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Vol.11 雲上の奇跡を振り返り

2022.1.10

 早いもので、もう年末になってしまいました。この時期は無意識にいろいろ振り返ってみることが多いものです。特に一年を振り返って、あんな事こんな事があったなと思い出す事が多いものです。

今年最後に見つけたライチョウです。この時一番視界が良かったのですが、直ぐに濃霧で視界が奪われました。しかし彼らの野性味を感じる日でもありました。

 さて、今年はどうだったかなと振り返ると、結構ライチョウに会いに山に登ったなと第一に思う。数えてないですが10回位は登ったかもしれない。ライチョウを撮り出して36年経過しているのですが、自分は昔から撮影回数も撮影カット数も世界一少ない写真家だと思っていて、今年10回も山に登ったのは、一番勢力的に撮影していた頃に匹敵するくらいのレベルなのです。それプラス、大町の山岳博物館や富山のファミリーパークの下界組ライチョウを撮りに5回位は撮影に出向いています。となるともう往年の撮影ピーク時を超えるように精力的に動いたのかもしれません。かつてはのらりくらり(気持ちはかなり燃えていましたが)、年に数回の撮影を継続して撮影カットを積んでいたのですが、それでもその結果、幾つかの出版に携わり、写真展も全国でやってきたものですが、今年みたいにこんなに精力的にやっていたら、また出版や写真展出来る?なんて自分に訊いてみてしまいます。いや、あくまでそれくらい今年はやってきたなと思うという事なのですがね。

富山市ファミリーパークの”小松菜雷鳥”。
彼はどんな様子で好物の小松菜を毎日食べるのか(笑)顔全体が小松菜染めをしています。

 今年の山の上での出来事や思い出なども振り返ると、色々と思い出されるのですが、36年丸ごと振り返るようなエピソードが最近ありまして、それを紹介させて頂こうと思います。自分はネットでライチョウのサイトを開設し、その中でオンラインショップも開き、自分の書籍や写真、グッズなども販売しています。そこではライチョウの為のチャリティー販売をしているのですが、でも今回はそのチャリティーそのものの話ではないのです。
 ネットショップに関してお問合せを頂いたのです。ネットショップでは、左右2面あるフレームに写真を収めた「卓上写真」というものも数種類ご用意し、販売させて頂いているのですが、すでに写真の絵柄が決められた既存の商品ではなくて、自分の好きな写真を選んで買いたいとのことでした。その他にも、オンラインショップには出ていないが、サイトの中に好きな写真があり、それも別途欲しいとのことでした。実はこのような相談はすごく嬉しいものなのです。本当に必要としてお買い上げ頂けるのと、興味をもって頂いたものがどんな写真かが見えますし、それをダイレクトに販売出来て喜んでいただけるのは、写真家にとってすごく幸せな事だからです。
 それで、その特注を頂いたのですが、その選んで頂いた3枚の写真はどれも過去の撮影においてすごく印象的で、今でも撮影時の事はしっかり思い出される写真だったのです。一枚はどうしても夕景の情景と共に撮りたいと願っていて初めて撮れた時の春山でのカットでした。これは、本当に精力的に撮影していた頃で、その夕景をバックにライチョウがいるのを見た時は、めちゃくちゃ興奮していたと思います。もう手が震えて、「落ち着け、落ち着け」と自分を冷静にするのが必至なのと同時に、逆に必死に撮影もするという、相反する心境の中での時間を過ごしたと、今でも思い出されます。こういうのは過去何度かあるものですが、「これ撮り逃すようなら写真やめろ」的な、撮った後でも高揚感がピークに達してなんとも表現しがたい心理状態になるような状況です。

