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Vol.85 オーストラリア6 ベリンジェン島のコロニー

2024.10.16

 飛びながら川面で腹を濡らして水を飲むハイガシラオオコウモリのことを知ったのは、オーストラリアと南太平洋の島々のコウモリの保護団体The Australasian Bat Society(ABS)の会報17号(2001年10月)だった。ベリンジェンBellingenというニューサウスウェールズ州の小さな町の写真付きの報告で、今でこそ水に飛び込むオオコウモリはけっこう知られているが、当時は初めて知ってびっくりし、ぜひ一度現地で見てみたいと思った。著者のビビアンさんに連絡を取ったところ、ぜひ来てください、このコロニーはキャラバンパーク(オートキャンプ場のことをオーストラリアではこう呼ぶ。常設のキャンピングカーに泊まれる所もある)の隣にあって、もしもそこに泊まるなら、オーナーにオオコウモリを見に遙々と日本から来たと言ってもらえると、彼らのオオコウモリに対する認識も変わるかもしれないという。

ベリンジェン位置図

 2001年12月26日朝、成田から9時間ちょっとのブリスベン空港はいい天気で暑い。南下してゴールドコーストで1泊し、更に南に向かう。
 夕方、グラフトンという小さな町の入口で、国道沿いのモーテルに入る。オーストラリアの田舎町は夜が早く、レストランも商店もみな閉まっている。モーテルの隣のガソリンスタンドに併設されたイタリアンレストランも終わっていて途方に暮れていたら、閉店したあとのガソリンスタンドでスケートボードをしていた若者が、もう一つ手前のガソリンスタンドのレストランは開いているよと教えてくれた。 Fisherman’s Basket という山盛りのシーフードフライの取り合わせとKidney and beef で夕食。

魚やイカのフライの盛り合わせ(左)と牛肉と内臓の煮込み(右)

 翌朝、ベリンジェンへ。ブリスベンとシドニーの中間あたりから内陸へ10kmほど入ったところにある、人口2600人の静かな町である。
 ベリンジェン川が蛇行してできたベリンジェン島という中州(といっても通常は岸に繋がっている)に、1996年から年間を通してハイガシラオオコウモリがねぐらをとるようになった。隣接した岸にキャラバンパークがあって、オンサイトバンに泊まろうと受付に行ったが、今日(12/28)から30日までは満員で、キャンセルはとうてい期待できないという。とりあえず31日の予約をする。

キャラバンパークの入口の看板

 キャンプ場内にも大きな木があって、ハイガシラオオコウモリがぶら下がっている。まさにオオコウモリのキャンプだ(オオコウモリの大きなコロニーのこともキャンプという)。島の中には一万頭くらいのオオコウモリが休んでいるようだ。

木の枝からぶら下がって寝るハイガシラオオコウモリ

 町外れのモーテルに今夜の宿をとる。一泊$83。ビビアンさんに電話をすると、20時に島の手前の橋のところでお会いしましょうということになった。
 ベリンジェン島の数十メートルほど下流に橋がある。島とは対岸の橋のたもとが広い草地になっていて島が見渡せるので、車を止めて川岸にいく。
 20時ちょっと前、オオコウモリがパラパラと飛び始める。かなり向こうで川面に大きな水しぶきが上がった。どうやら川に飛び込んだやつがいるらしい。写真で見るとお腹を引きずりながら川面に平行に低く飛んでいるようなのだが、腹が水面につくときは大きな水しぶきが上がる。
 突然カヌー10艘ほどの集団が、われわれの目の前にやってくる。オオコウモリはますます増えたが、カヌーのせいもあって、われわれが立っているあたりはあまり来ない。

カヌーの人達(左)とカヌーツアーのビラ(右)

 草地の入口に4WDの車が止まった。大柄な女性が黒い小さな犬を連れてこちらにやってくる。Webの写真で見たビビアンさんだ。この小さな町で東洋人は他にいないから、間違えようがないのだろう、まっすぐこちらに歩いてくる。
 挨拶を交わしている間にもオオコウモリの数はますます増える。上空を流れるように途切れなく飛んでいく。川に飛び込む個体も増えて、だんだん目の前で飛び込むやつも出てきた。なかなか迫力がある。カヌーの集団が目の前を行ったり来たりすると、そのあたりだけ川に飛び込むオオコウモリが途切れる。

