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Vol.6 スマトラトラの繁殖に向けた取り組み

2021.11.23

 インドネシアのスマトラ島に生息するスマトラトラは、野生下に300頭ほどしか生息していません。飼育下の個体数は国外には400頭ほど。国内の動物園での飼育頭数は現在18頭で、繁殖への取り組みが重要となっています。
 当園では現在ケアヒ、バユ、アオの3頭のスマトラトラを飼育していて、オスのケアヒとメスのバユのペアで繁殖を目指しています。このペアの間には2012年、2013年、2019年に仔が誕生し、5頭が成育しました。このうち4頭が、他園館に移動し、それぞれの場所で繁殖を目指しています。

2019年に誕生したオスのアオ

2021年3月、バユに発情の兆候が見られました。バユは発情がくると①鳴く回数の増加 ②ケアヒと鳴き合うようになる ③寝室の扉を激しくたたく といった行動の変化が見られます。バユはこのとき14歳(2021年3月)で、発情の兆候がわかりにくくなってきており、発情を正確に捉えるためには毎日の観察が重要です。

チェックシートで発情兆候を記録

バユに発情の兆候が見られてから、ケアヒと柵越しにお見合いさせ、3月26日に同居させました。すると、展示場に出てすぐに交尾が見られました。4日間で、合計52回のマウントがあり、そのうち41回の交尾を確認しました。2013年の妊娠時の交尾回数と比べると、やや少なめでした。

ケアヒとバユの交尾の様子

バユは日常的に糞を採取し、大学で糞中ホルモン値を測定していただき、ホルモン動態を把握しています。ネコ科の動物は妊娠時と偽妊娠時でプロジェステロン分泌期間に違いがあり、トラが妊娠している場合は交尾後65日程度の糞中プロジェステロン値を見て妊娠しているかどうか診断を行うことができます。
今回の交尾後もホルモンの上昇はないか期待していましたが、残念ながら上昇は見られず、さらにバユの性周期がストップしてしまったことが分かりました。年齢的なものが要因であると考えられます。
繁殖はバユの仔の世代に引き継がれていくということになりそうですが、当園では同居の実施以外に、繁殖への取り組みとして、大学と協力してオスのケアヒの採精を実施しています。

ケアヒの採精の様子

精子の性状を確認するとともに、凍結保存ができるかどうか試しました。この取り組みで、スマトラトラ保全のために有益な情報を得ることができました。飼育下でも個体数の少ないスマトラトラですが、得られた情報をもとに、未来につなげていきたいです。

著者プロフィール

山﨑 槙(やまざき まき)

1991年長野県出身。
2014年から仙台市八木山動物公園で勤務。
スマトラトラ、ライオン、ホッキョクグマ、類人猿、タヌキ、イノシシなどを担当。

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