連載Vol.25 で2019年にタイで開催された第18回International Bat Research Conference(国際コウモリ研究会議)を紹介したが、われわれがこの国際会議に最初に参加したのは、2016年7月31日から8月5日に南アフリカ共和国のダーバンで開催された第17回の会議だ。大会に付随してフィールドトリップで現地のコウモリ調査をすることも多く、種名が確実なコウモリの写真が撮れて嬉しいのだが、あいにく今回はコウモリに関するフィールドトリップはないらしい。一応日本のコウモリの話題をポスター発表したのだが、研究者でないわれわれにとっては、発表は付け足しのようなもので、現地でコウモリを見たり、コウモリの情報を手に入れる機会がなかったら、地球を半周して南アフリカまで行く意味がない。ぎりぎりまで行こうかどうしようか迷ったが、アフリカで一般の人が参加できるコウモリ研究会議は少ないし、インターネットでいろいろ探すと南アフリカ北東部のクルーガー国立公園には、キャンプ場にケンショウコウモリがいるらしいことがわかって、参加することにした。南アフリカは治安が心配なのだが、クルーガー国立公園は公園内に飛行場があって直接アクセスすることができ、自分たちだけで行動しても特に心配はないようだ。
2016年7月27日まず成田から香港へ、ここで南アフリカ航空に乗り換えて南アフリカ共和国ヨハネスブルグのO・R・タンボ国際空港まで13時間ちょっとだ。着いたのは現地時間の7月28日7時半くらい。ここで飛行機を乗り換えるのだが、まず預けた荷物がどこにあるのかうろうろ探し回る。やっと見つけてカウンターに行くとわれわれのフライトのチェックインカウンターは上だと言われる。上階に行くと2人の職員が待ち構えていて、別のターミナルのチェックインカウンターまで案内してくれてゲートはE5だと教えてくれたが500ランドチップをくれという。この当時1ランドは7円ちょっとだからこれはかなり高い。値切るといっても、ATMで現金は下ろしてはあったが、あいにく小額紙幣がない。予備に10US$紙幣を持っていたことを思い出して、これでも高いけど、二人で分けてといって渡す。ここからクルーガー国立公園の中にあるスククザ空港までは50分の飛行だ。

スククザ空港の建物
素朴な滑走路に飛行機が着陸して停止すると、目の前に一部草葺きの建物が見える。空港ロビーだ。タラップを降りて歩いて中に入ると、床の一部が汚れている。この汚れは、もしや・・・。

床の汚れ
見上げると、この草葺き屋根の内側に、オオコウモリが50頭ほどぶら下がっていた。まだ預けた荷物も受け取っていないのにコウモリに出会ったのは、これまでのコウモリ旅での最速記録だ。

天井の様子1

天井の様子2
ロビーの真ん中なので、人が通るし荷物が置いてあったりするのだが、誰も気にしていないようだ。耳の付け根に白い模様があるケンショウコウモリの仲間で、このあたりではピーターケンショウコウモリEpomophorus crypturusとワールベルクケンショウコウモリEpomophorus wahlbergiが記録されている。残念ながら、どちらなのかは捕獲して奥歯を調べない限りわからない。
空港でレンタカーを借りて、売店で地図を購入。国立公園の入場許可ももらって、車で10分ほどのスククザキャンプに向かう。クルーガー国立公園にはレストキャンプと呼ばれるキャンプ場やコテージのある宿泊施設が12ヵ所ある。スククザはその中でも最大で、大小のコテージが住宅地のように建ち並び、中心地にはレストランやテイクアウトできるカフェ、食べ物やお土産を扱う売店もある。小さな図書館や博物館まである。売店入口近くの軒下にもケンショウコウモリの仲間が12頭ぶら下がっている。

ケンショウコウモリの仲間 ケンショウは肩章のことで、オスは首のあたりに匂いを振りまく特別な毛が生えているため、この名前が付いた。(この写真では「肩章」はわからない)
チェックインは14時からなので、とりあえずハンバーガーを買って河岸のベンチで食べる。川の向こう岸に小さいカバHippopotamus amphibiusが一頭いた。ここはアフリカであることを実感する。

