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Vol.13 ライチョウ背負って

2022.4.13

 春本番となり、この冬を振り返ると10回も雪山を登っていました。ただ、それ自体は登山や雪山登山などと説明しやすく、特に変わったことでは無いのです。でもその目的となると案外珍しいことで、万人に一言で説明するのは難しいと思っています。
 もう35年以上ライチョウを撮ってきています。この絶滅が心配されている鳥ですが、最近になって多少知名度が出てきたといえども、やはりマイナー感はぬぐえてないです。自分が初めて撮り出した35年以上前は、ライチョウと言ってもそれを理解できる人は登山経験者くらいで、それ以外の一般の方にはほぼ理解不能だったと思います。

こんな仕草で見つめてくるのは反則です(笑)ストレートに可愛い過ぎです。

 以前、都市部で良く写真展を開催したことがあったのですが、ほとんど多くの人々は「なんて鳥?」「どこにいるの?」って感じで、色々説明しても「へ~そうなの」ってくらいで未知の生物そのものでした。それくらいに知名度無い鳥は、実は昔から絶滅が心配されて来ていたのでした。
 続けて古い話になるのですが、かつては生き物を動物園以外で撮ることも珍しい時代だったと思います。そんなわけで、ライチョウを撮ることも特種であり、人に説明するのは大変なことも。
 山に向かうと、山で出会う他の他山者とすれ違いの際に会話することも多々あり、会話の中で「ライチョウを撮りに来たのです」と話すこともあります。しかし、それが正しく理解されないことが多くて、ライチョウを獲りに来たのかと勘違いされることも何度かありました。そうなると、昔は食べていたという話題や、「美味しいらしいね」などとショッキングな言葉が飛び出したものです。まあ、「ライチョウをとりにきた」という説明の仕方は適切でなく誤解されたものですが、いや捕まえるのではなく写真撮影です。と続けるものの「へ~」なんてあんまり理解されないことも。かつてはそんな時代だったのです。

雪を食べて水分補給。かなり一生懸命に食べていました。

今でこそ、動物園でライチョウを見ることも出来て、その魅力も広まりつつありますから、かつての状況とは随分違っています。ライチョウの知名度も上がり、ライチョウを撮ることも不思議がられることは無くなりました。でも、保護という面では、かなり知名度が低く厳しさもあります。万人が認識しやすいトキやコウノトリとは違い、まだまだ国民的愛鳥や保護鳥に向かうには熱量が乏しいのは事実。
 話は最初に戻り、この冬いくつもの山を歩いて登ったりしていたのですが、なぜか良く声を掛けられました。変な装備で登ることだけは避けたいタイプなので、割と見た目は冬山のエキスパートに見えるのでしょうか。絶対に自分より経験も実力もありそうな登山者も同類レベルに感じてか、親しげに話し掛けてくれたりします。そうでない方からもよほど凄く見られるのか? 「あの山に登るのですか」とか「頂上までですか」などなど。でも、そんなハードな行動はしないのです。目的はライチョウ撮りなので頂上は目的でなく、自分に高度な登山スキルも無いのです。ただ、ライチョウの撮影にはもちろん自信を持っていますがね。
 そんなこんなで、聞かれたときに説明するのがやや面倒なのです。「頂上は行かないし、登山目的でない」と説明すると、これがまた理解されずに不思議がられます。もう少し、詳しくライチョウを撮りにと説明しても良いのだろうが、説明はもっと複雑になりそうで。だから適当に答えるのです。きっと不思議でしょうね、この男はいったい何をしにと。ただ、最近自分はザックにいくつもライチョウ関連グッズを付けているので、ライチョウが分かる人には察しがつくかも。

オオシラビソの根元に多数の糞。塒にしていたのでしょうか?樹木の根元が本当に好きなようですね。

 そうそう、西穂高で私の使う装備のアイゼンについて若い女性から色々と話しかけて頂いたこともありました。私の年代もののアイゼンが珍しく、なぜか冬山のベテランに見えたのかもしれません。ものすごく関心ありげに話しかけてくれたのですが、嬉しい勘違いで、自分ははったりになってしまします(笑)。上手く説明できず、「古いものだけど、使ってなくて綺麗でしょ」「ライチョウを撮るために登るので」と自分は答えたのです。でもこの説明で何を伝えられたでしょうか。綺麗な年代もののアイゼンとライチョウとどんな関係があるというのか、自分でも理解できないことを話していて、きっと疲労と共に脳に酸素が回っていなかったのでしょう。不思議な人と出会ったなあと思われたでしょうね。
 このように山で自分を説明できないタイプ、これからは「ライチョウと我が人生を背負って登っています!」って一言だけ言えば伝わりますかね。

もたもたしていると季節はどんどん進みます。冬季は標高を落として樹林帯で生活していた彼等も、これからは標高の高い稜線付近に生活の場を戻していきます。

著者プロフィール

森勝彦(もり・かつひこ) 写真家

22歳でライチョウに魅せられて以後断続的にライチョウを撮影する。
発表媒体は写真集・TV・新聞・雑誌など幅広い。
写真展は過去20か所以上全国規模で開催。
書籍等では、奇跡の鳥ライチョウ(山と溪谷社)・ライチョウ愛情物語~ぼく、負けないよ~(パレード)日本の天然記念物ライチョウ(小学館)などで発表。

HP:ライチョウの小屋
https://www.raicyo-lodge.com/

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