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Vol.71 バリ島その3 ケダトンの森のジャワオオコウモリ

2023.8.16

 2009年1月のバリ島コウモリ旅の続き。
 滞在5日目の1月20日は、お昼から再び「バリ倶楽部」の個人ツアーに。
 最初に、コウモリがいると教えてもらったゴア・ガジャ(象の洞窟)へ。ここはお寺であり遺跡でもあるが観光地にもなっていて、駐車場には売店が建ち並んでいる。コウモリがいそうなのは、草や木の茂る小道を進んだ奥の、小さな洞窟だ。ここまで来る観光客はいない。洞窟に入っていくといちばん奥にコアラコウモリMegaderma spasmaが一頭いた。

コアラコウモリ。ストロボがちゃんと光らなかったので、証拠写真程度

 今日のいちばんの目的地は、タバナンという地域にある、アラスカダトンAlas Kedatonこと「ケダトンの森」だ。オオコウモリがいるという話を、空港からの運転手さんからもARMA美術館の職員からも聞いた場所だ。偶然バリ倶楽部の運転手さんの家のすぐそばだということで、場所を説明する必要もなかった。一人1万ルピアの入場料を払うとグループにガイドさんが一人つく。ガイドさんの制服にはコウモリのマークがあった。

入口の看板

ガイドさんの制服

 観光客はお寺の本体には入らず、周囲の森との境界にある歩道をぐるっとまわりながらサルに餌をやる。途中でJTBのバッジを付けた人が通ったので日本からのツアーもあるようだ。
 周囲の森にはジャワオオコウモリPteropus vampyrusのコロニーがあり、木の枝からぶら下がっている。

木の枝にぶら下がるジャワオオコウモリ

 時々空を飛ぶ姿が見られる、大きな音がすると、一斉に飛び交うこともある。

飛翔するジャワオオコウモリ

 ここでもまた夕方の飛びたちを見るために、いったん夕食を食べに出かけて18時過ぎに森の入り口近くに戻った。あたりは田んぼでセッカCisticola juncidisやツバメHirundo rusticaが飛び交う。稲だけでなく空芯菜も植わっている。
 18時54分、お腹に赤ちゃんをつけたジャワオオコウモリが1頭飛び出して田んぼの上空を飛んでいった。19時過ぎから30分間くらい、次々と飛び立って行く。やがて真っ暗になったので、まだ飛んでいるが観察は終了。田んぼには40kHzくらいの音声を出す小コウモリも時々やってくる。

 翌日、もう一度コウモリのお寺ゴワ・ラワに行きたいので、夕方の16時半から20時半までドライバー付きで車を借りた。
 ウブド周辺は渋滞で、ゴワ・ラワに着いたのは17時20分頃。運転手さんには駐車場で待っていてもらう。ゴア・ラワに着く少し前から大雨が降ってきて、あたりは水浸しだ。とりあえずお寺の入り口にある屋根付きの集会場のようなところで雨宿りする。門の前で車を降りて集会場まで歩く間にすでに靴の中までびしょ濡れだ。
 18時ちょっと過ぎ、少し小降りになったので、運転手さんから借りたサロングとベルトをつけて中に入る。コウモリ洞窟前の広場も深さ10cmくらいの水で覆われていて、その中を歩く。祭壇の前の階段下に立って再びオオコウモリの群れを見ていたら、後方にいた修行僧だろうか、若い男性2人が何か叫んだ。意味はわからなかったけれど、われわれに向かって叫んだように思えたので、あたりを見まわすと、夕志のすぐ足下を半分水没した状態で、大きなアミメニシキヘビがずるずると移動していく。あまりにもびっくりした啓子は、「ニシキヘビ」という言葉が出てこないで、「危ない!危ない!」とひたすら叫ぶ。
 幸い巨大アミメニシキヘビはわれわれには目もくれずに祭壇へ上がっていき、洞窟に入っていった。本日のコウモリ1頭を食べに行ったのだろう。ニシキヘビは洞窟の守り神で、昔は2匹だけだったけど子供が産まれて今は何匹かに増えたとのこと。何年か前に1匹死んだ時には蛇のためにみんなでお祈りをしたと聞いた。

