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Vol.6 トキの自然育雛

2017.11.13

まずは自然育雛に挑戦

 分散飼育地でのトキの人工繁殖も軌道に乗り、いしかわ動物園以外にも、多摩動物公園、島根県出雲市、新潟県長岡市でトキを飼育繁殖するようになりました。分散飼育地で生まれたトキたちは佐渡トキ保護センター野生復帰ステーションで訓練を受けた後、放鳥されるのですが、その後、野外に定着する為には繁殖期にペアになり、自然に繁殖しなければなりません。

 放鳥数が増え、野外のトキのデータが集まってくると、どうやらペア組みをしたり、営巣したりといった繁殖行動が上手くいかない個体がいることが分かってきました。そういった個体の素性を見てみると、「人工孵化・人工育雛」が少なからず影響を与えているようです。

トキの自然育雛 やはり親に育てられるとその後の成績が良いようです。そして親が育ててくれると飼育係も楽です

 トキの場合、晩生性なので刷り込みはさほど強くないはずです。また、インコなどのようにいつまでも人に甘えてくることも無く、自力採食するとすぐにぷいっと人から離れていく鳥でした。そのため、ツルやカモほど刷り込みは起きないだろうと考えていましたが、それでもいざ繁殖行動をとろうとすると、人が育てた人工育雛個体より、親鳥が育てた自然育雛個体のほうが有利だったようです。

 そのため、2011年からは、いしかわ動物園でも「自然育雛」に挑戦しました。当時は大型モニターでライブ映像を公開していましたので、お客様にトキの子育てをライブで見ていただきたい、という動物園側の思いも大きかったのです。
 第1クラッチは従来通り採卵し、フランキに入れます。そうすると第2クラッチの産卵があるので、それはそのまま親鳥に抱卵させます。第1クラッチが孵化する頃、第2クラッチを採卵し、かわりに人工孵化したヒナを巣の中に入れます。

多くの鳥類と同じく、トキも雌雄協力して子育てをします。

 晩生性のトキは「巣の中にあるのは私の子」と思いますので、この卵とヒナすり替え作戦は順調に進みます。ヒナの日齢は、3~5日ほどがちょうど良いようです。7~10日齢を超えると、ヒナが親鳥を怖がるようになってしまいます。

巣に入れたヒナに、親鳥はすぐにえさをやり、育て始めます

 実際に自然育雛に挑戦してみると、人工育雛では分からなかったさまざまなトキの姿を知ることができます。たとえば、通常人工飼料を好んで食べる親鳥でも、育雛期間中はドジョウやワカサギなどの魚を偏食し、人工飼料をまったく食べなくなります。おそらく人工飼料は育雛飼料として適していないと判断しているのだと思いますが、これは、虫を食べる小鳥類にも見られる現象です。通常は「すりえ」や「まきえ」で飼育できる小鳥も、ヒナには昆虫などのタンパク質の多いエサを運びます。

 育雛中のトキが人工飼料をヒナに与えないとなると、ビタミンやミネラルの偏りといった問題が生じてきます。そのため現在では、ジャイアントミルワームという、トキが大好きな昆虫の幼虫に、人工飼料を食べさせてから与えることで、間接的にビタミンやミネラルを補給できるようにしています。このノウハウは昆虫食のトカゲなど爬虫類の栄養バランス改善テクニックとして知られていますが、トキにも応用ができました。

ヒナは親鳥からエサをもらい、すくすくと成長していきます

 成長期のヒナの食欲はすさまじく、一日に体重の半分量以上のエサを食べます。人工育雛では、準備するエサの量を増やせばよいだけですが、自然育雛の場合は親鳥が一度採食し、半ば消化してから口移しでヒナに与えなければなりません。飼育下では親鳥は簡単にエサを採れるはずですが、それでも子育て中の親鳥からは必死な雰囲気が伝わってきます。

 子育て中のトキがどれほどエサを運ぶのか、記録を見てみると、25日齢前後のヒナが2羽巣にいる最盛期で、一日に2000gほどの採食量となっています。2000gというと、ドジョウ換算で約200匹ですので、小動物が大量に生息している環境がないと、野生のトキが子育てをするのが難しいことが実感できます。

2011年の人工孵化―自然育雛作戦はうまくいき、無事巣立ちを迎えることができました。

 親鳥からエサをたっぷりともらったヒナはすくすくと成長し、40日齢前後で巣立ちを迎えます。巣立ちといっても、ただ巣から出ただけの状態なので、それから20日ほど、親鳥からエサをもらったり、エサのとり方を見よう見まねで覚えたりし、60日齢程で本当の意味での独り立ちを果たすようです。

 私の個人的な見解ですが、この巣立ち直後に親鳥のすることなすことをまねして、さまざまな経験をつむことが、野生復帰した後の成績が人工育雛個体よりも良好になる一因になっているのではないかと考えています。人工育雛では、幼鳥に飛び方や水浴びの仕方、草むらのつつき方などはどうしても教えてやれません。また、他のトキとの付き合い方も、物心がついたときからトキと暮らしている自然育雛個体の方がうまくいくことがよく分かります。

 こうして自然育雛は上手くいったのですが、このやり方では第2クラッチは確実に人工育雛になってしまうという問題がありました。実はこの時点でそろそろ人工育雛個体を大量に生産する時代ではなくなってきていたのです。環境省の指針により「分散飼育地ではできるかぎり自然孵化・自然育雛をする」という方針でトキの繁殖に臨むことになりました。

つづく

著者プロフィール

野田英樹(のだ・ひでき)

静岡県出身
小学生の頃から熱帯魚や小鳥の繁殖に明け暮れる。
大学では爬虫類に興味を持ち、淡水性カメ類の研究をする。
2004年 金沢大学大学院自然科学研究科博士前期課程修了

2004年よりいしかわ動物園で鳥類の飼育を担当し、トキ受入れに備えた。
2010年からはトキとカメ類の飼育繁殖に取り組んでいる。

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