撮りたかったシーンが目に前に現れて興奮したのを今なおはっきり覚えている。

 また、他に選んで頂いた写真もそういった状況での写真を選ばれていました。その時はというと、ちょうどTV番組のロケでの撮影中でした。テレビクルーは、私が実際にライチョウを撮影している様子を撮影するためのロケでした。ただ、本当に私がライチョウを撮影できるかどうかは全く関係ないのです。私がライチョウを撮影しているシーンであればそれでいいのですから。しかし、そんな時に大問題が訪れました。TVクルーと私の間の位置関係にライチョウ親子がいるような状況でした。私はロケで撮られる立場でしたからライチョウの写真を撮らねばならないわけでは無い状況でしたが、なんとその時に「これ逃したら写真やめろ」的な事がライチョウ親子の動きに現れようとしていました。活字にするとしばらくの時間中の出来事のように感じるかも知れませんが、たった数秒の出来事でした。ライチョウ親子の真後ろにはデレクターとカメラマンと音声さんが立ちはだかっています。とても私が撮影してもモノにならない状況です。しかし、ライチョウ親子は大きなシーンを作り出そうとしています。「なんてこった、なんでこんな時にカメラクルーが目の前に立ちはだかっているのだ」こんな心境です。しかし、どうしようもない。ロケなのだから。それでも私的には「撮れないならばもう写真やめろ」っていうような状況で、真剣にカメラクルーに向かって「そこ、どいて!」と声を押えながら叫びそうになったのです。いや、真剣に叫びたかった。もはやロケはどうでもよい状況。本当に絶望の状況です。やはりロケだから仕方がない、でもどうする?諦めるしかないか?「そこ邪魔だから!」口には出さずとも叫んだ状況です。でもアーメンな状況でしたが瞬間、クルーの位置が変わったのでした。結果、そのおかげでどうにもならない状況の中で、一つの作品が生まれたのでした。ほんと数秒レベルの出来事だったのです。説明が長くなりましたが、そのような撮影だった時の写真を選ばれていました。

大きなお母さんに背伸びしてでも顔を見つめる一瞬の姿が印象的でかわいい。

 そして、選んで頂いた3枚のうち最後もう一枚。これも奇跡の撮影時でした。こんな事起きるの?という状況でした。広角レンズで背景とライチョウを撮りたいと思っていましたが、それは簡単ではありません。ライチョウにある程度近づこうとしても、どうしても一定の距離は出来てしまうものです。そんな時ライチョウが一羽、広角レンズを構えた私の目の前、いやカメラレンズの前に向かってくるではありませんか?そして、私のカメラレンズの前で動きを止めたのです。こんなのは自分から接近しようとも不可能なレベルです。動きを止めたのは良いのですが、そこで今度は落ち着いてしったようです。最初は私の存在をあまり気にしなかったのでしょうが、結果的に人とカメラの真ん前にいることを理解して、近すぎることも理解して固まったのかも知れません。それくらい動かなかったのです。いや、本当に私の存在を気にせず自らやって来ただけならばそれでいいのですが。どうも彼らは何を考えているのかわからない時がありますが、そんな出来事の時に撮影した写真を選んで頂いていたのでした。

カメラのレンズの真正面に歩いてきて動かなくなった。きっとハイマツがあるので安心したのでしょうか。

 選んで頂いた3枚の写真ですが、これまでライチョウを撮り出して36年ですが、どれも印象的で、自分自身でその3枚を眺めた時にとても懐かしくこれまでを振り返るきっかけにもなったのです。さらにご注文頂いたのは過去の2冊の本でした。その2冊と写真フレームと3枚の写真を段ボールに梱包したとき、妙な感慨深さがありました。この箱の中にこれまでの人生を凝縮して閉じたような感覚を味わいました。
 もう年末、いつも月末に原稿を書いてしまうので、コラムを読まれるのは新年かもしれませんが何かと振り返る機会が多い時期だなと思います。でもよく考えたら、まだまだ人生を凝縮して段ボールに詰めて感慨に更けるには早そうです。それに、やらねばならないこともありますし、もっとライチョウも撮りたいのです。この調子なら、これからまだ幾つ思い出を詰める段ボールが必要なのかわかりませんね。

著者プロフィール

森勝彦(もり・かつひこ) 雷鳥写真家

22歳でライチョウに魅せられて以後断続的にライチョウを撮影する。
発表媒体は写真集・TV・新聞・雑誌など幅広い。
写真展は過去20か所以上全国規模で開催。
書籍等では、奇跡の鳥ライチョウ(山と溪谷社)・ライチョウ愛情物語~ぼく、負けないよ~(パレード)日本の天然記念物ライチョウ(小学館)などで発表。

HP:ライチョウの小屋
https://www.raicyo-lodge.com/

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