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Vol.6 マスト

2012.9.1

哺乳類のほとんどのオスはメスよりも身体が大きく力強いものである。

特にゾウの場合は特別であり飼育管理に神経を使います。

 

 

ゾウはその大きさと強さに加えてマスト(musth)と呼ばれる特別な現象があります。マストという言葉はペルシャ語のmastに由来し「陶酔」を意味します。これは、オスゾウの生理的周期変化を示すものであり、それは個体差によりますが数週間から数カ月に続くことがあります。この時期の男性ホルモンであるテストステロンは通常の数十倍の値の変化が認められます。そして、オスゾウのマスト期の目的は何なのでしょうか?

 

 

現在、マストが現れる意味はあまり解っていないのが事実でしょう。

研究者や現場の飼育担当者は各々の見解はあるのでしょうが、はっきりとした定義付けはできていません。

当園のオスアフリカゾウでは2003年頃より本格的なマストが観察されるようになり、安全面を考慮し準間接飼育に移行しています。

さて、マスト期ではどのような行動が観察されるのでしょうか?

・側頭腺の変化
 側頭腺が腫脹し側頭腺液が分泌される。この液体は強い刺激臭をもつとともに頬から口角、顎まで流れ落ちることもあります。

 

 

・頻尿  包皮からペニスを露出せず排尿を繰り返す。
 継続的に尿が滴り落ち包皮は薄緑色に変色する。
 外部刺激により一時的に多量の尿を放出することもある。

 

 

・攻撃行動
 突如としての苛立ち
 建造物や他のものに激しい攻撃行動を繰り返す。
 飼育担当者の号令に反抗的な行動をとることもある。

 

 

・食欲不振
 粗飼料など採食量に変化が見られ残餌が多くなる。

成獣になる上記のような生理的行動変化が観察され、オスゾウとの接触・直接飼育は難しくなり突発的な事故に発展する可能性が高くなり飼育管理に細心の注意が必要になります。

 

 

 

このようなに、オスゾウにはマストと呼ばれる粗暴になる期間があるため、安全に飼育管理するためには様々な工夫やテクニックを要し施設の改修や維持などが必要となってきます。そのような理由からか日本ではメスゾウを1頭または2頭飼育する園館が多く、オスゾウの飼育頭数は極めて少なくなり、それゆえに日本の長いゾウ飼育の歴史の中で繁殖例は限られています。

 

 

現在では展示目的での単性飼育は推奨されず、繁殖を念頭に置き、番い以上での飼育が望まれ、群れ飼育へ移行を試みています。しかし、環境保全や様々な理由から飼育下の移動や野生からの新規個体の導入が困難になっており、国内においての群れ飼育など繁殖に向けての環境整備もあまり進展してないのが現状である。

しかし、今後もより一層の環境整備を進めるとともに、オスゾウの管理や群れ飼育が可能な飼育環境を整えて、繁殖や保全に向けて努力する事が国内外におけるゾウの保全や福祉につながるものと考えます。

著者プロフィール

椎名修(しいな・おさむ)

1962年3月群馬県出身。
『ばくの動物園日記』に登場する西山登志男さんにあこがれる。
群馬県サファリパーク、姫路セントラルパークにてアフリカゾウの飼育を経験をへて愛媛県とべ動物園に勤務。
ソロモンの指環を求めて現在に至る。

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