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南極へ

2012.1.19

私の南極派遣が決まった頃のこと。「先生、鉄砲は持っていくの?」「え?」「やっぱりシロクマが怖いじゃない。」「それは正式名称、ホッキョクグマのことかな?」「それそれ。南極でホッキョクグマに襲われたら、、、」ここで、彼は何か気がついたようです。しかし、へこたれない彼は、しばしの沈黙の後、「ペンギンを撃って食べたりしないの?」と話題を変えてきました。「食べないよ。食料は全部、持って行くの。」

そう。持って行くのです。鉄砲は持ち込みませんが、「南極への持ち物」という彼の目の付け所はなかなかです。なので今回は持ち物のお話をしたいと思います。

ある日のお昼ご飯 刺身もまるで獲れたてのようにおいしいです

 

あなたなら、1年以上、南極大陸で生活するとしたら何を持って行きますか。1分間、記事を読むのをストップ。持ち物や生活の様子を想像してみてください。歯ブラシは何本?歯磨きは、日焼け止めは…?衣類は心配だし、おやつも欲しい。仕事道具の文房具やパソコン、カメラはどうしよう。壊れたときの予備は?準備をしながら思いました。気軽に買うことができる生活ってすごいことなんですね。


食料庫

で、まず気になる食料。写真は普段の食事の一コマ。意外なほど普通でしょ。乾パンや缶詰ばかり、と思っていたら日本で食べるものとほぼ変わりません。

30名ほどが越冬しますが、そのために30t以上の食料が持ち込まれます。長い越冬生活を元気に過ごすために優秀なコックさんが腕を振るってくれるので、とてもおいしい食事がでます。でも、さすがに新鮮な野菜は不足するので、水耕栽培が行われています。


人工の光による野菜の栽培の様子

 

同じ口に入れるものなのに持って行かないものがあります。それは、水です。周囲は雪だらけですからね、飲み放題、使い放題。と、思っていたら大間違いです。昭和基地では水は「超」がつくほどの貴重品なのです。

 

なぜでしょう?気温が−40℃にもなる南極ではまず雪を溶かさなければなりません。そして溶けた水を精製し、くみ上げて…。雪が蛇口から出てくる水になるまでのすべての段階でエネルギーが必要になってくるのです。そうなるとたくさん、燃料を持って行く必要がありますね。だから水は大変、貴重なものとなるのです。


ここに雪をあつめ溶かして生活用水とします

 

昭和基地では燃料は大きな問題です。発電機を使って電気を起こし、様々な実験装置、観測機器を動かすのに使います。もちろん生活する上でも電気は欠かせません。トラックや雪上車、ヘリコプターにも燃料がいります。


燃料タンクと雪上車

砕氷船「しらせ」に積み込む荷物は食料、燃料だけではありません。研究を進めるための資材。建築資材や車なども運ばなければならないのです。すべてを乗せた「しらせ」は年に1回だけしか昭和基地に行きません。だから、燃料には限りがあります。なので昭和基地では省エネのための工夫がされています。発電機の廃熱を氷を溶かすのに使ったり、風力発電や太陽光発電も取り入れられているのです。エネルギーを大切に使わなきゃ。


南極の太陽光発電のパネルはあなたの近所のパネルと比べると、ずいぶん縦になっているように見えませんか?なぜでしょう?

そうやって苦労して得られた水なんだ、と思いながら入るお風呂は格別です。お湯が少し汚れてても、見ないフリ。食事の時は食べ残しがお皿に残らないように、きれいに食べます。洗い水を減らすためにね。洗濯機の水は精製してない水を使うので、少し泥が混じったりします。だから洗う前よりも少し、茶色くなった様な気もします。すすぎの回数も少なめに。「やだなぁ。」そう思うかもしれません。でも、ちょっとの我慢や工夫で基地での生活が維持されるのです。便利さとか快適さとか、日本で普通にしていた事について少し考えさせられました。

さて、ここまで持って行く話ばかりしました。でも、生活する上ではそれだけじゃダメですよね。ゴミはきちんと分別して持ち帰ります。当然のことですよね。南極大陸を汚したのでは、何をしにいっているのやら判らなくなります。

きちんと日本に持って帰ってから、捨てなきゃ。
あれ?なんか、変じゃない?


ゴミを集めるところ

南極でゴミを捨てることと、日本で捨てることとは何が違うのだろう。もちろん、日本に帰れば、きちんと処理をする様々な専門の施設があります。でも、どこで捨てても、「地球という星の中で」ということには変わりがない様に思えてきます。

そう思うと、燃料のことも気になってきます。昭和基地にもっていける燃料に限りがあるから節約するのでした。でも、地球の地下に埋もれている燃料にも限りがあるのですよね。大きな違いはないのかもしれません。

昭和基地という狭い空間に住むこと。地球という小さな星に住むこと。スケールは違うけれど何だか似ているなぁ。私は正味1ヶ月少しの昭和基地生活でしたが、そんな事を考えたのでした。先ほど、あなたにも昭和基地への持ち物を想像してもらいました。地球という星の事を思い浮かべてからもう一度、想像してみると面白いかもしれませんね。

著者プロフィール

酒井誠至(さかい・せいじ)

東京生まれ
趣味 乗馬
 住宅事情によりペットが飼えなかった反動で、野山の生き物好きになりました。専門的な知識はないけれども、星空を眺めたり野山を散歩したりと自然を感じられる生活を送りたいと思っています。
 北の大地に憧れ北海道立高校の理科教員となり、現在は北海道登別明日(あけび)中等教育学校に勤務しています。
 第52次日本南極地域観測隊夏隊(2010年11月出発)に同行し、見てきたことをこのHPでお伝えしたいと思っています。 

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