2016年7月31日、クルーガー国立公園の飛行場をケンショウコウモリに見送られて出発し、ヨハネスブルグを経由してインド洋沿岸の町ダーバンへ。

クルーガー国立公園の空港ロビーのケンショウコウモリ属
今回の旅の本来の目的、第17回国際コウモリ研究会議の会場に向かった。日本からはわれわれ以外に3人の研究者が参加している。
大会の公式ホテルの予約やホテル空港間の送迎、オプショナルツアーなどは、地元の旅行会社が担当している。ホテル-空港間の送迎を行きだけ頼んだのだが、飛行機の便をメールで伝えると、まず大会ホームページのmailtoフォームで送ったメールアドレスが間違っていて、戻ってきてしまった。メールの宛先を見ると、ホームページに表示されていない余計な文字が入っている。宛先を書き直して送ったのだが、まったく音沙汰がない。治安に不安がある町で空港に行って誰もいないとお手上げなので、一週間ほど待ってもう一度催促のメールを送ると、この人が担当だからこの人にメールを送れという指示が来た。じゃあホームページに書いてあったこの連絡先は何なのだ!飛行機が決まったら直ぐここに連絡せよと書いてあったのに。
新たに教わったアドレスにもう一度同じメールを送る。4日後にやっと返事があり、後ほど確認書を送るという。更に待つこと2日、やっとAirport Transfer Detailという確認書が送られてきた。南アフリカは遠い!
飛行機の便を伝えたときにヨハネスブルグからの便であることも書いたし、確認書にもそう書いてあったのだが、国内線のゲートから出ると、誰もいない。どうしていいかわからずに20分ほど呆然とたたずむ。一人の男性が来てわれわれの名前を確認して、こちらに来るようにと言う。行った先は国際線のゲートで、既に待っている参加者がたくさんいた。国内線で行くと伝えてあるのだから、こちらのゲートに迎えに来るか、あらかじめメールで国際線ゲートの方に来いと指示してくれればいいのにと思ったが、既に待っていたF氏によると、旅行会社の人が持っているメモには便名しか書いてなかったという。もっとも参加者の中には便名を知らせていない人や、送迎を予約していないのにその場で頼みたいとか言う人もいたから、どっちもどっち、アフリカにはアフリカの流儀があるのだろう。
ダーバンは南アフリカ第三の都市。会場のゲートウェイホテルがあるのは中心街から外れた郊外のきれいな町で、中心部ほど治安は悪くなさそうだが、南アフリカの都市部で夜コウモリを探して歩き回る勇気はない。会場前の通りには、けっこう実のなるイチジクの仲間の木があり、オオコウモリのペリットらしきものも落ちていたし、会議で出会った地元クワズールナタール州のコウモリグループの人からも、オオコウモリはそこらの木にやってくるはずといわれたのだが仕方ない。町中で昼間見かけたのはイエスズメやインドハッカなど世界的におなじみの鳥。

町中で見つけたオオコウモリのペリット
本格的に会議が始まったのは8月1日から。われわれはいつも通り、会場になっているホテルではなく、近くの安いホテルに泊まる。とはいっても夜暗くなってから町中を歩いて帰るのは心配なので、会場の高級ホテルに隣接する巨大ショッピングセンターの中を通り抜けてたどり着けるホテルだ。
会議の参加者は300人くらいいただろうか。風力発電施設でコウモリが風車のブレードに衝突したり、バロトラウマ(気圧性外傷、ブレードの近くで気圧が急激に変化するため肺が損傷する)によって大量に死亡しているのが、近年欧米でいろいろと報告されているが、各国の状況についての発表があった。また、最近小型GPSが開発されたので、コウモリにGPSをつけて行動や移動を調べる研究が花盛りのようだ。この時はまだ体重のある大型のオオコウモリの仲間にしか装着できなかったが、今現在は大きめの小型コウモリにも付けられるくらいGPSの小型化がどんどん進んでいる。

