インドネシアのスラウェシ島は、東洋区とオーストラリア区の動植物が混在する、生き物が好きならあこがれる生物多様性に富んだ島だ。熱帯なのでコウモリの種類も多く、オオコウモリだけでも27種が記録されている(CHECKLIST OF THE MAMMALS OF INDONESIA)。ただし、どこに生息しているかの情報が少なく、またオオコウモリの中でも特に洞窟性フルーツバットが多いのだが、オオコウモリ猟がさかんで、アクセスのいい洞窟は捕られている可能性が極めて高い。ブナケン島はスラウェシ島北部マナドから船で1時間ほどのところにある島だ。スラウェシ島本島ではなく、ブナケン島を選んだのは、この島のチャチャ・ネイチャー・リゾートBunaken Cha Cha Nature Resortのオーナーのブログにフルーツバットの話が出てきたからである。

2012年12月2日、成田を出発してシンガポールのチャンギ空港へは翌12月3日の真夜中の3時すぎに着く。乗り継ぎまで6時間ほど、空港の長いすを占領して一寝入りする。
9時25分発シルクエアー航空は、小さく窮屈な飛行機でほぼ満席だった。スラウェシ島の北端の町マナドまでは3時間半ほど。空港でビザを入手、入国手続きに時間がかかった。
お迎えのタクシーで港へ行く。ブナケン島へ行く船はブナケン・チャチャ・ネイチャー・リゾートのオーナーのラフさんレイコさん夫妻もいっしょだ。港もボートで混んでいて出発するのに時間がかかった。
リゾートはブナケン国立海洋公園内にあって桟橋が作れないので、島への上陸は海の中を歩いて行く。波があって膝上まで水がくるので、まくり上げたズボンが濡れた。

リゾートの全景
リゾートは島の斜面に立っていて、食堂などのメインの建物がいちばん海岸寄りにあり、海を見下ろしながらアフタヌーンティを楽しめるバルコニーが素敵だ。夕方4時半から5時半に毎日違う手作りのおやつが出る。普段われわれが泊まる宿に比べると、ツーランクくらい上だ。

バルコニーからの眺め。

アフタヌーンティのおやつ。上段左はPisan Goren(揚げバナナ)、上段右は柔らかいカルメ焼きのようなもの。下段左はApang Goe(蒸しケーキ)下段右はApang Bakarというカステラのようなもの。
われわれの泊まったコテージ8は斜面をかなり登っていく。メインコテージから一気に登るとけっこう息が切れる。18時前からコテージのテラスでコウモリを待つ。日没後に1度、中くらいの大きさのフルーツバットが敷地内を飛ぶのを見かけたが、とまってくれなかった。
12月4日コテージから斜面の階段を朝ご飯に降りていくと、オオコウモリのペリットが落ちていた。昨夜は飛んでいく姿しか見なかったのだが、やはり敷地内の木にオオコウモリは来ているのだ。
リゾートの敷地の斜面を更に登っていくと裏口があり、タンジュンパリギ村Tanjung Parigi Villageへ抜ける踏み跡のような道がある。途中はバナナやマンゴーの木がまばらに生え、タロイモが植えてあったり、放し飼いの豚が採餌していたり牛がつながれていたりして、やがて村のメイン道路に出る。
タンジュンパリギ村のメイン道路は幅1.5mほどの一応舗装してある道路だが、かなり凹凸がある。オートバイは時々通るが、車は通れない。道沿いに家が建っていて、売店が何軒かと教会とサッカー場がある。道ばたの木の下にオオコウモリのペリットが少しあった。
しばらく歩くと島の反対側のリアンビーチLiang beachだ。斜面の階段を浜に向かって下りていくと、突如お土産屋の屋根が下にたくさん見えてきて、音楽や人声が賑やかに聞こえる。集落の大部分の人が昼間はこちらに移ってきたという感じで、子連れで来て、あちこちでおしゃべりしたり、空いているお店のベンチで昼寝をしている人もいる。このあたり一帯はオオコウモリの好物であるモモタマナの大木の樹冠で覆われていて、実も多少付けている。地面は掃除してあるが、オオコウモリのペリットや食べ跡を見つけることができた。あいにく夜歩いて来るにはちょっと遠い。

