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Vol.9 アメリカ合衆国コウモリ旅行4 BCI本部とコウモリ写真家マーリン・タトル氏

2018.6.16

 テキサス州の州都オースチンは、メキシコオヒキコウモリがたくさんいるだけではなく、コウモリ関係者もたくさんいる。メキシコオヒキコウモリが呼び寄せたといってもいいかもしれない。

夕暮れのコングレスアベニュー橋とメキシコオヒキコウモリ

 オースチンには1982年創設され、世界97カ国に会員がいるコウモリ保護団体BCI(Bat Conservation International)の事務所がある。以前コウモリ行事でお会いしたことのある職員デイブ・ウォールディンさんに招かれて6月25日に訪問した。事務所は緑の多い郊外にあり、一階にはBCIの受付があり他の会社も入っているが、2階は全部BCIのオフィスだ。出張中の人もたくさんいるが出勤しているスタッフを紹介してもらう。会長は海外出張中だったので、28日朝もう一度BCIオフィスに行って、第三代会長アンディ・ウォーカーさんに挨拶。

BCI事務所の受付。コウモリグッズや写真が飾られている

 28日はBCIの創設者であり初代会長、コウモリ研究者そしてコウモリ写真家でもある憧れのマーリン・タトルさん、奥さんのポーラさんと、近くのメキシコレストランで昼食を共にした。タトルさんの写真集を見ながら、コウモリ写真の撮り方を説明してもらったり、夕志の写真を持参したパソコンで見てもらったりする。緊張で食事が喉を通らないだろうと予想して、二人で一人前を分けたのだが、食事中もずっとコウモリ写真の話をしていて、結局半人前の食事すら半分くらいしか食べられなかった。
 写真の編集の話などもするので自宅に来ないかと誘っていただいて、翌29日はタトルさんの自宅を訪問。ナショナルジオグラフィックなどに載った有名な写真を撮ったときの話を聞かせてもらったり、撮影機材を見せてもらった。機材は旅行前に入念にテストして、データはノートに克明につけてある。ノートには説明書の必要な部分もコピーして貼り付けてある。それでもいざ撮影するときに思うように動かなかったりして、毎回慌てるとのこと。何月何日にどこで何をどういう状態で撮影したかは丹念にメモしてあり、何十年にもわたる記録ノートもみせてもらった。
 夕志の撮ったマルチ発光の写真を見て、こういう機能があることは知っているけど、撮ったことがないと興味を示して、タトルさんの機材でポーラさんが説明書を読みながら設定してみた。書斎で夕志がミニタオルを投げて撮影したが、明るすぎて半透明のミニタオルの5連続写真になってしまう。書斎に隣接するトイレ入り口で電気を消してタオルを投げるとなんとかそれらしくタオルの連続写真となった。ということで、9時から15時近くまで、途中でポーラさん手作りの昼食をいただきながら、長々と過ごしてしまった。

タトルさんに見てもらったマルチ発光のアブラコウモリとスカイツリーの写真

 28日の夕方には、コウモリの救護もやっているBCIの職員ダイアンさんのお宅に伺った。約束通り17時に行くと、ご主人のリーさんに、「17時に来ると聞いていたので、15時に来たから驚いたよ」と、のんびりいわれる。
 「今17時ですけれど・・・。」
 どうやらお宅の時計が止まっていたようだ。ヒッピーがそのまま歳を重ねたような、ひょうひょうとした雰囲気のご主人だ。まもなくダイアンさんも帰ってきて、裏庭のコウモリの檻を見せてもらう。
 コウモリ関係の野生生物救護者リストに登録しているので、怪我したり親がいない赤ちゃんコウモリが見つかると連絡が来るそうだ。生まれて間もない赤ちゃんには一日8回餌を食べさせるけど、今はだいぶ育って一日4回、もう飛び始めたものもいて、ずいぶん楽になってきたという。
 庭には広いコウモリの檻があって、中は家庭菜園も兼ねているのだが、夏はオースチンの厳しい暑さに耐えられず、春と秋がシーズンだという。中には洗濯ネットのような三角のネットが、いくつもぶら下がっていて、コウモリのねぐらになっている。更に樹皮の下にもぐるコウモリには狭い隙間のバットハウスが、葉の中にねぐらをとるコウモリにはヤシの葉が用意されている。籐のかごにぶら下がっているのもいる。

