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Vol.12 夫婦喧嘩を防ぐには

2018.10.2

 人間の夫婦では、新婚のころは仲睦まじかったはずが、年とともに夫婦仲が悪くなる、などという話を聞く事があります。ヒトの場合は仲が悪くなったらすぐに離縁して新しいペアを・・・というわけにはいきませんが、野生動物は一夫一婦制であってもペアの組み換えは頻繁に起きているようです。繁殖成績を悪化させてまでも同じ伴侶にこだわるような遺伝子は淘汰されてしまうからです(例外はあります)。野外のトキも繁殖に失敗するペアはすぐに解消される事が観察から分かってきています。
 しかし、分散飼育地にいる繁殖ペアは全て遺伝的多様性を高めるために系統立ててペア組みされており、簡単に組み替えるわけにはいきません。そのため、飼育下では野外で起こりえないトラブルが起きてしまいます。

新婚カップルのころは仲良く相互羽繕いも頻繁に見られます

 トキも新婚のころは夫婦で仲良く抱卵し、一生懸命子育てをします。なんて優秀なペアだ、と喜んで翌年も翌々年も繁殖に望むのですが、数年経つと問題行動が顕著に現れてきます。メスが産んだ卵をオスが捨ててしまう初期破卵もそのひとつで、様々な対策を考えながらやっています。それでも擬卵を抱卵し、こっそりすり替えたヒナを育てるようになればよいのですが、卵や雛の命に関わるトラブルが起きはじめました。

抱卵中にオスもメスも卵を抱きたくて仕方がなくなり、ついに2羽並んで抱卵体勢に入ってしまいました。抱卵交代が短すぎる飼育下ならではの異常行動です。

 抱卵中や育雛中にオスもメスも卵や雛の世話をしたがり、そのうちつつきあいのけんかが始まったのです。自然下では抱卵交代は11時間程度なのですが、飼育下では5分で餌を食べて巣に戻ってきてしまいます。すると1羽でゆっくり子育てしたいのに、すぐに相方が帰ってきて邪魔をされる、あっちにいけ!となるようで、猛烈な夫婦喧嘩が始まります。夫婦喧嘩の結果は、大概体の大きなオスが勝ち、メスを執拗に追い立てるようになります。トキの噛み付く力は意外と強く、足や顔を咬まれたメスは出血し、歩けなくなってしまうこともあります。あまりにもこの追いまわし(DVとも呼んでいます)がひどくなると、ペアを分けなければならないのですが、子育て中に片親になるとやはり給餌量不足が心配になります。そこで苦肉の策として「オスの風切羽根を抜く」という処置をします。

DVがひどいオスは、初列風切羽根を最大で片側8枚抜いてしまいます。飛翔力が落ち、メスを追い回す事ができなくなります。

 鳥が飛ぶときには風切羽根という翼の先端に生えている羽根が風を捉え、体を浮かせる事ができます。そのため風切羽根を抜いてしまうとばさばさと羽ばたいても体が浮き上がらず、上手に飛ぶ事ができなくなります。野生下でこれをやるとあっという間に天敵に食べられてしまいますが、飼育下ではDVを防ぐために風切羽根を抜きます。このときはさみで切るのではなく、根元から抜く事が重要です。羽根が抜けると2週間ほどで生え始め、3週間もするとまた飛べるようになるからです。はさみで切ってしまうと次の換羽(秋)が来るまで上手に飛ぶ事ができなくなってしまいます。さらに、羽根を抜かれると新たに羽根を作るのにエネルギーを使うため、闘争心が下火になるようです。この試みはトキで初めて行なったわけではなく、以前動物園で飼育していたエボシドリの個体間闘争をこの「風切羽根抜き」で収束させた事があり、トキでも応用してみたというわけです。

以前飼育していたオウカンエボシドリ。優位個体の風切羽根を抜くことでオス間闘争を軽減する事ができました

 この「羽を抜く」という対症療法は、そこそこ効果があり、現在のところDVが始まったらオスの羽を抜く、という対策をすることで、何とか自然繁殖を成功させています。

つづく

著者プロフィール

野田英樹(のだ・ひでき)

静岡県出身
小学生の頃から熱帯魚や小鳥の繁殖に明け暮れる。
大学では爬虫類に興味を持ち、淡水性カメ類の研究をする。
2018年 金沢大学大学院自然科学研究科博士後期課程修了 博士(理学)

2004年よりいしかわ動物園で鳥類の飼育を担当し、トキ受入れに備えた。
2010年からはトキとカメ類の飼育繁殖に取り組んでいる。

さらに最近はニホンライチョウにも携わっている。

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