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Vol.60 ボルネオ島クチン2 ウィンドケーブのコウモリ

2022.9.16

 2015年夏、マレーシアのクチンへの旅の続き。
 8月14日から第3回東南アジアコウモリ会議が始まった。主に東南アジアにおけるコウモリ研究や保全活動の発表で、参加者は、事前登録によれば88人、口頭発表が55件、ポスター発表が28件の小規模な大会である。日本からは6名が参加した。

会場の目の前を流れるサラワク川。対岸の建物はサラワク州議会議事堂。

この夜景を背景にコウモリが撮れないかとカメラを構えて待ったのだが、近くを飛んでくれなくて断念。

 ウツボカズラの仲間Nepenthes hemsleyanaをねぐらにすることがあるウーリーコウモリKerivoula hardwickiiが、エコーロケーションでこの特定のウツボカズラ種を認識しているという論文が出たばかりだったので、著者の発表は人気だった。もともとこのコウモリは巻いた葉の中をねぐらにする習性があり、コウモリ自体は後ほどグヌン・ムル国立公園で見る機会があり、この連載のVol.5で紹介した通りである。ウツボカズラに入っているところもいつか見たいものだが、ブルネイ・ダルサラーム国へ行く機会はあるだろうか・・・。
 参加者は世界各地から集まっているが、当然地元東南アジア諸国の発表が多く、ウィンドケーブで捕獲調査をしているサラワク大学の学生のポスター発表もあった。彼にウィンドケーブで撮った小コウモリの名前を教えてもらうことができた。同じ場所を見ているだけに、洞窟のどこにいたかも説明すると通じるのが嬉しい。洞窟の地図を描いて教えてくれた。
 彼によればウィンドケーブには11種類のコウモリが記録されているが、その中でカグラコウモリは6種類いる。日本では八重山にカグラコウモリ一種がいるだけだから識別点など考えたことはなかったが、キクガシラコウモリの仲間とは異なる複雑な形の鼻葉があり、鼻の穴のまわりに何枚も重なったひだの数が識別ポイントとなることもあるが、よほどアップで撮れないと数えるのは難しいだろう。
ホースフィールドカグラコウモリHipposideros larvatusは東南アジアに広く分布する。われわれは同じマレーシアのランカウイ島でも見ている。

ホースフィールドカグラコウモリ

ホースフィールドカグラコウモリ

 ハチマキカグラコウモリH. diademaも東南アジアに広く分布する種で、両肩と背中の両側に白い斑点がでるので、後ろ姿を見ると間違えることはない。

ハチマキカグラコウモリ

ハチマキカグラコウモリの背中の模様

 グールドカグラコウモリH. cervinusは、インドネシアやグヌン・ムル国立公園、次回から紹介する予定のゴマントン洞窟でも見ている。エコーロケーションコールが120kHzくらいの非常に高い音なのが特徴だ。

グールドカグラコウモリ

 キクガシラコウモリは2種いる。日本では同所的にいるのは大きさがかなり違う2種だけなので識別は容易だが、東南アジアでは複数種がいるのが普通で、キクガシラコウモリの仲間は、鼻葉の形やその突起を横から見たときのシルエットが識別のポイントだ。

ナカキクガシラコウモリRhinolophus affinis

ナカキクガシラコウモリの横顔

 ホオヒゲコウモリ属は世界に136種もいる。似ているものも多く、識別には捕獲して測定したり、翼がどこで脚に付いているかとか、尾膜の血管の走行をチェックする必要があるものもいてやっかいなのだが、この洞窟の中をねぐらにしているのはテミンクホオヒゲコウモリMyotis horsfieldii一種類だけなのがありがたい。ウィンドケーブで調査をしている学生に、通常この洞窟のこの場所の天井の窪みにいるはずだと言われて、「そうだ、そこだ」と盛り上がった。『Field Guide to the Mammals of South-East Asia』にも、Roost in bell holes in cavesと書いてあった。

テミングホオヒゲコウモリ

 会議2日目のフィールドワークでは、洞窟の外に設置したハープトラップで、洞窟をねぐらにしないタケコウモリTylonycteris pachypusやオオタケコウモリTylonycteris robustula、ムリコロホオヒゲコウモリMyotis muricolaなども捕獲された。

フィールドワークの最中に見つかったナナフシの仲間

 会議が終了し、17日の夕方、帰国のため空港までタクシーに乗って、コウモリの会議に参加していたというと、年配の運転手が、昔はオオコウモリを撃って喘息に効く薬として食べた話をしてくれた。東南アジアでは、広く喘息に効く薬だと信じられていて、オオコウモリの仲間が捕られてしまう理由の一つになっている。
 会議終了後には、グヌン・ムル国立公園にヒダクチオヒキコウモリの出巣などを見にいくフィールドトリップがあったのだが、このときは用事が控えていたので参加できなかった。それが心残りで、グヌン・ムル国立公園には2年後の2017年に訪れ、その時の話は、連載のVol.4-5で報告したとおりだ。

著者プロフィール

大沢啓子(おおさわ・けいこ)・大沢夕志(おおさわ・ゆうし)

1988年に南大東島でオオコウモリに出会って以来、コウモリに惹きつけられ、世界を巡って観察している。講演会や観察会、企画展示、書籍など、コウモリの魅力をたくさんの人に伝える活動をしている。動物園にやってくる野生のコウモリの観察会をすることもある。コウモリの会評議員、日本自然科学写真協会理事(夕志)。主な著書『身近で観察するコウモリの世界』『コウモリの謎』(誠文堂新光社)、『オオコウモリの飛ぶ島』『ふたりのロタ島動物記』(山と渓谷社)、『南大東島自然ガイドブック』(ボーダーインク)など。

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