 降り続ける雨に、スズメも椰子葺きのお寺の屋根の下で雨宿りしているのに、水浸しの足下も気にせずに、けっこうお参りに来る人がいる。  ジョフロワルーセットオオコウモリは18時40分からポツンポツンと飛び出した。やがてこの間と同じように、洞窟から怒濤のように飛び出すようになった。飛びながら糞を落とす奴が結構いて、われわれのTシャツは糞まみれだ。

お寺の塔を背景にジョフロワルーセットオオコウモリが飛ぶ。ヨアケオオコウモリも混ざっているのかもしれない

 30分くらいでピークは過ぎたようだし、宿まで1時間近くかかるので、引き上げることにした。今回の運転手さんも、大きなオオコウモリは焼いて食べるし、喘息の薬にもなると言っていた。

 翌日、予定より1日早くカキアンバンガローをチェックアウト。この間の美術館と同系列のリゾートホテル、ARMAリゾートの一番安いスタンダードの部屋が空いていたので、最後の一泊は、そちらに泊まることにした。
 カキアンバンガローは、一泊朝食付き2人で5000円、東南アジアの物価を考えると、われわれにしては贅沢な宿で、使わなかったがプールもスパもある。テラスでコーヒーを飲んでいると、目の前の木から木へジャワトビトカゲDraco volansが飛ぶ。横腹が平べったく見えるのは、ここに皮膚のしわがたくさんあって、広げて滑空するためだ。しかし木の枝を捕まえ損ねてテラスの前に落ちてしまったこともあって、コウモリや鳥のように「飛翔」するには、まだまだ修行が足りないようだ。

ジャワトビトカゲ

 テラスにいるとシロハラクイナAmaurornis phoenicurusを見かける。同じくテラスから見える椰子の木には、シマキンパラとコウヨウジャクPloceus manyarがそれぞれ巣を作っている最中で、シマキンパラの方は途中であきらめてしまったようだが、コウヨウジャクが椰子の木のてっぺんにせっせと巣を編み進んでいく様子が毎日見られて楽しかった。残念ながら滞在中には完成しなかったが。

シロハラクイナ(右)と営巣中のコウヨウジャク(左)

 このほかにヘキチョウLonchura maja、スズメPasser montanus、カノコバト、メグロヒヨドリPycnonotus goiavier、キバラタイヨウチョウCinnyris jugularisなど次々やってくるし、夜は部屋の中をネズミが走り回る。
 カキアンバンガローも、われわれには十分贅沢だったが、ARMAはいちばん安いスタンダードでも朝食付きで90US$と、破格に贅沢である。おまけに行ってみたらスタンダードルームは満員なので、同じ値段でスーペリアルームだということで、更にそぐわない瀟洒なインテリアの部屋であった。敷地の奥の方には、プライベートプール付きの豪華なビラまである。もっとも深夜にシャワーを使っていたら、2人目は途中から水になってしまったし、電話はオペレーターを通さなければならないのでネットにつなげないし、あまり使い勝手がいいとは言い難かったが、夜、広い敷地内を自由に動き回って観察できるのはありがたい。夜が楽しみだ。

ナシチャンプルー。大衆食堂の定番料理。ご飯の上にいろいろ組み合わせたお総菜が盛られる。このウブドのパッ・セダン(Pak Sedan)というお店には2回行ったが、ここがいちばんおいしかった

別の食堂のナシチャンプルー。そのときによって上に載るおかずが変わるようで、われわれが食べている間に空芯菜の炒め物ができあがったので、後から入ってきた人はそれも乗せてもらっていてうらやましかった。この店、客の残飯は裏の窓から庭に捨てていて、窓の下では放し飼いのニワトリがきれいに片付けてくれる。そして、そのうちこのニワトリもおかずになって皿の上に乗るのだろう。リサイクル総菜だ

著者プロフィール

大沢啓子(おおさわ・けいこ)・大沢夕志(おおさわ・ゆうし)

1988年に南大東島でオオコウモリに出会って以来、コウモリに惹きつけられ、世界を巡って観察している。講演会や観察会、企画展示、書籍など、コウモリの魅力をたくさんの人に伝える活動をしている。動物園にやってくる野生のコウモリの観察会をすることもある。コウモリの会評議員、日本自然科学写真協会理事(夕志)。主な著書『身近で観察するコウモリの世界』『コウモリの謎』(誠文堂新光社)、『オオコウモリの飛ぶ島』『ふたりのロタ島動物記』(山と渓谷社)、『南大東島自然ガイドブック』(ボーダーインク)など。

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