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Vol.72 バリ島その4 ホテルの敷地でコウモリ観察

2023.9.17

 2009年1月のバリ島コウモリ旅の続き。最後の一晩をコウモリが敷地内にいるリゾートホテルで過ごすことに。
 ARMAリゾートの敷地内は川が横切り、大きな木が茂ってリスが走り回り、池にはジャワアカガシラサギArdeola speciosaやミズオオトカゲVaranus salvatorが歩いていたりして、敷地内だけでも十分楽しめる。お隣の同系列のARMA美術館は、庭がそのままつながっていて宿泊者は自由に行き来できるので、さっそくオオコウモリを見に行く。椰子の葉の裏には、今回も小型のオオコウモリがいて、子どもを連れているのもいる。
 雨が降ってきたが幸いにして夕暮れ前に上がった。18時過ぎ、だいぶ暗くなってきた美術館への道を歩いていると、植え込みの下からジャコウネズミのようなものが顔を出して「ツッ」という小コウモリのような声を出した。
 太鼓の音が聞こえるのはARMAのレストランで毎晩やっているショーだ。今夜はレストラン前の田んぼで火の踊りというのをやっている。美術館の庭にある舞台でも別のバリ舞踊ショーをやっている。
 昼間見た椰子の葉の裏のオオコウモリを見張っていると、18時50分、1頭が下にストンと落ちるような感じで飛び出した。もう1頭も同じように飛び出した。19時頃から庭をオオコウモリ、小コウモリが飛び交う。美術館の建物をナイトルーストとして利用してないかと期待したのだが、入り口に1頭いたものの、すぐに飛んでいってしまった。
 21時にもう一度見回ると、ヤシの葉の裏にモモタマナの実を抱え込んだ小型オオコウモリがいた。後ほど実の重さを量ってみたら17g。日本のオオコウモリもモモタマナの実は大好きだが、体重500gほどある日本のオオコウモリなら楽々運べるが、このときのコウモリはせいぜい体重50gくらい。体重の3分の1くらいの重さのものをここまでくわえて飛んできたことになる。われわれが観察したり撮影したりしても気にしないくらい、夢中になって食べていた。

モモタマナの実を抱えて食べている小型オオコウモリ(左)。食べ終わって実を落とした瞬間(右)

 泊まった棟の目の前に、大きなジャックフルーツの木があった。次々と小型オオコウモリがやってくる。木が大きすぎてコウモリが遠いのが難点だが、ジャックフルーツの種をはき出すのが見えた。
 翌1月23日、4時半、まだ真っ暗な中、再び美術館の庭を歩く。上からガリガリと変な音がする。見上げるとシュロヤシの葉を噛んでいるコバナフルーツコウモリ属のオオコウモリだ。この仲間は、扇状の椰子の葉を噛んで葉が垂れ下がるようにテント状にして、ハーレムを持つものがいるのだ。

テントを作成中のコバナフルーツコウモリ属の仲間。明るくなってからもう一度見に行ったが、まだ完成していないのかテントには誰もいなかった。

 美術館の建物には、もうオオコウモリが戻ってきて休んでいる。明るくなってオオコウモリが飛び交わなくなってからも、小コウモリは結構飛んでいた。
 6時頃からリスやメグロヒヨドリなどが起きてきた。

 帰りの飛行機は夜なので、その前にホテルの車に送迎してもらって、近くにあるゴア・ガジャにもう一度行く。洞窟までの狭い山道には、こわそうなヘビが通せんぼをしていた。いかにも毒がありますという容貌をしていたので、立ち退くまでしばらく待った。前回うまく撮れなかったコアラコウモリをもう一度撮りたいと思ったのだが、残念ながら今回は、いなかった。

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 どうぶつのくにVol.12-14では2018年夏フィリピンネグロス島で行われた第4回東南アジアコウモリ会議を、Vol.59-60では2015年8月にクチンで行われた第3回の同会議を紹介したが、この国際会議は2007年から3-4年ごとに行われている。われわれは2007年の第一回をのぞいてすべて参加してきたが、2011年6月にインドネシアのジャワ島ボゴールで開催された第2回のこの会議にも参加した。その直前に、バリ島のARMAリゾートの敷地をもっと見たくて、もう一度、4晩滞在した。とはいっても最初の晩は真夜中過ぎに到着したので、実質的なコウモリ観察は3晩だ。
 このとき泊まった部屋には大きなバルコニーがあって、目の前にバナナの花が咲いている。ここに毎晩花蜜を食べにオオコウモリがやってくるという最高の部屋だった。ずっと見ていると少なくとも2種のオオコウモリがいるようだ。
 小柄でかわいいのはシタナガフルーツコウモリMacroglossus minimus。花にちょこんとしがみついて蜜を舐めている。

