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森をおびやかすものたち

2011.12.12

師走に入り、何かと慌しい時期になってきました。2011年も残すところあとわずかです。 今回は、やんばるの森で起こっている、ヤンバルクイナをとりまく現状と 問題点について、お伝えしていこうと思います。

飛翔能力を持つ鳥類は、翼をはばたかせることで、空中に浮かぶ力を得ることができます。その翼を動かすための原動力となるのは、胸部にある 分厚い筋肉(胸筋)です。一般的に 鳥類では、胸筋が発達しており、体重の 15~25%を占めるといわれています。

ヤンバルクイナ (一見 翼がないかのような 容姿)

しかしながら、ヤンバルクイナにおいては、 この胸筋が薄く あまり発達していません。
また両方の翼は、外見上目立たず、体躯に張り付いているかのようです。実際に翼を動かす時は、とまり木にとびあがる際、あるいは とびおりる際に、左右のバランスをとるために、小さな翼を一生懸命にはばたかせます。
解剖学的にみても 飛翔に適していないヤンバルクイナですが、飛べないかわりに、 肢が太く、脚力が非常に発達しているため、とても俊敏に地表を駆けることができます。

 

 

近年において、とても残念なことに、このヤンバルクイナが、自動車により轢かれてしまう事例が多く報告されているのです。

県道沿いに設置されている 道路標識

やんばるの森では、毎年春先になると、どこからともなく、「キキキキッー」と甲高い鳴き声が 聞こえてきます。 3月から6月頃にかけては、繁殖期および育雛の時期となり、ヤンバルクイナが、ペアとなる相手を求め、あるいは雛の餌をいそいそと探しまわるため、次第に行動圏が広がります。これに伴い、交通事故に遭遇してしまうリスクが増えてくるものと考えられています。

 

 

 

 

ここ数年は、交通事故確認件数が、年間およそ 20件から 30件前後も発生しています。

とりわけ、今年は現時点で 36件も報告されており( 2011年 11月 現在 環境省)、例年にない、最悪の記録を更新している状況なのです。

県道の下をくぐる 通り道(アンダーパス)

道路沿いの排水溝に整備された 脱出用スロープ

これらの事故のうち、残念ながらすでに死亡してしまった後に発見、通報された事例が多く含まれます。運転手側からすると、路肩から駆け出してくるヤンバルクイナが、突然視界に現れるため、スピードを出していると、ブレーキをかけても 間に合わない場合が多いのです。

交通事故で 犠牲となった ヤンバルクイナ

このような現状を受けて、環境省や県など行政機関では、ヤンバルクイナの交通事故を未然に防止していくため、道路の改善、補修事業や注意喚起を促す啓発活動など、さまざまな取り組みが行なわれています。

私たち一人ひとりの、交通事故に対する意識と心遣いが、ヤンバルクイナにとって安心して暮らせる森を はぐくむことになるのです。

ヤンバルクイナ 交通事故(ロードキル) 防止キャンペーン 〔環境省主催〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

追伸
やんばるの森に 道路が整備されて、自動車が頻繁に 往来するようになるまで、ヤンバルクイナは、きっと森一番の俊足で、自由に駆け回っていたことだと思います。
交通事故の原因は、そもそもどこにあるのでしょう。 突然、道路にとびだしてくるヤンバルクイナ自身でしょうか。 それとも、そのヤンバルクイナの棲む森に、あとから道路をつくった、私たち人間なのでしょうか。

著者プロフィール

伊東 孝(いとう たかし)

福岡県生まれ。大学卒業後より2014年まで、名護自然動植物公園(ネオパークオキナワ)に勤務する。獣医師。

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