2010年、タンザニアのペンバ島でのコウモリ旅の続き。
滞在しているウェテの町では、夜になると甲高い可聴音でツンツン鳴く小コウモリの声があちこちから聞こえる。かなり大きな声で、ホテルの部屋にいてもよく聞こえてくる。夕方ホテルの屋上から見ていると、斜め向かいの建物の3階の軒下あたりからたくさん出てくるようだ。また早朝ウェテの港に行った時は、港の入国管理事務所に、背中が茶色でお腹が白っぽいオヒキコウモリの仲間が、次々に入っていった。イエガラスに追いかけ回されている。
さらにホテルのマネージャーが、ペンバ第一の町チャケチャケの、コンテナーを改造した店に小コウモリが住みついていると聞いてきて、帰る日に空港までの道のりの途中に寄ってくれた。尾が尾膜から突き出していて、オヒキコウモリの仲間のようだ。上唇に、しわがある。コンテナーのお店の端の方に天井近くからぶら下がっている。

コンテナーのお店にいたオヒキコウモリの仲間。尾が飛び出しているのがわかる(円内)
ペンバ島のコウモリはあまり調査されていないが、2008年に新種のオヒキコウモリMops bakariiが発表されている。採集されたのは島の北端のンゲジの森のすぐ近くの集落の屋根裏。その報告によれば、やはりオヒキコウモリの仲間のシロハラオヒキコウモリChaerephon leucogasterも同じ場所にねぐらをとっていた。また1984年のThe mammals of Zanzibar and Pemba Islandsではペンバ島に棲むオヒキコウモリはコオヒキコウモリChaerephon pumilusだけが記載されている。はたしてこいつは誰なのだろう。あるいはわれわれが島で見たのは一種じゃないのかもしれない。
6泊したウェテのホテルはちょっと古びたビジネスホテルといった感じで、部屋は、シンプルにベッドと机とシャワー・トイレがあるだけだ。エアコンはあるが、壊れていて涼しくならない。天井のファンを回しても風通しが今ひとつで蒸し暑い。シャワーがホットになるのは、昼間の暑い時間帯だけ。夜は水しか出ない。4階建てのホテルの屋上に太陽熱温水器があったので、太陽がない時間にはお湯は出ないのだろう。表通りに面しているので、朝は乗り合いバスで行商に出かける人、買い物に来る人がたくさん行き交う。夜は目の前に焼肉や焼き蛸の屋台が出て、遅くまで賑やかだ。

町の様子
車で出かける時はサンドイッチをつくってくれる。いつもレタスとタマネギとトマトが挟んである。まあ暑いからハムとかない方が安心だ。ゆで卵が一人2個と新鮮な果物が付く。
朝ご飯は果物から始まる。マンゴー、パパイヤ、スイカやバナナ、よくわからないミカン。何種類も並ぶ日もあるし、1種類だけの日もある。マネージャーもガイドも果物にはうるさく、どこかに車で出かけるたびに道ばたの果物屋台でいろいろ仕入れるのだが、真剣なまなざしで選び、バナナなどは自分のナイフで慎重に切り取る。そのせいかとてもおいしい。

朝食の果物のセット。この日は豪華版だった
最初オムレツを見た時に、白身だけでつくったのかとびっくりした。しかしサンドイッチに必ずついてくるゆで卵を見ると、どうやら黄身の色のかなり薄い卵のようだ。パンはウェテの街で焼いている。夜明け前にホテルの屋上から、ねぐらに帰ってくるオオコウモリを見ながら街並みに目をやると、パン屋の釜に火が入って準備をしているのが見える。
夕食や宿の近くにいる日の昼食は、20mほど先のタイムズレストランというお店で食べる。メニューにはいろいろ書いてあるが、できるのは蛸のフライ、イカのフライ、鶏のフライ、魚のフライ、グリルドチキン、野菜カレーくらいだ。カレーはトマトソース味でまったく辛くない。それに主食としてご飯かフライドポテトがつく。ウガリやチャパティにすることもできる。主食にはカレーと同じ味のトマトソースをかけて食べる。メニューではサラダが付くことになっているが、実際はマンゴーかバナナが付く。ジュースなど飲み物を含めて2人分で10000シリングから15000シリング(1000円くらい)。グリルドチキンがいちばん高い。骨付きもも肉なのだが、日本のブロイラーと違って、肉はたいして付いていない。しかし、とてもおいしい。鶏は、毎日宿の目の前の路地で、生きたまま売られていて、1羽5000シリングから10000シリングだそうだ。こちらの主食はウガリ。ケニアで味見し損ねたので、レストランで一度出してもらった。おいしくもまずくもないが、単調な味でたくさんは食べられない。

