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Vol.66 スリランカその4 アヌラ-ダプラの生き物

2023.3.16

 2012年スリランカコウモリ旅の続き。アヌラーダプラ滞在中。観覧時間終了後のイスルムニア精舎の敷地に入れてもらい、デマレルーセットオオコウモリの出巣を待っている。

 イスルムニア精舎は涅槃仏のある建物がメインだが、その横の斜面の階段を少し上ったところにもう一つ仏様がまつられている小さな建物がある。ガードマンがその建物を指して「Bats」という。理解できなくて首を振ったら、階段を上りながらついてくるよう手招きする。お堂に入ると天井付近に何頭かサシオコウモリがとまっていた。

サシオコウモリの仲間。この仲間は、折りたたんだ翼を前方につきだし、頭をのけぞるような独特の姿勢をする。

 なるほどデマレルーセットオオコウモリを熱心に撮影していたのを見ていたので、ここにもいるよと教えてくれたらしい。スリランカには3種のサシオコウモリの仲間が生息しているが(Bats of the World:A Taxonomic and Geographic Database2023年3月確認)、クロヒゲツームコウモリTaphozous melanopogonかナガバネツームコウモリTaphozous longimanusだろう。
 夕方になるとニシヒメアマツバメが精舎の上空を乱舞する。それを狙っているのかタカもやって来る。30分ほど飛び回ったあと、ニシヒメアマツバメは一斉に精舎の開けっぱなしの入口から建物の中に入っていく。ねぐらは建物の中にあるのだ。
 デマレルーセットオオコウモリは18時40分頃から出巣を始めた。出てすぐに左の木立の中へ入ってしまい、せっかく敷地の中に入れてもらったのに姿は見づらい。19時頃までには出巣はほぼ終了。外に出たが、車も三輪タクシーのトクトクも見あたらないので、田んぼの中の広い夜道を3kmくらい歩いて宿まで帰る。

 翌1月12日も、朝食後、トクトクで再びイスルムニア精舎に行く。洞窟は開口部が東向きなのでデマレルーセットオオコウモリにも陽が当たって明るくなるかと思ったのだが、もっと早朝でないと奥まで陽が入らないようだ。ただ見ている最中に突然コロニーに騒ぎが起きて一部のコウモリが入口近くに出てきたので、撮りやすくなった。何で騒ぎが起こったのかは不明。

入口近くにやって来たデマレルーセットオオコウモリ

 精舎の前で待っていても、昼間でもトクトクは滅多に来ない。今日は、日本人旅行者が借り切ったトクトクに同乗させてもらう。とはいってもわれわれの分の200ルピーは別に請求されるのだが。半日観光で借りて1500ルピーだそうだ。
 メイン道路で下ろしてもらい道沿いの食堂に入る。停電なのかガス燈を使っていて店内は薄暗い。こちらによくある方式で、テーブルに座るといろいろな種類のパンやサモサなどが籠や大皿に盛られて出てきて、好きなものを取って、食べた分だけ支払う。よく見ているといったん手に取ってから籠に戻す人もいて、コロナの感染を心配しなければならない今なら、ちょっとためらう方式だ。パン4つと水の1リットルボトルとペプシコーラ500mlで290ルピー。

テーブルに運ばれてきた大皿

 三角形をしているのは野菜サモサで、揚げたのと焼いたのがある。春巻きのようなのはビーフ入り。丸いのは豆を潰して揚げたコロッケのようなものでいちばんおいしかった。
 夕方、近くの湖まで散歩。洗濯をしている人、体を洗う人などがいる。列車の駅まで行くと、駅前はお店もなく、トクトクが何台かとまっているだけだ。明後日の朝空港まで行くために、インターシティトレインの切符を買う。

 翌朝は、デマレルーセットオオコウモリのいる隙間に陽が入る早朝に見に行こうと、5時30分に起きる。昨日ゲストハウスのオーナーは玄関の出口の鍵を鍵穴に差しておくといったのに忘れたようで、6時すぎに女性の従業員が一人起きて来るまで出発できなかった。結局警備員がイスルムニア精舎の敷地に入れてくれたのは7時半になってしまった。昨日よりはデマレルーセットオオコウモリのいる隙間に日差しが入っているが、昨日のようにオオコウモリが入口付近に来ることはなかったので、見やすいとはいえない。

