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Vol.8 トキの破卵対策

2018.4.7

産卵直後の卵が捨てられる

 いしかわ方式の導入で、自然孵化個体を増やすことができてきたのですが、ここにきて新たな問題がでてきました。それは、メスが産卵した直後にオスが卵を捨ててしまう問題です。

 巣の下には落ち葉プール、通称「卵キャッチャー」があるので、巣から落ちてもほとんどの卵は助かるのですが、打ち所が悪いと割れてしまいます。最初の1~2卵を採卵するにしても、採卵というより落ちた卵を回収する、というのが実態でした。

巣台の下には落ち葉プールを設けて、落ちた卵を割れずに救出できるようにしています

 いくらヒナを戻す計画を立てていても、抱卵行動をとってくれないことには自然育雛に切り替えられませんので、対策が必要です。そこで考えたのが、「テグス付き擬卵作戦」です。

 モニタで卵を捨てるオスを観察してみると、メスが産んだ卵をくわえて巣の外に放り捨てています。上手く捨てられずに産座に転がり戻った卵もくわえ直して捨てています。それならば、捨てられないようにしてやろう、ということで、擬卵にテグス(釣り糸)を接着し、反対側の端を巣材に縛り付けておきます。こうすることで「転卵はできるけど巣外放出ができない」という状態を作り出せるのです。

テグスを接着した擬卵。そもそも擬卵は見破って捨てることが多いですが、巣台につながっていれば捨てることができません

 擬卵は見破って捨てるオスも多いのですが、こうしておけば捨てることができず、そのうちあきらめて抱卵を開始します。抱卵が始まってしまえば雌雄とも抱卵モードに入るので、孵化までの間は安心して親に任せておけます。

 この作戦はあくまでも対症療法で、根本的な問題の解決になっていません。自然界ではありえない「産んだ卵をポイポイ捨てる」行動をやめさせなければいけません。そこで今度は卵を捨てさせなくするにはどうすればよいのかを考えました。

 繁殖期のトキを観察していると、オスが巣材を運んできてメスに渡し、それから交尾をするという一連の流れがあることが分かりました。巣材を受け取ったメスは巣を補強していくのですが、それをまたオスが取り上げて引っ張り合っているうちに落としてしまう、という場面が頻繁に観察されました。

 分散飼育開始当初は、卵が落ちないようにプラスチックネットで編んだ巣台を使っていました。そのため大した巣を作らなくても、ほんの少し巣材を運べばそれで十分といった感じだったのですが、ひょっとしてこれが良くないのではないか?と考えました。

プラスチックネットを編んで作った巣台は確かにトキにとっては楽ですが、自分たちで巣を作る過程も繁殖には大切な行動なのかもしれません。

 自然界では当然巣台などありませんから、一から自分たちで巣を作り上げるはずです。巣を作る段階で夫婦の絆も深まり、巣の完成後に産んだ卵はオスもメスも大事にする・・・それに比べて飼育下では十分巣作りを経験しないうちにメスが卵を産むので、オスが捨ててしまう・・・?

 ということで、次の段階として立派な巣台を作らずに、ベースとなる横木を組んだだけの簡易巣台の上に自分たちで巣を作らせることにしました。

木の枝を組んだだけの簡易巣台。この上に自分たちで巣を作らせることで、卵捨て行動を阻止できるかもしれません。

 実はこの簡易巣台にする数年前、繁殖期の終わりごろに、もう産卵を止めようと巣台を撤去したペアがあったのですが、そのときに巣台が全くない状態から自分たちで巣を作ったことがありました。その経験があったので、この巣台でも問題なく営巣できるだろうと予想していたのです。

2010年の繁殖期の終わりごろ、巣台を撤去したにもかかわらず自分たちで巣を作ったペアがいました。

 さて、「簡易巣台作戦」はどうだったというと、実はそれほど上手くいきませんでした。確かに自分たちで巣を作るのですが、完成する前にメスが卵を産んでしまいます。スカスカの巣で産むものですから、当然卵は下に落ちてしまいます。

 最初の1個や2個が割れてしまっても、繁殖期間中に十数個は産むことができるのですから、繁殖期初めの数個の破卵は気にせずにそのまま見守りたかったのですが、やはりシーズンはじめの卵が何個も割れていますが何もしません、という状況はまずいということで、巣台を後付けすることになりました。現在は簡易巣台にプラスチックネットを挟み込むことで、自分たちで巣を作らせるけれども卵が落ちにくい方法も用いています。

 結局、営巣行動を再現することで初期破卵を防ぐことはできませんでした。初期破卵を防ぐために、私たちはある方法を考え出しました。

つづく

著者プロフィール

野田英樹(のだ・ひでき)

静岡県出身
小学生の頃から熱帯魚や小鳥の繁殖に明け暮れる。
大学では爬虫類に興味を持ち、淡水性カメ類の研究をする。
2018年 金沢大学大学院自然科学研究科博士後期課程修了 博士(理学)

2004年よりいしかわ動物園で鳥類の飼育を担当し、トキ受入れに備えた。
2010年からはトキとカメ類の飼育繁殖に取り組んでいる。

さらに最近はニホンライチョウにも携わっている。

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