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Vol.55 パプアニューギニア3 オオコウモリの町マダン

2022.4.16

 パプアニューギニアのコウモリ旅の続き。2003年1月2日、この日はニューブリテン島からニューギニア島のマダンに移動する日だ。

パプアニューギニア全図

 午前中駆け足でラバウルとその手前のバージェストンネルを見学する予定なのだが、朝から大雨である。そして昨夜フロントに話をしておいたにもかかわらず、通じていない。ここのフロントはボーイさんやメイドさんが交代で担当して、担当者が代わるとまったく話が通じていないことがしばしばある。
 結局9時10分くらいに、いつもとは別のドライバーの運転で出発する。まずはラバウルとの中間地点のブルーラグーンというあたりで車を止める。日本軍の掘ったトンネルがこのあたりにはたくさんある。個人の敷地を通ってバージェストンネル入り口に着く。ここの家の人に入場料を払うと鍵をあけてくれる。

トンネルの入口

 入り口近くをイワツバメの仲間が飛び交っていて、洞窟の天井のへこみに草を運んで巣を作っている。
 トンネルには船が縦に5隻入っている。2隻目の左側に観覧用の通路があって、階段を数段上った足場みたいなところを歩けるようになっていて、朽ちかけた船を上から見下ろせる。通路の行き止まりから3隻目が見える。バットディテクターには55kHzくらいのCF音と150kHzの弱いキュルキュルという音が入り、懐中電灯を付けてみると、たくさんの小コウモリが飛び交い天井にも止まっている。

壁に止まっていたキクガシラコウモリの仲間

 さらに大きいコウモリが奥の方の壁にとまっている。ジョフロワルーセットオオコウモリのようで、もっとじっくり見たいが時間がない。小コウモリもいろいろ探してみたい場所だ。
 1994年に爆発した3つの火山のうちの一つ、ブルカン山のそばを通る。ここはかつてシンプソン湾に浮かぶ島だったそうだが、噴火で地続きになってしまった。このブルカン山の噴火がラバウルの町を破壊したということだが、今は火山活動は停止し、荒涼とした斜面には低木が少し生えてきている。熱帯の遷移は早い。
 ラバウルの町の入り口に屋外マーケットがある。

ラバウルのマーケットの様子

 現在ではわれわれの泊まっているココポの町の方が大きいが、ラバウルも健在である。しかしさらに進んでかつての中心街に入ると、火山灰が2mほど積もり、これが消防署、これが銀行と説明してくれるがすべて廃墟である。
 メインロードを通り過ぎて奥まで行くと、昔のラバウル空港である。かつての滑走路も厚く火山灰に覆われていて、そのすぐ脇にもう一つ1994年に爆発した小さな山がひっそりとある。さらに遠くには今でも盛んに噴煙を上げているタブルブル山がある。

ココポの海岸から見ると、対岸のラバウルは目の前で、噴煙をあげているタブルブル山もよく見える。

 この山の麓には火山灰に卵を埋めて地熱で孵すツカツクリのコロニーがあって、噴火でコロニーは移ったものの健在で、今回は時間がないので行かなかったが、対岸からボートを頼むと見学できるらしい。このツカツクリのゆで卵がマーケットに出ることがあるそうだ。

 ラバウルを出たのは11時10分。道路に大穴があちこちあいているのであまりスピードが出せず、ホテルに帰り着いたのは11時45分。大慌てで10分で荷物をまとめてチェックアウトしようとしたら、クレジットカードの機械がうまく働かない。マータが四苦八苦している。結局どうにも動かないので手動でクレジットカードの伝票を書いてくれてホテルを出たのが12時15分、空港に着いたのが25分。飛行機は12時50分発予定なので、焦りに焦ったのだが、ここはパプアニューギニア、時間になっても搭乗は始まらない。出発ロビーに入るのに、荷物のチェックも金属探知器のゲートも何もなく、なんとものんびりしている。やがて滑走路側のドアを開けた係員が”Madang, Madang”と飛行機の行き先を告げる。

 『Bats of Papua New Guinea』には、「マダンの町中には7000頭のオオコウモリが生息しているために、近くにあるマダン空港で航空機とコウモリの衝突(Bat Strike)が心配され、本の著者らがコウモリの行動の調査を行った。その結果を受けてニューギニア航空は17時から20時の間はマダン空港に着陸をしないことにした」という記載がある。BAT(野球のバットと同じ綴り)というくらいだからいかにもストライクしそうだが、オオコウモリを駆除したりコロニーを移動させようとしている国もあるのに、なんと粋な計らいではではないか。
 マダンに着いて送迎車でホテルに行く途中、あちこちでオオコウモリが飛ぶ姿が見える。モクマオウの木にオオコウモリが鈴なりになっている。町中がオオコウモリだらけだ。このあたりにいるのはオーストラリアのクイーンズランド州にも生息しているメガネオオコウモリである。

街中を飛んでいたメガネオオコウモリ

 マダンリゾートホテルは、レストランが何軒かとプールもある。ココポビレッジリゾートよりはだいぶリゾートホテルらしいホテルで、お客さんはダイビングに来た日本人とオーストラリアからの観光客が多いようだ。何よりも嬉しいのは、ホテルの中庭の植え込みに、メガネオオコウモリの30頭くらいのねぐらがあることだ。オオコウモリつきのホテルである。着いたのは夕方16時でまだ明るい。メガネオオコウモリはみんな静かに眠っている。
 とりあえずホテル周辺を散歩する。ちょっと歩くとBest Buyという大きなスーパーマーケットがあり、そばに屋外マーケットもある。このあたりの広場のモクマオウの木にオオコウモリがたくさんいる。

スーパーの裏のモクマオウにオオコウモリがいた

マーケットの側から見たオオコウモリのいるモクマオウ

 この町もいたる所に人々がたむろしている。ホテルには日本人がけっこういたが、ここまで出てくる人はそんなにいないのか、またまた注目の的である。わざわざわれわれのほうにまっすぐ歩いてきて「どこに泊まっているの」と聞きにきた人がいる。「わーい、外人と話しちゃった」という気分だろうか。
 Best Buyで食料を少々買い込み、中のKai Barで夕食も食べる。ポテトが2キナ、ローストチキンの1/4羽が3.7キナ、チキンシチューとライスで7キナである。コーヒーを頼んだら、インスタントコーヒーの瓶と砂糖の入った瓶とカップと一人あたり2杯分のお湯を入れたポットとミルクピッチャーが出てきた。ジュース類が1.1キナなのに、このインスタントコーヒーセットが一人2.5キナは高く感じる。パプアニューギニア産ネスカフェだ。

チキンシチューとライス(左上)、ローストチキンとポテトフライ(右上)、ケーキのような甘いパン(左下)、袋入りのパプアニューギニアのインスタントコーヒー(右下)

 夜20時過ぎに中庭を散歩したが、オオコウモリは出かけてしまった後らしくとても静かだ。

著者プロフィール

大沢啓子(おおさわ・けいこ)・大沢夕志(おおさわ・ゆうし)

1988年に南大東島でオオコウモリに出会って以来、コウモリに惹きつけられ、世界を巡って観察している。講演会や観察会、企画展示、書籍など、コウモリの魅力をたくさんの人に伝える活動をしている。動物園にやってくる野生のコウモリの観察会をすることもある。コウモリの会評議員、日本自然科学写真協会理事(夕志)。主な著書『身近で観察するコウモリの世界』『コウモリの謎』(誠文堂新光社)、『オオコウモリの飛ぶ島』『ふたりのロタ島動物記』(山と渓谷社)、『南大東島自然ガイドブック』(ボーダーインク)など。

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