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Vol.39 動物を使ったエンターテインメント

2017.3.14

この写真は、今年の2月18日に、ラオス人民民主共和国(以下、ラオス)のサイニャブリー県で行われた「ゾウ祭り」の開会式の様子です。ゾウ祭りと書かれた横断幕を2頭の立派なオスゾウが鼻で持って入場してきます。その奥には、「王様」役の人が、これも立派なゾウに乗って続きました。

京都市動物園は、2013年にラオス天然資源環境省森林資源管理局と「ゾウの繁殖プロジェクト」(以下、プロジェクト)の覚書を交わし、ラオスから京都市動物園に子ゾウ4頭が寄贈され、協同してアジアゾウの繁殖を目指すことになりました。この覚書では、プロジェクトには、繁殖に関連した研究を進めることや、互いの国を訪問し合い、友好を深めるとともに相手国の現状を確認することも含まれています。この覚書に基づき、これまで2回、ラオスよりゾウの関係者を京都へ招き、京都からもラオスへ訪問しています。昨年に続いて、ゾウ祭りのこの時期に、子ゾウたちの故郷であるサイニャブリー県に訪問することになりました。

 先頭のゾウに続いて、続々とゾウたちの行進は続きます。今年はサイニャブリー県内から68頭のゾウが集まりました。私は昨年も来ることができたので2回目になるのですが、68頭ものゾウが一か所にいることは、日本では考えられないことで、その迫力には圧倒されました。さすがは「100万頭のゾウの国」と呼ばれたラオスです。

 しかし、そんなラオスでも近年はゾウの数は野生と飼育下ともに減少しており、ほとんどのラオス人にとっては、ゾウはめったに見ることができない動物になっています。そのためでしょうか、今年の「ゾウ祭り」には主催者発表でのべ10万人が集まったそうです。外国人の観光客も多かったのですが、地元の人らしき人が圧倒的に多数でした。ゾウの国ラオスの人にとってすら、ゾウはめったに見れない動物になっているようです。

観客用のスペースに納まりきらず、後から後からゾウを見るために入ってくる群集。

さて、開会式は68頭のゾウが勢ぞろいし、代表のゾウが前に進み出てお坊さんの祝福を受けるとさらに盛り上がりを増します。ゾウ祭りの主催者が並ぶメインステージには、ラオス首相とサイニャブリー県知事を中心に、国務大臣や国会議員なども並び、国内での注目度の高さもわかりました。

この後、今年の企画として、ゾウたちのさまざまなアトラクションが始まります。

ゾウの駆けっこ競争

ゾウのペナルティーキック合戦

ゾウのお絵かき

当日はあまりの多くの人で満足に撮影ができなかったので、前日のリハーサルの写真ですが、そのときでも本番さながらに進行していました。首相を迎えるセレモニーのメイン・アトラクションとして、主催者側の真剣さがわかります。

ゾウ祭りは2月19日の「ゾウのビューティ・コンテスト」表彰式をもって、終了しました。表彰式の後は、会場内でゾウたちのためにしつらえられた、「ビュッフェ会場」で、おなかいっぱいランチを食べていました。

今回のゾウ祭りの主催者の、サイニャブリー県副知事のニャンニョンさんと一緒に。

昨年はじめてこちらでお会いし、夏には京都にお招きしました。そのような縁もあり、ゾウ祭りの期間中、県のスタッフの方にはたいへん細やかな心遣いをしていただきました。心よりの感謝を申し上げます。

さてこのような盛り上がりの中で、渋い顔をしている方と再会しました。
サイニャブリー県にあるElephant Conservation Center(ECC)のセバスチアンさんです。

昨年はじめてこちらでお会いし、夏には京都にお招きしました。そのような縁もあり、ゾウ祭りの期間中、県のスタッフの方にはたいへん細やかな心遣いをしていただきました。心よりの感謝を申し上げます。

さてこのような盛り上がりの中で、渋い顔をしている方と再会しました。
サイニャブリー県にあるElephant Conservation Center(ECC)のセバスチアンさんです。

 ラオスはゾウがいる国です。昔から、ゾウを飼う文化を持っていて、人間の中にゾウがいた国です。その国では、ゾウ祭りのような演出も肯定できるのかもしれません。

 一方、本来ゾウのいない日本で、動物園でゾウ祭りのような演出は、もはや肯定される時代ではないでしょう。たしかに、ゾウや類人猿などを園芸ショーに使っていた時代はありました。その当時はたいへんな人気だったというし、おそらく今でも一般の方には喜ばれるかもしれません。集客の効果もあるでしょう。
 しかし、現代の動物園は、野生動物保全の役割を担い、そのための環境教育や野生動物に関する教育を行う施設としての役割を担うことが求められています。その時代に、エンターテインメントのために動物を消費するような扱いは許されるべきではありません。
 そのような複雑な思いを胸に、日本に帰ってきた2月24日に、京都大学では第2回「水族館大学」として、下記のテーマでシンポジウムが開かれていました。午後からの参加になりましたが、話を聞いて、いろいろと思うことがありました。そのまとめのセッションで司会の方が、このようなテーマでの議論を、タブーではなく正面から取り上げられたことが第一の成果だ、とおっしゃったのを聞き、まだまだ長い道のりの途上に立つ自分を感じたのでした。

*本稿で紹介した活動は、京都信用金庫および洛中ロータリー・クラブによる支援をうけて行われている「ゾウの繁殖プロジェクト」の取り組みの一部です。

著者プロフィール

田中正之 (たなか・まさゆき)

京都市動物園 生き物・学び・研究センター長
学位: 博士(理学)
著書: 田中正之「生まれ変わる動物園 -その新しい役割と楽しみ方-」化学同人選書(2013年)

1968年 神戸市生まれ(子どもの頃行った動物園は王子動物園)
1991年 大阪大学人間科学部卒業
  京都大学霊長類研究所の大学院[理学研究科霊長類学専攻(当時)]入学
1995年 同専攻博士後期課程中退。
    (財)東京都老人総合研究所に就職(東京都の職員でした)
1997年から 京都大学霊長類研究所 思考言語分野助手
2008年から 京都大学野生動物研究センター 比較認知研究部門准教授
2013年から 現職

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