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Vol.8 この世界の片隅で ~郷土の魚シナイモツゴ~

2017.6.11

 ゴールデンウィークの喧騒が過ぎ、一雨ごとに気温が上がり、緑が濃くなり、この仙台もすっかり初夏の陽気です。この時期は多くの生きものたちにとって繁殖、子育ての季節、当館の生きものたちも例外ではありません。今回ご紹介するシナイモツゴも盛んに産卵しています。
 さてこのシナイモツゴ、非繁殖期は実に特徴のない魚です(失礼!)。全長5~8㎝のやや細長い胴体におちょぼ口、体色はいわゆるフナ色で、言っては何ですがいかにも地味な魚です。しかし婚姻色に彩られるこの時期は印象が一変します。全身が黒くなり、一枚一枚の鱗がさらに濃い黒で縁取られた様は、まるで仙台ゆかりの戦国武将、伊達政宗公の黒漆塗りの鎧具足のようです(褒めすぎ?)。この状態になるとオスは産卵に適した場所(産卵床)の周りをナワバリとし、寄ってくる他のオスや他種の魚を追い払い始めます。この行動はかなり激しく、水槽が狭く逃げ場所が無いと、弱い方のオスが殺されてしまうこともあるほどです。

通常体色のシナイモツゴ

婚姻色を呈したシナイモツゴ


 シナイモツゴが含まれるコイ科の魚は水草や石の表面等に粘着性の卵を産み付ける種類が多いのですが、彼らの産卵場所の好みは少々変わっていて、水面に浮かぶ流木や岸から水中に垂れ下がっている木の枝の下部などに卵を産み付けます。メスがオスのナワバリに入ってくるとオスは産卵を促すようにメスの周囲をまとわりつくように泳ぎます。そのうちメスが前、オスが後ろの列になって泳ぎ始め、腹を上にして産卵床の下をスッと通ります。この瞬間に卵が一列になって産み付けられるのです。オスはこれを複数のメスと何度か繰り返し、見事に一面ビッシリと卵で埋め尽くします。

生息地にて水面に浮かぶ流木

裏返してみると多数の卵が産み付けられていた


一列に産み付けられた卵

ビッシリと卵が産み付けられた人工産卵床


 このようになかなか興味深い生態を持つシナイモツゴですが、実は宮城県に非常にゆかりの深い魚なのです。シナイモツゴのシナイとは宮城の地名、品井沼から取られています。かつては関東地方から東北地方にかけて広く分布していた種なのですが、品井沼で採集された標本から新種記載されたので、このように名付けられました。かつてと書きましたが、実はシナイモツゴは非常に数を減らしている種なのです。飼育してみても非常に丈夫で繁殖力も決して弱くないのですが、近縁種である「モツゴ」との競合により、関東地方では既に絶滅し、東北地方でも特に太平洋側では限られた場所でしか見られなくなっており、環境省のレッドリストでは最も危機的な「絶滅危惧ⅠA類」に指定されています。モツゴは本来西日本に分布する種なのですが、アユやヘラブナ、コイなどの放流に混じって東日本に侵入し、今ではほぼ入れ替わってしまっています。昔から当たり前にそこにいた魚がいつの間にか別の種に置き換わっていて、しかもそのことにほとんどの人が気付いていない、というのはなかなか怖いことだと思いませんか?当館の「うみの杜ラボ」ではシナイモツゴも含めた絶滅危惧種を多数展示しています。そのほとんどがかつて我々のすぐ身近に棲んでいた生きものです。是非ご覧になって、まずは本来ここ宮城にいるべき生きものがどんなものなのか知ってもらえたら嬉しいです。

モツゴ。姿は非常によく似ている

著者プロフィール

松本 憲治 (まつもと・けんじ)

1977年 神奈川県出身
2003年 マリンピア松島水族館入社
2015年 仙台うみの杜水族館魚類チームに配属
仙台・宮城にすむ生き物たちをもっともっとご紹介していきたいです。本当に豊富なんですよ!

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