7月は雛のシーズンと言って良いでしょう。ぴよぴよと元気に走り回る姿は微笑ましいものだが、ライチョウの雛はそれだけでなく、実に凛々しく逞しく力強いのです。
![](http://www.doubutsu-no-kuni.net/wp/wp-content/uploads/2024/07/1-5.jpg)
小さくて常に走りまわるイメージは可愛さばかりですが、案外逞しく凛々しいのです。
ライチョウが生まれてくる時期は,山域や営巣場所によっても違いは出てきます。雪解けが遅いエリアでの営巣場所であれば、誕生は遅めとなります。雪解けが遅いという事は、るライチョウにとっては植物が芽吹いたばかりの場所では、雛も十分な餌を採れなくなってしまいます。そのために、餌となる高山植物の成長具合と雛の誕生時期は紐付いていると言っていいでしょう。
今年の私が気に掛けるエリアの5月から6月にかけての雪解けなどを見ると、どうもいつもより誕生は遅いと予想していました。また、6月誕生は無いかなと思っていたのですが、どうやらそのエリアでのヒナの誕生確認は7月に入ってからのようでした。7月上旬にライチョウに会いに山に入ろうと思っていたのですが、丁度梅雨末期の大雨予想がずっと続いており、その天気予報を見たときに、わざわざ、山に向かうのは得策でもないかなと直感したのです。なぜなら、ヒナの誕生は少なくとも早くはないと予想していたので、下手すると、雛が誕生前で見られないなどの事態が起きかねないとも思えたからです。それで、悪天候だからと自分に言い聞かせ中止にし、山に向かうのを1週間遅らせました。
![](http://www.doubutsu-no-kuni.net/wp/wp-content/uploads/2024/07/2-3.jpg)
ライチョウの雛は高山植物が咲きそろう頃産まれてくる。自分も好きなハクサンイチゲ。
さて山に入って感じたのですが、人通りの多いエリアのライチョウは明らかに警戒心が強いのです。それはライチョウの生息密度とは関係なく、行動の違いに現れます。要するに彼らの警戒心次第で、ライチョウの遭遇の度合いが変わるのです。
それはさておき、目的のエリアではすぐにライチョウに出会うことが出来ました。誕生からさほど日が経ってない様子で、7月上旬であれば、誕生前で出会えなかったと思われるので、勘と経験が役に立ったのですが、それよりもっと驚きのシーンがありました。
ライチョウは雌が抱卵している間は、雄が一日中見張りに立ちます。しかし、雛が誕生するとほとんどの場合雄は単独行動をして、メスや雛とは行動を共にしないのです。ただ、今回は雄と雌と雛が共に行動している光景を見ることが出来ました。実は以前も雄が雛と行動する様子を見た事があるが、今回雛が雄のすぐ後ろを歩いていく光景もみて、あらためていい光景だなと感じたものですが、彼らの心境はどうだったかは我々にはわからないのです。しかし、それぞれ互いに警戒や排除する様子はなかったので、それは少し安堵でした。雄が基本的に子育てやその行動に関与しないのは、生物学的には何らかの理由は付くかもしれません。しかし、わたしは彼らの心理面に物凄く興味があります。共に行動しないその心理はとか、稀に雄が雛と行動するときのその心理面です。雛はお父さんをどう認識するかとか、雌は特に雄とは春から連れ添った関係ですが、雛のそばに出てくるはずないと思っていた雄が現れて来た時に雌は何を思うのだろう、などなどです。
![](http://www.doubutsu-no-kuni.net/wp/wp-content/uploads/2024/07/3-3.jpg)
雛が産まれても基本は雛の近くには姿を見せずにいる雄だが、この日はお父さん、お母さん、雛といった家族の姿を見せてくれた。
心理面は定かではないが、通常雛とは接しないだけに、共にそばにいる雛に雄が子育て的に関与している様子は全くなく、これで、何らかの関与があるならば生態的科学的に捉えるべきでしょうが、何の関与も無いとなると、何となく行動を共にしたとなるでしょう。しかし、世帯より心理面に興味が湧く自分には、どんな気持ちで行動を共にしているかが気になって仕方ないのでした。そこで、何となく我々と重ね合わせてしまったのですが、これはあくまで個人的感覚なのでご容赦願います。もちろん雄は雛に対して何の関与も見せなかったのですが、なんだか雄に家族的意識があったらおもしろいなと思うのです。そういえば最近は我々も父親も積極的に子育てに参加するのが当然の世の中になっていますよね。ライチョウにはやはりその意識はないでしょうが、何か気になってしょうがないのでした。
![](http://www.doubutsu-no-kuni.net/wp/wp-content/uploads/2024/07/4-2.jpg)
もしや雛をつつくのではという迫力で雛に怒るお母さん。やや引き気味ながらも理解しようとする雛。しかし大きなトラブルに発展せずにまた採餌を一緒に始めた。
ところで、タイトルにある雛のことですが、随分話がそれてしまいましたが、とにかくおちゃめで冒険大好きで走り回っています。それでいて、親の言うことはちゃんと理解します。そのあたりは賢いなと思うのです。我々は生まれてきてもすぐに言葉は理解できないのに、ライチョウの雛はちゃんと理解します。お母さんの行動中止!移動開始!は統率が取れているからすごいのです。きっと誕生直後からのしつけが出来ているのでしょう。
そのような中で、ひどく険悪な雰囲気になった場面がありました。お母さんが石の上か隙間の植物か何かをつついていたか食べているようでしたが、そこに雛がやってきて真似をし出したのです。お母さんは雛に譲って、少しの間雛を見ていたのですが、急に険悪な雰囲気になり雛の顔の前まで詰め寄り明らかに何かを怒っているのです。愛情表現で詰め寄ったのではないことは、ヒナが委縮してしまったことからも分かります。これを見て、お母さん雛をつつかないでと思ったものの、心配には及ばすそこまで発展することはなく、再び行動を共にして採餌などを行っていました。
![](http://www.doubutsu-no-kuni.net/wp/wp-content/uploads/2024/07/5-2.jpg)
ライチョウは雛も成鳥もともにお尻が可愛い。
理由は分からないもののお母さんは何らかの理由で怒ったでしょうが、雛も真剣な顔でお母さんの怒りに向き合っていたので、きっとこれで雛も理解して成長出来たのだと思います。
雛も生まれながらに骨格として翼をもっています。日を追うごとに翼も成長しますし、ジャンプするときはちゃんと羽ばたいて見せるのです。そんな姿を見ていると、その翼で力強く生きてくれよと願うばかりでした。日の長い夏の午後、彼らを後にして小屋に向かったのですが、彼ら親子はいつまでも採餌のためにお花畑を歩き回っているのでした。