デマレルーセットオオコウモリ

 イスルムニア精舎周辺は遺跡地区といって古代の貯水池のほとりに仏塔、寺院、王宮、博物館などが集まっている。散策すると、カンムリラングールSemnopithecus priamの群れとトクモンキーの群れに出会う。2種のサルが近づいた時はお互いの姿を見ないようにしているようだ。

カンムリラングール

田んぼの中を歩くトクモンキー

 古代の貯水池ではウやサギ類のほかに、大きなホシバシペリカンPelecanus philippensisがいた。日本と同じカワセミAlcedo atthisのほかカラフルなアオショウビンHalcyon smyrnensisというのもいる。

アオショウビン

 スリランカやインド周辺は、世界のあちこちで移入種としてお目にかかった鳥たちの故郷だ。オーストラリアやハワイなどあちこちで害鳥扱いされているインドハッカAcridotheres tristis、東京周辺では群れをなしているホンセイインコPsittacula krameri、Vol.22のロタ島でも登場し、ほかの鳥を攻撃したりマリアナオオコウモリをいじめたりしていたオウチュウDicrurus macrocercus、ハワイやオーストラリアなどあちこちに移入されているカノコバトSpilopelia chinensisも、みんなここでは由緒正しい「在来の野鳥」だ。

左上:ホンセイインコ。左下:カノコバト。右:遺跡とインドハッカ。

 昨夜マハネラ・ゲストハウスの前の植え込みでデマレルーセットオオコウモリを見かけたのだが、カメラを取りに部屋に入っている間にいなくなってしまった。今夜は待ち構えていると、18時20分、ナンヨウザクラMuntingia calaburaの実にデマレルーセットオオコウモリが2頭やってきた。20分間ほどほとんど止まらずにホバリングしていた。

宿の植え込みにやって来たデマレルーセットオオコウモリ

 明日の朝の出発は早いので朝食はなしだという。早朝に出られるようにドアに鍵をさしておくといっていたが、夜21時過ぎに確認に行くと差してないので、今朝のような目にあって電車に乗り遅れないように、オーナーの住んでいる上階に催促に行く。

 1月14日、5時45分荷物を持ってゲストハウスを出て、大通りを少し歩いたところでトクトクを拾う。アヌラーダプラの駅まで150ルピー。駅には6時すぎに着いた。
 予定時刻を過ぎてもまったく列車が来る気配はない。別に誰もあわてている様子はないから、普通のことなのだろう。結局列車は予定より30分ほど遅れてやって来た。
 駅の売店で、お弁当やおやつを売っている。サモサやパンの他に御飯に豆のカレーが載ったものがあったので買ってからハタと気がついた。箸もスプーンもついてない。こちらの人は右手で御飯とカレーを押しつけるようにして器用にまとめて口にしている。買ってきたお総菜などをゲストハウスで食べるときは、スプーンを借りたので問題はなかったのだが、列車の中では何もない。しょうがないので見よう見まねで手で食べたが、ごはんはポロポロと崩れ、口に入る前にこぼれてしまう方が多くて、途中で挫折した。箸を使ったことのない外国人が、箸を使ってご飯を食べるとこんな気分になるのだろう。スリランカではマイスプーンが必需品だった。

新聞紙に包まれた弁当(左下)と、せっかくなのに全部食べられなかった中身

 車窓からの風景は、田んぼが続き時々町がある。12時ちょっと前にコロンボフォート駅へ着く。飛行場へ行く路線もあるのだが、列車の接続が悪いので、ここからは、タクシーで空港へ行き、帰国した。

車窓からの風景。街中の踏切。

 2023年現在、スリランカはまた、ちょっと行きにくい国になってしまった。行けるときに行っておいてよかったと切実に感じている。

著者プロフィール

大沢啓子(おおさわ・けいこ)・大沢夕志(おおさわ・ゆうし)

1988年に南大東島でオオコウモリに出会って以来、コウモリに惹きつけられ、世界を巡って観察している。講演会や観察会、企画展示、書籍など、コウモリの魅力をたくさんの人に伝える活動をしている。動物園にやってくる野生のコウモリの観察会をすることもある。コウモリの会評議員、日本自然科学写真協会理事(夕志)。主な著書『身近で観察するコウモリの世界』『コウモリの謎』(誠文堂新光社)、『オオコウモリの飛ぶ島』『ふたりのロタ島動物記』(山と渓谷社)、『南大東島自然ガイドブック』(ボーダーインク)など。

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