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Vol.79 台湾6 コウモリバスツアー

2024.4.18

 2015年6月28日、台湾の黄金蝙蝠生態館で開催されたコウモリフェスティバルが終わり、台湾南部への2泊3日のフィールドトリップが始まった。

こんなバスを利用したコウモリツアー

 東石郷にある鰲鼓湿地森林園区Aogu Wetlandは水鳥の探鳥地として知られているが、ここでもヤシの木をねぐらにするアジアコイエローハウスコウモリを観察することが出来た。1000頭弱いると掲示に書いてあった。近隣の民家にもねぐらにするヤシの木があって、こちらも700頭以上いるそうだ。

皆でヤシの木のコウモリ観察

民家の庭のアジアコイエローハウスコウモリのいたヤシの木(左)と垂れ下がった枯れ葉の中のコウモリ(右)

 その後台南に移動して夜はハープトラップと霞網を使った捕獲調査を見学する。ハープトラップはハープのように細い丈夫な縦糸を張り、ぶつかったコウモリが下の袋に落ちる捕獲道具で、オーストラリアのFaunatech 社のAustbatというのが有名だが、これは台湾製だということで、コンパクトで軽くてよくできている。コウライクビワコウモリEptesicus serotinusが何頭か捕獲された。計測して放獣。樹皮や樹洞をねぐらにするそうだ。バットディテクターには、ユビナガコウモリMiniopterus fuliginosusやタイワンキクガシラコウモリRhinolophus formosaeと思われる音声も入った。

捕獲したコウライクビワコウモリ

 翌日は高雄市のいくつかのトンネルを回って台湾固有のホオヒゲコウモリの仲間Myotis secundusを観察する。このコウモリは2003年に発見されたので、タイワンクロアカコウモリと同様に、日本の哺乳類学会による世界哺乳類標準和名リスト2021年度版ではまだ和名がついてない。案内していただいた台湾のコウモリ研究者周政翰さんが識別用のバンドをつけた個体もいた。子育ては洞窟やトンネルで、それ以外の時期は森林にいるコウモリだ。

保護区の看板(左)と、トンネルに入っていく一行(右)。

まだ和名のないホオヒゲコウモリの仲間(Myotis secundus)

 同じトンネルにタイワンヒメキクガシラコウモリRhinolophus monocerosもいた。

タイワンヒメキクガシラコウモリ

 昼食後台南市に戻り、ロンガンやライチー、マンゴーやドラゴンフルーツの実る果樹園の中をバスは走る。山上原台南水道浄水池区という日本統治時代に台南に水を供給するためにつくられた施設を見に行く。現在は歴史的遺産として保存されている。浄水施設はコウモリの保護のため台湾蝙蝠学会のアドバイスにより出産期には保存工事を避けたり、上部を緑化したりとコウモリ保護に努めている。
 建物の中に入り中央の通路からコウモリが生息している部分を眺める。ヒマラヤカグラコウモリと、タイワンヒメキクガシラコウモリがたくさんいた。コウモリの休んでいるところには行けないようになっている。ストロボも使用禁止で、コウモリ観察とコウモリ保護が両立した、素晴らしい保護施設となっている。19時頃ドアの上の隙間から出巣するとのことだが、今回は残念ながら出巣の前に引き上げた。

浄水施設の外観(上)。青い扉の上部に空間があって、コウモリが出入りできる。内部を赤いライトで照らして撮影(下)

 このあとマンゴー農場に行って2種類のマンゴーをたくさん食べ、ドラゴンフルーツの畑で、ドラゴンフルーツ狩りをしたのち、日本がつくったというユビナガコウモリが1万頭いる灌漑用の水路も見にいった。グアノの匂いがして、出巣の時間には早いが、1頭入口を飛んでいた。

今回の食事(左上、下)やおいしいマンゴー(右上)

 夜は台南の町がよく見える展望台に案内して貰い、近くでハープトラップとカスミ網調査を行った。上空はけっこうコウモリが飛んでいるようだが、捕獲はできなかった。
 翌日も、宿の近くをまわり、森でキノボリトカゲDiploderma polygonatumを見たり、水路に降りて地面の下を流れる水路でヒマラヤカグラコウモリHipposideros armigerを観察した。

水路にはしごを使って降りる

ヒマラヤカグラコウモリ

 そして嘉義の駅まで送ってもらってフィールドトリップは終了。フェスティバルでお世話になった黄金蝙蝠生態館の張恒嘉さんが、見送りに来てくれた。

 皆と別れた後、われわれは台北に泊まって、夕方中正記念公園にアブラコウモリを見にいった。

 翌日は、最近クビワオオコウモリの目撃例があった、花蓮の花蓮文化創意産業園区という、日本時代の酒造工場の跡地にできたショッピングモールまで自強号で日帰りで行った。

花蓮のショッピングモール

 オオコウモリの餌になりそうなモモタマナやガジュマルやテリハボクがたくさんあるのだが、あいにく姿も痕跡も見ることが出来なかった。幸いにして案内所では日本語が通じたので、クビワオオコウモリのニュースが載っているインターネットのページを印刷したものを見せて、尋ねてみたら、時々、夕方にオオコウモリが来るという。こうやって街中にも出てくるということは、タイワンオオコウモリも沖縄のように身近で見られる日が来るのかもしれない、と当時思ったものだが、ほんとうに今ではたびたび見かけるようになっていて、市民調査も行われているようだ。
 コウモリフェスティバル以来、台湾にも行く機会が無いままだが、コウモリ研究者やコウモリファンが元気な魅力的な台湾にはまた行ってみたい。関係者の皆さんが今回の地震の影響を受けていないといいのだが。

著者プロフィール

大沢啓子(おおさわ・けいこ)・大沢夕志(おおさわ・ゆうし)

1988年に南大東島でオオコウモリに出会って以来、コウモリに惹きつけられ、世界を巡って観察している。講演会や観察会、企画展示、書籍など、コウモリの魅力をたくさんの人に伝える活動をしている。動物園にやってくる野生のコウモリの観察会をすることもある。コウモリの会評議員、日本自然科学写真協会理事(夕志)。主な著書『身近で観察するコウモリの世界』『コウモリの謎』(誠文堂新光社)、『オオコウモリの飛ぶ島』『ふたりのロタ島動物記』(山と渓谷社)、『南大東島自然ガイドブック』(ボーダーインク)など。

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