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Vol.7 続いて自然孵化に挑戦

2018.1.9

 国内4ヶ所で分散飼育を進めてきたトキですが、それぞれの分散飼育地で飼育繁殖技術が向上してくると、飼育可能羽数を上回る数のトキが殖えてきてしまいます。佐渡での野外放鳥数にも限りがありますから、闇雲に数を増やすことは賢い方法ではありません。そんなこともあり、分散飼育地では、人工孵化をできるだけ行なわず「自然孵化・自然育雛」を徹底しようということになりました。

 親鳥に完全に任せる「自然孵化」は、親鳥に任せるだけだから簡単か、というとそうでもありません。ペアを組んだばかりの若いトキは、放っておいても上手に自然孵化に成功するのですが、何年も連れ添った熟練ペアになればなるほど自然孵化に失敗するようになります。具体的には、卵が生まれる直前にヒナが内側から卵を破り、呼吸を始めたハシウチ段階で親鳥が剥いてしまうのです。このハシウチ開始の段階ではまだ卵黄が体外に出ており、殻から取り出すと死んでしまいます。せっかく孵化直前まで育った有精卵が親鳥に剥かれて死んでしまうのは看過することができません。何かよい対策はないものかと思案しました。

 録画してあるトキの動画から、ハシウチ卵を剥く瞬間を観察してみると、それまで落ち着いて抱卵していた親鳥が、ハシウチに気付いたとたん興奮してしまって、両親ともども卵をつつきまわしていることが分かりました。狭いケージの中、温めていた卵に変化があり、気になって仕方が無くてたまらない・・・といった様子でした。

 おそらく自然界では抱卵している状態はカラスなどの天敵に襲われるリスクが高い為、常に緊張しているものと思います。しかし飼育下では天敵も来ないし、エサもふんだんにあるので他にすることがないのでしょう。暇で暇でたまらないところに、面白そうな卵の変化があるとついついいじりすぎてしまうのではないでしょうか。

 そこで、私たちは考えました。「ハシウチ卵よりも興味深いものが巣の中にあれば、ハシウチ卵に執着しないのではないか?」ハシウチ卵よりも魅力的なものといえば、やはりヒナに勝るものはないだろうということで、「あらかじめ人工孵化させておいたヒナを巣に入れることで、残りの卵の安全な孵化を促す」作戦を実行してみることにしました。この際、最初の1卵は人工孵化になってしまいますが、上手くすれば全部自然育雛できるかもしれません。

いしかわ方式図解 雛の日齢が揃えば、人工孵化したヒナも自然育雛にまわすことができます。

 この作戦では、初卵が無精卵であった場合に備えて最初の2卵は採卵してフランキに入れる計画を立てています。とてもややこしい作戦なので、県庁の担当者や関係者になかなかスムーズに理解してもらえず、図解してやっと分かってもらえる、という具合でしたが、2012年から実施することになりました。

最初に投入したヒナとハシウチ卵

ヒナや卵が冷えないように、作業はすばやく確実におこないます

 この「あらかじめ人工孵化させておいたヒナを巣に入れることで、残りの卵の安全な孵化を促す」作戦は、そこそこ上手くいきました。それでも、投入したヒナの鳴き声が弱いときや、孵化直後で濡れたヒナを入れた場合は、余り上手くいかないことがわかってきました。孵化後1~2日経過して、元気に餌を要求するようになると、親鳥の注意をひきつける役割をしっかりと果たせるようになります。

 こうして、より多くの自然孵化個体を輩出することができるようになったのですが、ここに着て新たな問題が浮上してきました。産卵直後の卵を捨てる行動と、子育てをほったらかして夫婦喧嘩を始めるという問題です。

 これらの問題をどうやったら解決できるか、また知恵を絞らなければなりません。

つづく

著者プロフィール

野田英樹(のだ・ひでき)

静岡県出身
小学生の頃から熱帯魚や小鳥の繁殖に明け暮れる。
大学では爬虫類に興味を持ち、淡水性カメ類の研究をする。
2018年 金沢大学大学院自然科学研究科博士後期課程修了 博士(理学)

2004年よりいしかわ動物園で鳥類の飼育を担当し、トキ受入れに備えた。
2010年からはトキとカメ類の飼育繁殖に取り組んでいる。

さらに最近はニホンライチョウにも携わっている。

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