われわれは、新幹線高架の隙間をねぐらにするコウモリについてのポスター発表をした。35番のポスター。
会期途中で半日ワークショップの日があり、興味のあるものが何もなかったので、ダーバン植物園に行ってオオコウモリさがしをすることにした。会場でブースを出していたクワズールナタール州コウモリグループの人たちの話によると、かつては入口を入った左側にいたけど、今はわからない。入口のインフォメーションで聞くとわかるかもしれないとのこと。また近くにあるマスグレーブセンターというショッピングセンターの入口のヤシの木にオオコウモリがいるという話も聞いた。
ホテルでタクシーを頼んで植物園に行く。インフォメーションで聞いたがオオコウモリはどこにいるかわからないという。途中で出会った警備員さんも知らないという。植物園には池があり、池の畔の木になにやらたくさんぶら下がっているのでオオコウモリかと急いで近づくと、残念ズグロウロコハタオリPloceus cucullatusの吊り巣だった。

ズグロウロコハタオリとその吊り巣
畔の木には、アフリカクロトキThreskiornis aethiopicusやアフリカヘラサギPlatalea albaが休んでいる。池の中はエジプトガンがたくさんいて、草地に上がっている個体もいる。

アフリカクロトキ(左)、アフリカヘラサギ(右)

エジプトガン
野外ではもう絶滅してしまった大きなウッドオニソテツが植えられたコーナーや、シダのコレクション、パイナップルのような植物のコレクション、ヤシの並木道などなど散策するが、オオコウモリは見つからなかった。大きく葉が茂った木が多く、実をつけている木があるのでどこかにいそうではある。ここだったらケンショウコウモリ属はワールベルクケンショウコウモリしかいないはずで識別が簡単なのに残念だ。
マスグレーブセンターはタクシーで5分ほどの距離にあるので、帰りに寄って、ヤシの木にいるというコウモリをさがしに行く。ショッピングセンターの両側に立体駐車場に登る螺旋状の車道があって、その中心にある植え込みなのだが、買い物に行くわけではないのにショッピングセンターへ行って、それも2ヶ所ある立体駐車場のうちの、ステファン・ドラミニ通り側というのをタクシーの運転手に理解してもらうのに時間がかかって、さんざん周囲を回る羽目になった。やっとステファン・ドラミニ道路の路上に停車してもらって、車がさかんに出入りする螺旋道路のいちばん下からヤシの木を双眼鏡で探すが、見つからなかった。車で入るところなので、いつまでも立ち止まって探しているわけにもいかず、すぐにあきらめる。
ということで会議そのものは楽しかったが、夜自由に外を歩き回れない町は、コウモリ観察には向いていない。
最終日の8月5日には以前われわれもいったことがあるケニアのカカメガの森(連載のVol.35-37)でのコウモリ調査の発表があったのだが、残念ながらわれわれは一足先に5日の発表は聞かずに帰国する。発表者と話してみたかったのが心残り。

会場で購入した地元のコウモリグッズ

記念品のデイパック。今回の大会のロゴは、アフリカミツバカグラコウモリCloeotis percivaliのデザイン。
帰りはダーバンからヨハネスブルグへ出て、ヨハネスブルグから香港経由で羽田なのだが、ヨハネスブルグ出発が2時間近く遅れて、香港空港に着いたのは、乗り継ぎの香港-羽田便が出発する時間。当然乗れないので、出口で待っていた係員の案内で、羽田便に乗るはずだった10人は、2時間後くらいに出る別の便に振替の手続きをする。それでも時間ギリギリ。おとなしく担当者のあとを歩く日本人ばかりではないので、「急いで急いで」といってもなかなか急ごうとしないお客さんもいて、最後は空港の廊下を走る羽目になった。走るのに向いてない体型の人の手荷物を一部持ってあげたりして、なんとか滑り込みセーフ、無事その日のうちに帰国できた。