檻の中の家庭菜園の様子を見るダイアンさんとリーさん

 檻の天井からぶら下がっている紐状のものは、フェロモンを出してコウモリの餌となる昆虫を惹きつけるそうだ。虫を誘引するブラックライトも設置してあり、採餌の練習場にもなる。
 別棟もあって、コウモリに餌をやったり、生まれたばかりのコウモリを保護する保育器(人間の赤ちゃん用のをもらったといっていた)などがあり、ミールワームやヤギのミルクと電解液の混合液を食べさせる様子を見学する。
 保護飼育されていたのは、メキシコオヒキコウモリ、サザンイエローコウモリ、アカコウモリ、ノーザンイエローコウモリ、ヒロバナコウモリ、セミノールアカコウモリ、さらにリビングには22歳と18歳のストローオオコウモリがいる。一頭は関節炎を患っていてぶら下がることができず寝たきりに近いが、もう一頭は餌をもらったあと遊びに出てきて、ダイアンさんに抱かれて興味しんしんでこちらを見ていた。以前日本で見た24歳のインドオオコウモリは、全体に色が抜けて白髪になっていたが、このストローオオコウモリ達はいい毛並みをしている。「遺伝子を研究して、白髪にならない秘訣を解明して欲しいよ」と白髪混じりのリーさんがいう。

 オースチンには10泊して、6月30日東海岸に向けて出発した。途中テネシー州キンボールにしばらく滞在する。テネシー川が蛇行して広がったダム湖の岸にニッカジャック洞窟があって、ハイイロホオヒゲコウモリMyotis grisescensが出産哺育をしている。昔はネイティブアメリカンが住んでいたりテネシー川の海賊の隠れ家だったりしたそうだ。現在は洞窟の入口はダムで川面が上昇してボートでないと近づけないが、少し離れた岸辺にコウモリの出巣を見学する観察台がある。日没後だいぶたってから真っ暗な中、たくさんのコウモリが飛び出した。

ハイイロホオヒゲコウモリ

 車で50分弱のところにあるアラバマ州のソータ洞窟にもハイイロホオヒゲコウモリの繁殖コロニーがある。訪れた日は雨が降っていたのと、洞窟が森の中にあるので、日没前でもかなり薄暗い。入り口から少し入ったところに、バットゲートといって、コウモリは通れるけど人は入れないように、金属の棒を横に何本も渡した障害物がある。

洞窟の入り口とバットゲート

 日没ちょっと前からハイイロホオヒゲコウモリが飛び出し、洞窟前の空間を旋回しながらだんだん昇っていき、森の上にでて採餌に行く。この日は独立記念日で、帰り道、雨もあがってあちこちで花火があがっていた。

森の中を飛び交うハイイロホオヒゲコウモリ

 

 その後も東に進み、7月20日、5月3日に入国したニューアーク空港から帰国した。アリゾナ州での2回の車の故障以外にも、予定していた車と違ったり、対向車に小石をはねられてフロントグラスが傷ついたりと、レンタカーを計6台乗り継いだ1万マイルのアメリカバットウォッチング旅が終わった。

著者プロフィール

大沢啓子(おおさわ・けいこ)・大沢夕志(おおさわ・ゆうし)

1988年に南大東島でオオコウモリに出会って以来、コウモリに惹きつけられ、世界を巡って観察している。講演会や観察会、企画展示、書籍など、コウモリの魅力をたくさんの人に伝える活動をしている。動物園にやってくる野生のコウモリの観察会をすることもある。コウモリの会評議員、日本自然科学写真協会理事(夕志)。主な著書『身近で観察するコウモリの世界』『コウモリの謎』(誠文堂新光社)、『オオコウモリの飛ぶ島』『ふたりのロタ島動物記』(山と渓谷社)、『南大東島自然ガイドブック』(ボーダーインク)など。

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