オーストラリアの内陸部に生息するアカカンガルー。広大な平原で草木を主食とする草食動物です。野生では、母親とその仔を基本とした複数のメスと少数のオスがいる10頭程度の小グループをつくります。また、生まれた群れをはなれたオスがあつまり、オスだけのグループを形成することもあれば、小グループ同士が集い、100頭以上の群れのように行動することもあります。それぞれに明確な縄張りはなく、やんわりとしたまとまりのようです。ライオンの群れは「プライド」と呼ばれることはよく知られていると思いますが、カンガルーやラクダの群れは「モブ」と呼ばれるそうです。
八木山動物公園では、現在2つの群れに分けて飼育管理をしています。一つ目はオス1頭、メス6~7頭で構成されたハレム群、二つ目はそのほかのオス3~4頭とケガなどで治療することが多かったメス2頭(現在は健康)を含めたオス群です。カンガルーは群れの中で最も優位なオスが子孫を残しやすい傾向があります。そのため、ハレム群のオスは、1か月程度で交代制にして、複数のオスに繁殖機会を与えています。また、生まれた子の父親個体をおおよそで把握するため、各オスのハレム期間は、妊娠期間である30~40日間を目安にしています。
さて、「群れの個体を交代する」と説明しましたが、飼育下で「群れ入り」という作業をすると、「群れ」には動物種によってさまざまな性質があることが分かります。
ニホンザルは、群れの中に明確な社会的順位と結束力が存在しています。特に何の配慮もせずに、新しい個体を群れに導入すれば、群れの秩序を乱すものとして、致命的な傷を与えるほどの闘争が起きることも多くあります。さらに、以前群れにいた個体であっても、ケガなどで一定期間群れから離れてしまうと、どの地位にいたかなどは無効化し、簡単に戻ることはできません。柵越しのお見合いのほか、有力個体を隔離排除してのお見合いを重ねる、群れを一時的に小集団に分けてから再度大集団にするなど、さまざまな作戦を練ることで、何とか山の隅っこで過ごすことができるようになることもあれば、うまく群れには入れないこともあります。

威嚇顔のニホンザル
チンパンジーの群れにも、社会的な地位と関係性があり、新しい個体を群れに入れるのにはある程度の期間が必要になります。他の動物と比較して、個体の性格や生まれてからの経験値などの影響が大きく、年齢や個体同士の相性、群れの中で最も優位なオス個体にしっかりとコミュニケーションをとる能力があるかなどを見極める必要があります。無事、群れ入りすると、組み合わせをいろいろ変更したり、時間が経過したりしても、ある程度は安定した関係性が維持されます。
群れでくらす動物では、野生下でも、ある個体が群れから離れたり、他の群れにはいったりすることはあります。性成熟をむかえ、大人の仲間入りをする段階で多く見られ、種によって群れを移動する性別は異なります。飼育下では、自然な流れ以外で、群れの個体を変化させることがあるため、「群れ入り」の際には、群れの性質が顕著に行動にあらわれてくるようです。
では、カンガルーの群れ「モブ」は、どういった集団なのでしょうか。
交代制のハレム群をここ2年間続け、新しい個体の導入もありましたが、アカカンガルーは、群れの個体を入れ替えたところで、パニックになったり、仲間外れのような状況になったりすることはありません。交代した際には、それぞれの群れで、次のような行動がよく見られます。

群れには入ったものの、まだ1頭だけ距離がある「ヤワラ」

お尻を確認するチンパンジー式あいさつ
ハレム群にはいったオスは、積極的にメスへアプローチしていきます。メスを執拗に追いかける追尾ののち、うまくいくとマウント、交尾へと発展していきます。カンガルーは一年中繁殖が可能なので、メスの発情状態により、対象となるメスが変わります。一方、オス群のほうでは、オス同士でボクシングが積極的に行われます。ほぼ毎朝毎夕、ボクシングが行われるため、目的は何なのか不思議に感じるくらいです。野生下では、発情しているメスをめぐって、たたかいが行われるとされています。ボクシングまでしなくとも、相手の体格を見て勝敗が決することもあるようです。2021年生まれの「トコ」と「マリオ」、2022年生まれの「イナホ」(2025年他園へ移動)がそろうと頻度が増すので、年齢の近いオス同士では決着がつかないのか、もしくはトレーニングをしているのかもしれません。また、2頭がたたかいをしていると、もう1頭がそわそわし始めて、徐々に接近してくることもあるため、ボクシングはオスの血が騒ぐ行動のようです。ここ1か月の間に、「トコ」と「マリオ」の間にはやや決着がついたようで、今のオス群メンバーではボクシングを見ることが減りました。

オス群でたたかうカンガルー

マウントを試みるハレム群のカンガルー
一方でハレム群のメスはどんな動きを見せるかというと、オスの追尾からちょっと逃げるようなことはありますが、別のカンガルーを枕にしてゴロゴロしています。オスが変わったところで、何の変化もありません。どのオスがハレム群にいるかによって、くつろぐ際のオスとの距離感が、やや違うような気はしますが、メスの変化なのか、オスのくつろぐ場所によるのかは不明です。
常にまったりと過ごし、「群れ入り」をしたところで、普段の行動を大きく変化させることはないカンガルー。カンガルーの群れをあらわす「モブ」は「統制の取れてない群衆」という意味があります。強い結束力はないものの、群れの個体の変化におおらかで、お互いにほどよい距離感で過ごしているカンガルーの群れの性質を見事にとらえているようです。

やんわりとしたまとまりでくつろぐカンガルー