カバ
お店の横の草地にはケープイボイノシシPhacochoerus africanusが5頭いた。バンガローの建ち並ぶ間の草地でもよく見かける。キャンプの草刈り担当らしい。ここなら外の乾燥地よりも美味しそうな草が生えているし、ライオンなどの捕食者が入ってこないから安心だ。ベルベットモンキーChlorocebus pygerythrusもキャンプを群れで徘徊している。木の実などを食べているが、お客さんが食べものの入ったスーパーの袋をテラスにぶら下げておくと、そばに持ち主がいても堂々と漁ろうとしたりするので油断がならない。

ケープイボイノシシ(左)とベルベットモンキー(右)
売店の周囲にはセイキムクドリLamprotornis chalybaeus がたくさん。サイチョウは何種類かいるようだが、これはカンムリコサイチョウLophoceros alboterminatus。どことなくアメリカのコマツグミを思わせるマミジロツグミヒタキCossypha heuglini。その他にアフリカヒヨドリPycnonotus barbatusもキャンプ内でたくさん見かける。

カンムリコサイチョウ(左)、セイキムクドリ(右上)、マミジロツグミ(右下)
14時にBD2という二人用のバンガロー142号棟にチェックイン。エアコン、トイレ、シャワー、そしてホットプレート付きで一応自炊ができる。一晩1159ランドである。
クルーガー国立公園の宿泊はインターネットで予約したのだが、あいにく同じバンガローを3晩連続では取れなかった。このバンガローは今晩だけで明日は移動しなくてはならない。明日は9:50にチェックアウトして次のチェックイン14時まで荷物はすべて車の中に置くことになる。
キャンプの受付の周りはアロエやサボテンが植えられていて、花にはシロハラタイヨウチョウCinnyris talatalaが蜜を吸いに訪れている。アフリカズキンコウライウグイスOriolus larvatusも来て、花粉まみれで顔が黄色くなっている。花に来たハチを狙ってシロビタイハチクイMerops bullockoidesも盛んにやって来た。

シロハラタイヨウチョウ(上)とアフリカズキンコウライウグイス(下)
荷物をバンガローに置いて車でキャンプの外をドライブ。南アフリカは車は左側通行なので違和感はない。早朝から夜間までさまざまなサファリツアーが行われていて、効率よく動物を見るためにはそこに参加するほうがいいのだろうが、われわれは自由に動き回る方を優先してレンタカーで回ることにした。クルーガー国立公園は広大なので、スククザキャンプ近辺のごく一部だけだ。
キャンプの脇を流れるサビー川沿いの道を進むと、アフリカゾウLoxodonta africanaの群れが道を横切った。川に向かっているようだ。国立公園内は、キャンプ内や特別に表示がある展望台などを除いて、車から降りてはいけない。人気のある動物がいると、サファリカーやレンタカーが見やすい位置にたくさん集まってくる。

道路を横断するアフリカゾウ
川向こうにカモシカかシカのような動物が4頭いて皆こちらを見ている。われわれが気になるのかと思っていたのだが、ふと道路の反対側に目をやると、巨大なクーズーTragelaphus strepsicerosのオスがいて対岸の群れを見つめている。どうやら対岸にいるのはメスの群れで、こちらの大きなオスが気になるようだ。体にアカハシウシツツキBuphagus erythrorynchusが1羽ついている。ウシツツキは外部寄生虫を食べてくれているはずだが、どこか気に障るところに触れたのか、耳を振っていた。

クーズーの雄
キャンプのゲートは夜の間は閉まって、夜や早朝のツアーにいくサファリカー以外は出入り禁止となる。ゲートが閉まる時間はパンフレットによれば17時半のはずだが、ゲートの表示では16時半になっている。閉め出されると困るので早めに帰った。