魚のフライとご飯(左上)、蛸のフライとチャパティ(右上、この日は蛸の量が少なかった)、ウガリ(左下、上に少し見えているのがカレー)、グリルドチキンとご飯(右下)
屋台ではおやつを売っていて、クッキーやピーナツの小袋はそれぞれ100シリング。10円玉握りしめて「くださ~い」といった感じだろうか。三角なのはサモサ、中味はカレー味のジャガイモ、衛生状態が心配なので肉が入ってなくてよかった。屋台では揚げた蛸も売っていて、車で出かけた際に、マネージャーが車をとめて買ってくれた。新聞紙に包まれた蛸はおいしかったけど、お腹が心配なので啓子は1つしか食べなかった。たくさん食べた夕志はあとで・・・、でも、ちょっとくらいお腹が痛くなってもまた食べたいと思うくらいおいしかった。このほかにサトウキビに柑橘類を少し混ぜて搾ったジュースがおいしかった。こちらもバケツに貯めた水でゆすいだコップを使い回しているし、氷が入っているのでお腹が心配だったけど、今までに飲んだサトウキビジュースの中では、ペンバのものがいちばんおいしかった。

屋台で売っていた食べ物。サモサ(左上)、クッキー(左下)、揚げた蛸(右)
ホテルには、朝ご飯の調理や掃除、シーツなどの洗濯をする女性従業員が3人いる。一人、話し好きの女性がいたので、ホテルの台所を見せてもらった。火はガスレンジと炭の両方を使う。たぶん一般家庭では炭を使うことが多いのだろう、町中で炭屋をよく見かける。しかし熱帯の家の中で火を使うと暑いだろうに。

台所の様子。食器棚(左上)、炭のコンロ(右上)、ガスレンジ(下)、電化製品は冷蔵庫だけのようだ
英語の発音はケニアより更に聞き取りにくい。いい仕事に就きたいという野心を持っている人は英語を勉強しているようで、ウェテのコロニーでオオコウモリを見ていると、「英語の勉強を自分でしているのだけど、使う機会がないので話し相手になってくれますか」といわれたこともある。英語ガイドのユマさんは、勉強熱心で英語も自力で勉強したそうだが、今はイタリア語やフランス語を勉強しているんだと単語をびっしり書いたノートを見せてくれた。でも発音はテレビから学ぶしかなくて、町を離れると集落に1台のテレビをみんなで集まって見ている状態なので、ホテルに来ているときはテレビにかじりついている。
ペンバ島の主要産業クローブ(丁子)は、つぼみを干してスパイスとして使う。ホテルの夜勤のおじさんが、これ知ってるか、と花を見せてくれた。畑や道路際に植えてあり、ちょっと町から離れると庭や路上につぼみが干されている。

道ばたでクローブのつぼみを干している(左)。クローブの花(右)
ウェテのペンバオオコウモリコロニーでは、上から落ちてきたと思われるオオコウモリの子どもを2回見た。一回は低木にとまっていた。もう一回は地面に落ちていたのを地元の人が拾って見せてくれた。その後低い枝に返したら、甲高い声でいっしょうけんめいお母さんを呼んでいるようなのだが、誰も取り返しにくる気配はなかった。もともとペンバオオコウモリは食料としてかなり捕られていたので、夜採餌にいったお母さんが捕られてしまったのではないだろうか。獰猛なイエガラスもいるし、コロニーの下にはネコがうろうろしている状況で、この子も無事だとは思えない。しかしコロニー全体としては、ペンバオオコウモリは順調に個体数が回復しているように見えた。

ペンバオオコウモリ親子

ペンバオオコウモリの子供
12月6日ペンバ島の空港へ。入口前のヤシの木からコウモリの声がするのだが、木の下まで行って見上げても見つからない。今日の飛行機はダルエスサラームに直行し、乗り換えてナイロビまで戻る。翌日、カタールを経由して帰国した。ペンバ島では毎晩、ずいぶんと蚊に刺された。ベッドには蚊帳が吊られていたのだが、日本のものと違って上面が小さいので、寝ている間に手や顔が蚊帳に触れてしまい、蚊帳の外から刺されてしまう。帰国後も1ヶ月近くマラリアの予防薬を飲み続けた。

青空を飛ぶペンバオオコウモリ