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Vol.52 ニューカレドニア3 やっと野生のLa roussetteを見る

2022.1.16

 2002年8月のニューカレドニアは、野生のオオコウモリLa roussetteには会えないまま、旅もあとわずかとなった。
 17時半、ヤンゲンのクラブメッドの敷地からちょっと離れた岩山のあたりで夕暮れを待つ。海岸の方から白い大きな鳥が飛んできてすぐ近くの電線に止まった。メンフクロウTyto albaだ。ちょうどなわばりの真ん中にわれわれが立っていたのか、何回か行ったり来たりしては、電線に戻ってくる。  岩山はまるで妙義山のようなぎざぎざの稜線をしている。

岩山の様子

 双眼鏡で稜線のあたりを見るとどうやらオオコウモリが飛び始めたようだ。
 18時15分、道路に立っているわれわれの上空を、次々オオコウモリが通過していく。大きさはトンガオオコウモリくらいで、結構高いところを飛ぶ。それとは別に近くの木々の樹冠をもっと小さくて速く飛ぶ小型オオコウモリがいる。ニューカレドニアオオコウモリのようだ。小コウモリも時々飛んで、バットディテクターには50kHzのFM音が入る。
 宿の近くの道路際に大きなデイゴの木がいくつかあって花が咲いている。ここに大型の首回りが黄色いオオコウモリ(トンガオオコウモリかハレギオオコウモリ)と小型の黒いニューカレドニアオオコウモリが来ている。しかし、葉がよく茂っていて見づらい。
 宿の入り口の、夕方ペリットを見つけたパパイヤを見に行くと、ニューカレドニアオオコウモリが一頭いた。静かにパパイヤの実を独り占めしている。やっとニューカレドニアで野生のオオコウモリをしっかり見ることができた。

ニューカレドニアオオコウモリ

 どこかで銃の音がするのは何だろうか。

 朝5時半、満天の星空。昨夜のデイゴ通りを小コウモリが飛んでいる。デイゴの花にはニューカレドニアオオコウモリが一頭だけいた。5時40分、空がうっすら明るくなってくる。岩山の方から昨日と逆コースにオオコウモリが次々飛んでくる。10分ほどでその群がとぎれたので、宿に戻る。

 朝ご飯をすませてから8時過ぎに、昨日のオオコウモリを飼っている家の方向へぶらぶら歩く。道の両側は疎林とバナナ畑で、カレドニアガラスがたくさんいる。カレドニアガラスは、小枝をつかって木の穴の中にいる虫をつつき出したりする「道具を使うカラス」として知られている。初日に行ったミッシェル・コルバッソン動植物森林公園にも一羽いて、退屈なのか小枝をくわえて檻の手前にやってきて、われわれに「遊ぼうよ」とでもいいたげな動作をした。われわれも小枝を差し出すと、自分の小枝を使ってわれわれの差し出す小枝を檻に取り込もうとする。しばらくこのカラスと遊ぶことができた。

動物園のカレドニアガラス

 ゴシキセイガイインコやインドハッカAcridotheres tristis、オオミカドバト、シロハラアナツバメも飛んでいる。カレドニアハゲミツスイはバナナの花をつついている。乗馬のインストラクターがお客さんと通りかかり、「こんにちは」と日本語で挨拶していった。
 ホテルに戻り昨日のパパイヤの木を見に行くと、新しいペリットがいくつか落ちていて、オオコウモリの上顎の痕がきれいについている。あたりはパパイヤの皮も散らかっていて、アリが群がっていた。

 今朝ほどのデイゴの木のあたりに、メンフクロウがネズミをくわえて静かに止まっていたが、カレドニアガラスがやって来たせいか飛び立ってしまった。この辺もカレドニアガラスが多い。

メンフクロウ

 ハイムネメジロやギンミミミツスイ、ヨコジマミツスイGlycifohia undulataが盛んにデイゴの花をつついている。オオコウモリとは時間的棲み分けだ。犬3匹を連れて銃を持った人が自転車で通り過ぎる。昨日銃声がしたし薬莢も落ちているから猟期なのだろうか。
 明日は帰国するので、空港へ行く途中のラフォアLa foaという小さな集落にあるホテルバヌHotel Banuに今夜の予約をする。ニューカレドニアではいつものことだが、電話にでた相手はフランス語でぺらぺら喋り始める。これを遮って英語で今夜の予約をしたいのですが、と何回か繰り返すと、電話の向こうで誰かが呼ばれ、英語の通じる女性に変わってくれた。実際に宿に行ってみたら、オーナー夫妻は全く英語が通じない。従業員に1人だけ英語を話す人がいるのだが、電話に出たのも多分この人だろう。日本の小さな田舎町で、外国人が泊まることなどまずない小さな個人経営の旅館にいきなり英語で予約の電話をしたようなものだ。「○○さーん。ちょっとちょっと、外人さんみたいだから出て~~、英語だよ。」とでも言っているのが目に浮かぶようだ。