シタナガフルーツコウモリ。この画像を2021年に日本でイベントの展示に使ったときに、パネルを上下逆さまに張ってしまったことがある。コウモリ的には逆さまでも何の違和感もないのでしばらく気が付かなかったが、展示準備が終了して何気なく見ていたときにバナナの花に目がいって、この方向では花が上向きに咲くというバナナではあり得ない状態であることに気が付き慌てて直した。

シタナガフルーツコウモリが顔をおしべの中に突っ込む前(左)と突っ込んだところ(右)

 もう一種類はヨアケオオコウモリEonycteris spelaea。シタナガフルーツコウモリよりもかなり大きい。ホバリングせずにいきなり飛びつくので、こいつが来るとバナナの花が大きく揺れる。おしべの中に頭をつっこんで蜜を舐める。さぞかしたっぷりと花粉を運んでくれるのだろう。

ヨアケオオコウモリが顔をおしべの中に突っ込む前(左)と突っ込んだところ(右)

 2晩目と3晩目には夜23時頃になると、ARMA美術館の庭にあるヤシの花にルーセットオオコウモリが10頭ほどやって来た。バリ島南東部のゴアラワというお寺の洞窟には、ジョフロワルーセットオオコウモリの大コロニーがあったけど、そこからやってくるのだろうか。花を舐めたり追いかけっこをしたり、活発だ。みんな花粉まみれになっている。

ヤシの花に来たルーセットオオコウモリの仲間


 あいにく4晩めにはヤシの花には1頭しか来ていなかった。昼間はハチがたくさん集まっていたので、蜜はまだ出ていると思うのだが。この晩はカフェ脇のイチジクの仲間の木に4,5頭ホバリングしたり枝に止まっていたのがルーセットオオコウモリのようだった。
 前回来たとき、この美術館の庭で、コバナフルーツコウモリ属のオオコウモリが一頭で黙々とテントを作っているのを見かけて以来気になっていたが、今回よく見るとビロウのような扇状の葉をした椰子の葉は、かなりの割合でテント状になっている。テントをつくったけどメスに気に入ってもらえなかったか、古いので放棄したのだろう。テントに5頭前後が入っているのもいくつか見かけた。

枯れて落ちた葉に、テントをつくった跡があった。日本に持ち帰りたかったのだが、大きすぎて断念。

 同じ種と思われるのが単独でテントに入っていたり、美術館の軒下にいたりするのは、若いもてない個体なのだろうか。美術館玄関軒下にはいつも一頭いる。

1頭だけで軒下にいたコバナフルーツコウモリ属の仲間

 夜、取ってきた餌を食べるフィーディングサイトにもするので、玄関前に食べ終わったモモタマナの種やペリット、フンがたくさん散らばっている。早朝出勤してきた職員が、ペリットや種を蹴っ飛ばしてどけてから、種を一つつかんで上を見上げてコウモリにぶつけようとしたが、じっと見ていたわれわれと目があってやめた。

床の上はこんな状態

 ちょっと高いけど、夜、気兼ねなく安心して歩けるこのリゾートは、コウモリ観察にはとてもよかった。

三角形に包まれたお弁当。

リゾートホテルは高いので、夜はこんなご飯で節約することも。インスタントのおかゆ(左)とミーゴレン(右)。日本のインスタント麺に比べて、調味料などの小袋の数が圧倒的に多い。

著者プロフィール

大沢啓子(おおさわ・けいこ)・大沢夕志(おおさわ・ゆうし)

1988年に南大東島でオオコウモリに出会って以来、コウモリに惹きつけられ、世界を巡って観察している。講演会や観察会、企画展示、書籍など、コウモリの魅力をたくさんの人に伝える活動をしている。動物園にやってくる野生のコウモリの観察会をすることもある。コウモリの会評議員、日本自然科学写真協会理事(夕志)。主な著書『身近で観察するコウモリの世界』『コウモリの謎』(誠文堂新光社)、『オオコウモリの飛ぶ島』『ふたりのロタ島動物記』(山と渓谷社)、『南大東島自然ガイドブック』(ボーダーインク)など。

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