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Vol.4 トキの人工育雛

2017.7.8

次々と生まれるヒナを育てる

 トキの人工孵化は転卵や放冷さえしっかり行ない、フランキの設定を誤らなければさほど手のかかるものではありません。しかしそれは嵐の前の静けさなのです。

孵化直後のトキのヒナ 翌日から4時間おきに流動食を与えます

 トキが孵化したその日から、自力採食する60日齢位までは、まさに親代わりになってヒナを育てなければなりません。ヒナが小さいときは一日4回、30日齢を過ぎれば一日3回エサを与えます。小さいヒナには水分の多い流動食を与え、10日齢を過ぎる頃から濃度の高いものに変えていき、さらにドジョウや馬肉人工飼料(馬肉とニンジンとゆで卵と粉末飼料のミンチ)も追加していきます。

先端を加工したシリンジで注意深く給餌していきます

 流動食は馬肉人工飼料に小松菜やペットミルクなどを水とともにミキサーにかけて作ります。流動食は約2~3日分を作り置きしておき、給餌のたびに解凍してシリンジで飲ませます。

ヒナのエサは成長具合に合わせてこまめに作ります

育雛環境も徐々に変わる

 本来は親鳥が温めることでヒナ体温調節がうまくいきますが、人工育雛の場合は人が温度管理をしてやらなければなりません。最初の12日間は育雛器に収容し、半日に0.5℃設定温度を下げていきます。徐々に羽毛が生えてきてヒナが暑がるからです。36度でスタートすると12日齢で25度の室温になるので、室温+保温ヒーターのある中期育雛室に移動します。

10日齢程で立ち上がるようになる

 30日齢を過ぎると終日外気温に耐えられるので、今度は半屋外の後期育雛室に移します。そこでドジョウなどを食べる訓練を行ない、自力採食が確認される60日齢くらいで、親と同じ飼育ケージに移します。

30日齢までは屋内の保温室でそだてる

鳥の繁殖期は大忙し

 ヒナのステージ(成長具合)が揃っていれば同じエサを多めに用意して順番に与えることができますが、ステージがばらばらなヒナが複数いると、それぞれメニューが異なり、育雛場所も異なるので、エサの準備から片付けの完了まで1時間以上かかることもありました。片付けが終わった30分後には次のエサの解凍を始めなければならない時などは目が回りそうになります。ヒナの世話以外の通常の飼育業務(親鳥や他の動物など)もありますので、まさに息をつく暇もない日々が続きます。

30日齢を過ぎれば屋外で水浴びや飲水を覚え、次第にドジョウを食べるようになる

 無防備な鳥のヒナは巣の中にいる期間が短く済むように、急成長してすぐに飛べるようになります。そのためヒナの時期は一日に自分の体重の50~60%ものエサを食べ、ぐんぐん成長します。職員は交代で休みを取りますが、この時期は一日見ないだけで、見違えるほど大きくなってしまいます。そのため、繁殖時期にはできるだけ連休をとらないようにして、ヒナの異変に気付けるように配慮をしています。

苦労の末、人工繁殖は軌道に乗る

 さて、親代わりの飼育職員の奮闘により、無事独り立ちした若鳥は、佐渡トキ保護センターに移送され、野生復帰訓練を受けた後に放鳥されます。いしかわ動物園では2010年から2016年までに自然繁殖を合わせて50羽のヒナを誕生させ、43羽を佐渡トキ保護センターに移送、そのうち30羽が野生復帰しています。

いしかわ動物園で産まれたトキはチャータートラックで佐渡トキ保護センターに移送されます

 野生復帰したトキたちは、環境省を中心にその後が追跡されています。いしかわ動物園生まれのトキも野外で繁殖に参加しており、私たちの苦労が報われていることが実感できます。

野生復帰訓練を受けたトキたちは、佐渡の空に向かって羽ばたきます  写真:環境省

 しかし、放鳥トキのデータが蓄積するにつれ、どうやら人工育雛されたトキよりも、親鳥に自然育雛されたトキのほうが、野外での生存やペアリングに有利であることが分かってきました。また、分散飼育地が増えてきたため、放鳥予定数を超える数が繁殖するようになり、飼育密度が高くなりすぎるといった問題も生じ始めてきています。そのため、量より質を重視する繁殖方針に転換されたのです。こうして分散飼育地ではできるだけ自然育雛に取り組むことになりました。人工育雛とは違い、親鳥に任せる自然育雛はより難易度が高くなります。

つづく

著者プロフィール

野田英樹(のだ・ひでき)

静岡県出身
小学生の頃から熱帯魚や小鳥の繁殖に明け暮れる。
大学では爬虫類に興味を持ち、淡水性カメ類の研究をする。
2004年 金沢大学大学院自然科学研究科博士前期課程修了

2004年よりいしかわ動物園で鳥類の飼育を担当し、トキ受入れに備えた。
2010年からはトキとカメ類の飼育繁殖に取り組んでいる。

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