ビーチの様子
リゾートの周辺や裏の集落ではリュウキュウツバメHirundo tahiticaをよく見かける。リゾートの建物に営巣もしていた。

リュウキュウツバメ
午後は、大雨が降ったが、夕暮れまでにあがる。夕食後もう一度タンジュンパリギ村まで歩いて行った。途中の道を時々55kHzくらいの音声を出す小コウモリが飛ぶ。小型のオオコウモリも飛んだ。ホタルが集まる木が一本あって、クリスマスツリーの電飾のようだ。

ホタルの集まる木。空の光は星。緑色っぽい光がホタル
昼間ペリットがあったメイン道路脇の木には、小型と中型のオオコウモリが来るが、ホバリングするだけでとまってくれない。
深夜2時にオオコウモリの交尾の声で夕志は目が覚めた(啓子は悪夢を見てうなされていた)。われわれのコテージの上には、背の高いGaruga floribundaというカンラン科ガルガ属の木の樹冠が覆い被さっているのだが、ここにヒメオオコウモリPteropus hypomelanusが来ていた。センダンに似た黄色い実がなっていて、この実を食べたり、交尾したりしているようだ。オオコウモリを狩猟する国ではよくあるように、高いところにしかとまらず、懐中電灯の光に敏感に反応して逃げるので、今ひとつ観察しにくい。2時間ほど見ていたが、4時頃になってもまだ活動していた。

ヒメオオコウモリ。よく見たら赤ちゃんを連れていた。左下は食べていた実とペリット
12月5日。リゾートの朝ご飯は、朝7時半から。コーヒー、紅茶、ジュースはセルフサービスで、おかゆだったりチャーハンだったりパンケーキだったりホットケーキだったりトーストだったり、あるいはそのうちのいくつかが混在していたりする。コーヒーは細かくひいた粉に湯を直接注いだインドネシア式コーヒーだ。残り少なくなるとお湯を足している。番茶でもいれる感覚のようだ。

リゾートの朝ご飯
干潮の時に波打ち際を歩いて行くと海蝕洞があってコウモリがいると教わったので、午後から行くことにした。宿には犬が4匹いて、犬を連れて行くと洞窟に入ってコウモリを飛ばしてしまうので連れて行かない方がいいといわれていたのだが、浜に降りてみると、何か面白いことはないかと犬たちが既に待ち構えている。まだ潮が引いていなくて30分ほど浜辺で待機したのだが、犬たちも寝そべって待っている。結局この洞窟を発見したというチコというグレートデンだけがもう飽きたのか、浜辺で寝そべったまま残ったが、3匹はついてきてしまった。
干潮といっても膝下くらいまで濡れるところがあるが、アウトドアサンダルを履いたまま歩く。青いヒトデが潮だまりに取り残されている。トカゲが岸辺をちょろちょろする。10分も歩いただろうか、海に面して海蝕洞があった。心配していたとおり、われわれより先に犬たちはまっしぐらに洞窟に入ってしまい、中から2頭のルーセットオオコウモリが飛び出す。残った1頭は洞窟の凹みに身を隠している。

セレベスルーセットオオコウモリ
スラウェシ島では4種類(かつてルーセット属に分類されていたものが他にもう一種)のルーセットオオコウモリが記録されているが、尾が長めで顔に毛がはえているので,セレベスルーセットオオコウモリRousettus celebensisだ。
外に出てみると飛び出した個体も近くの岩壁にとまっている。興味深そうにこちらを見ていたが,そのうちに少し岩が窪んだところに移動。やがてもう一頭も戻ってきて、もとの洞窟に入っていった。

セレベスルーセットオオコウモリ