 飛行機を予約した際に飛行機が予定通り出るかどうか、前日にエールフランスに確認するように言われていたので電話をする。ところが、今度はフランス語の録音された音声案内なので、強引に英語で喋るという手が使えない。「○○の方は1番を、○○の方は2番を、○○の方は3番を押してください。」と言っているらしいことは見当がつくが、その中味がわからないし、人間が答えてくれるところまでたどり着かないと話にならない。お手上げなので、クラブメッドのフロントに頼んで、かわりに電話してもらった。(最近は必要なくなったが、当時は国際線の場合、リコンファーム-予約の再確認-をしなければいけないことがほとんどだった。)

 再び長時間ドライブをしてラ・フォアに着いた。途中の山々がかなり火事で燃えている。

地図

 19時、ホテルに併設されているレストランに行こうと敷地内を歩いていると、大きな木のそばでオオコウモリの声がした。懐中電灯を取りに戻ってその木を照らしてみたが、姿は見えない。聞き間違えたかと思って懐中電灯を部屋に置いて同じ木のそばを再び通ると、かなり低い位置からオオコウモリの声がする。木の奥に小屋があり、オオコウモリが飼育されていたのだ。隣町にオオコウモリ料理を出すレストランがあるので、もしやと思って、唯一英語の通じるスタッフに聞いてみたら、これはお客さんに見せるためだという。後ほどホテルのパンフレットを見せてもらったら、表紙にオオコウモリの写真が載っていた。
 レストランはなかなか豪華だった。Tボーンステーキプロヴァンス風とシーフードたっぷりのトロピカルサラダを注文する。隣のテーブルで、ノートパソコンを操作しながら食事を待っている男性がいた。生牡蠣とワイン、そしてメインディッシュの後はブランデーと、1人で食事を楽しむ様子が、なかなか粋だ。その彼が、食事を終えてテーブルを立った際にわれわれのところにやってきて、サラダについている2種類のドレッシングは、透明な方は野菜に、マヨネーズベースの方はエビにかけるのだと教えてくれた。われわれはどちらにも透明なドレッシングをかけていたのだが、グルメなフランス人から見たら、とんでもない食べ方だったのだろう。

ホテルのパンフレットとトロピカルサラダ。このホテルも現在は経営が変わってしまった。きっとオオコウモリもいないだろう。

 翌朝もう一度小屋のオオコウモリを見に行く。ハレギオオコウモリが数頭。ここのオーナーが、小屋の掃除と餌をやっているところだった。餌は堅いビスケット風のパンだ。フランス領のオオコウモリはやはりパンがお好みらしい。

ハレギオオコウモリ

 空港売店でユーモラスなオオコウモリの切手を見つけた。オオコウモリのぬいぐるみもすごくユーモラスなものがあって、これも購入。飛行機は成田経由パリ行きで、乗客のほとんどはフランス人。8時間半の飛行の後、成田空港に帰り着いた。

切手とぬいぐるみ

 ニューカレドニアにはもう1種類ニューカレドニアオナガフルーツコウモリNotopteris neocaledonicusというオオコウモリがいるはずなのだが、残念ながらまったく情報はなかった。

著者プロフィール

大沢啓子(おおさわ・けいこ)・大沢夕志(おおさわ・ゆうし)

1988年に南大東島でオオコウモリに出会って以来、コウモリに惹きつけられ、世界を巡って観察している。講演会や観察会、企画展示、書籍など、コウモリの魅力をたくさんの人に伝える活動をしている。動物園にやってくる野生のコウモリの観察会をすることもある。コウモリの会評議員、日本自然科学写真協会理事(夕志)。主な著書『身近で観察するコウモリの世界』『コウモリの謎』(誠文堂新光社)、『オオコウモリの飛ぶ島』『ふたりのロタ島動物記』(山と渓谷社)、『南大東島自然ガイドブック』(ボーダーインク)など。

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