こんな水面にたくさんオオコウモリが飛び込んだ(上)。水に飛び込むオオコウモリ(下)。当時のフイルムカメラや私の技術ではこんな写真しか撮れなかった

 直ぐ目の前の木にとまってお腹を舐めているオオコウモリがいる。川面で腹を濡らした後、こうやって水を飲むのだ。今は子育ての時期で子連れで飛んでいる個体もいる。ビビアンさんによれば、子どもたちは10月に生まれるので、今では母親が夕方の採餌に行くときはコロニーにおいてくるが、赤ちゃんがもっと小さかった頃はお腹にくっつけたまま飛び込む。ただ、乳首がわりと上の方にあるので、そんなにびしょぬれにはならないだろうという。ビビアンさんは保護飼育中の子どものオオコウモリを連れてきていて、乳首を見せてくれる。たしかに随分脇の上の方にある。しかしあの水しぶきが上がる勢いからすると、赤ちゃんコウモリはかなりの衝撃を受けそうだ。
 20時半、暗くて見づらくなってきた。車で直ぐのビビアンさんのお宅にお邪魔する。テラスには、先ほどの子も含めて、子どものオオコウモリが3頭いる。親が飛んでいるときに落っこちたのか、ある家の屋根に落ちてきたという1頭と、親が帰ってこなくてキャンプに置き去りになっていた孤児2頭である。餌はベビーフード(人間の)と牛乳。
 このあたりにはオオコウモリの面倒を見ている人が他にも何人かいて、もう一ヶ月もしたら、ビビアンさんの家の裏庭のケージに30頭ほどが集まって社会復帰の訓練に入るという。オオコウモリは生後4ヶ月頃親から離れるが、この時期に自然界に放すと、うまく独立できるらしい。

 この町ではコウモリとの関係はそんなに悪くはないという。そういえば、夕方のコウモリの飛び立ちには、大人一人と子どもたちが何人か来ていて、ビビアンさんが彼らに話しかけていていた。キャラバンパークのオーナーもオオコウモリが好きだと言っていた。もっとも昨年は特にオオコウモリが多くてキャラバンパークの上までいっぱい止まっていて、キャラバンパークの入口にあった木が切られてしまったのは、もちろん日陰になるせいでもあるけど・・・
 一時間ほどお邪魔して帰る。
 翌朝6時30分に起きてベリンジェン島へ。既にオオコウモリは帰ってきていて、落ち着いている。時々液状の糞が落ちてくる。
 昨夜の赤ちゃんコウモリを明るい時間に撮影をさせてもらう約束だったので、8時過ぎに再びビビアンさんのお宅にお邪魔する。赤ちゃんコウモリはテラスのタオルかけにぶら下がったタオルの中にいた。タオルの中だとお母さんと一緒の気分になるのだろうか。

テラスのタオルかけがコウモリの寝床(左)。ビビアンさんの腕にぶら下がる保護されたオオコウモリの子供(右)

 人なつこそうなやつが翼を伸ばしてきて、親指の爪先で掌を捕まれてしまった。なかなか鋭い爪で、表面の皮が破れてひりひりする。歯も丈夫で噛みつかれると怪我をするという。

庭の木にぶら下がったオオコウモリの子供

オオコウモリの子供

 9時頃ビビアンさんの家をでる。今夜は昨日のあたりで友達とカヌーにのるから良かったらいらっしゃいと誘われるが、今夜の宿が決まってないので、どうなるかわからない。

イチジクの仲間の実とペリット

 モーテルをチェックアウトして朝ご飯を食べに行く。昨夜この近くのイチジク科の木でオオコウモリが騒いでいたのだが、木の下にはペリットがいっぱい落ちている。取り落としたのか径3cmほどの実も落ちている。

著者プロフィール

大沢啓子(おおさわ・けいこ)・大沢夕志(おおさわ・ゆうし)

1988年に南大東島でオオコウモリに出会って以来、コウモリに惹きつけられ、世界を巡って観察している。講演会や観察会、企画展示、書籍など、コウモリの魅力をたくさんの人に伝える活動をしている。動物園にやってくる野生のコウモリの観察会をすることもある。コウモリの会評議員、日本自然科学写真協会理事(夕志)。主な著書『身近で観察するコウモリの世界』『コウモリの謎』(誠文堂新光社)、『オオコウモリの飛ぶ島』『ふたりのロタ島動物記』(山と渓谷社)、『南大東島自然ガイドブック』(ボーダーインク)など。

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