生しているバクテリアは、植物が光を使ってそうするように、その毒からエネルギーを取り出し、水の中の二酸化炭素を材料にして栄養を作っています。
 そして、次に注目すべき点は、このハオリムシと共生するバクテリアが体の内側にすんでいる、というところです。私たちの胃や腸も体の内側のように思えますが、よくよく考えると、口から続く穴の一部で、体の外側です。そもそもハオリムシには口も消化管もないということを覚えているでしょうか?つまり、共生バクテリアがすむ袋「栄養体」は体の内側にあるのです。「内側にある」というのは生物学的にとても興味深いのですが、その話はまたの機会にしましょう。

 さて、これをまとめると、ハオリムシは体の外から取り込んだ硫化水素や二酸化炭素を体の内側に共生させるバクテリアに与え、そのバクテリアがつくる栄養をもらって生きている、ということになります。ハオリムシに口がなくても生きていくことができるヒミツはここにあったのです。
 ますます“ありえない”生き方をしている動物ということがお分かりいただけたでしょうか?

 ハオリムシ。ここまで話を聞いたらちょっとは興味を持てるかもしれませんが、地味な外観からなかなかお客様に興味を持ってもらえません。そこで次回は、ちょっと趣向を変えて、ハオリムシに興味を持ってもらうべく、どんな展示をしているか、ご紹介しましょう。

著者プロフィール

八巻 鮎太(やまき・あゆた)

1984年神奈川県生まれ。北里大学水産学部卒業。広島大学大学院博士課程後期単位取得退学。
2012年よりかごしま水族館で勤務。魚類、無脊椎動物の担当。
学生時代はハオリムシの生態について研究。現在は他機関との共同研究を進めながら、ハオリムシの普及と知名度向上に努める。趣味は岩登り。

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