当園では現在、メアリー(メス、推定55歳)、ベン(オス、推定32歳)、そして花子(メス、推定32歳)の3頭のアフリカゾウを飼育しています。花子は2018年10月にベンとの繁殖のため秋田市大森山動物園からやってきました。反対に、当園からはリリー(メス、推定32歳)が秋田に移動しました。今回は、3頭の中で国内最大級の大きさであるベンについてご紹介します。
ベンが当園にやってきたのは1990年8月。推定1歳の時に南アフリカ共和国にあるクルーガー国立公園からリリーと共に来園しました。まだ体も大人の背丈ほどと小さく、輸送には飛行機を使用したそうです。当園に来たベンとリリーは、20年以上運動場でいつも一緒に過ごし、夜は寝室で互いに隣り合って生活を送ってきました。年を重ねるごとにベンとリリーの体格差は大きくなり、来園当初400㎏程度だったベンの体重は日に日に増え(2021年4月末現在7.2t)、成熟したオスゾウにみられるムストという生理現象も確認されるようになりました。しかしベンとリリーは、仲はいいのですが、繁殖適齢期に入っても交尾行動が観察されることはありませんでした。
その現状を踏まえて、当園は希少種であるアフリカゾウの種の保存のため、海外で成功が報告されているゾウの人工授精について検討し、2008年11月より取り組みを開始しました。まず人工授精の第一段階として、オスから精液を採取する必要がありました。そこで、毎日ゾウの馴致トレーニングを行っていることから、このトレーニングの一環で採精の試みを開始しました。ゾウの場合、射精させるためには、肛門から手を入れ直腸壁から前立腺周囲をマッサージして刺激します。トレーニングは、肛門に手を入れることをベンに許容してもらう所から始まり、作業者が安全に採精できるようゾウの足を前後2点で繋留し、少しずつ慣れてもらうよう段階的に根気よく実施しました。
その結果、2009年11月に国内初の採精に成功することができました。その後も何度も採精に成功しましたが、課題も多々ありました。採精できても、精液性状がよくなく、人工授精に使用可能な精液の保管技術も現在、研究段階です。人工授精という最終目標まではまだまだたくさんのハードルがありますが、北海道大学獣医学部の協力をいただきながら、1つ1つの課題をクリアし、希少なアフリカゾウの繁殖につながっていけばと思っています。次回は、この取り組みの苦労話をご紹介します。お楽しみに。

アフリカゾウのベン

毎日実施している馴致トレーニング
(耳から採血)

採精マッサージを行っているところ