日本全国の動物園と水族館をつなぐ情報誌、「どうぶつのくに」「どうぶつえんとすいぞくかん」公式Webサイト

どうぶつのくに どうぶつえんとすいぞくかん

Vol.2 モグラ博士とモグラの毛皮

2013.3.20

「モグラ」。この動物の名前を知らない人は少ないでしょう。しかしモグラほど身近で名前が知られているにも関わらず、間違ったイメージや知識を持たれている動物もいないと思います。動物園でモグラを展示していてよく言われるのは「日に当たっても死なないの?」や「畑の野菜をかじられて困る」など。(モグラは日に当たっても死なないし、野菜をかじったりしません。)

モグラは私たちのとても身近なところにいて、アスファルトだらけの都会の公園などでもすんでいます。モグラの生活場所周辺にはモグラ塚(画像)やトンネルが必ずあります。モグラ塚のあるところにモグラあり。ネズミをさがすよりはるかに簡単です。

ではみなさんがモグラを知らないのはなぜでしょう。私は生きたモグラを見る機会が少ないこと、またモグラに関する情報が少ないことがその理由だと思っています。モグラの生態はわかっていないことが多く、飼育方法も確立されてはいません。繁殖については不明な点だらけで人工飼育下での繁殖はいまだ報告されていません。(野生採集個体からの持ち込み腹での出産例はあります。)そんな理由からか飼育展示する園館も少ないのではないでしょうか。
また、モグラを研究する研究者も少なく、モグラの情報が非常に少ないのです。でもなぜか宮崎には全国で10本の指に入るモグラ研究者が2人もいます。(日本のモグラ研究者は10本の指で足りるくらいしかいないそうですが。(樫村氏談))私がモグラの展示を行えるようになったのは宮崎大学の篠原明男助教と樫村敦助教の協力があったからなのです。
篠原助教はモグラの遺伝子の研究、樫村助教は生態の研究を行っています。
篠原助教は展示の際に貴重な標本や資料を惜しげもなく提供してくれます。樫村助教はモグラ捕獲から飼育までを伝授し、時には展示のアイデアまで出してくれる私のモグラマスターです。
「モグラクン」こと樫村助教は東京農大で修士課程を終了後、博士課程からは宮崎大学で研究をしていました。ネズミしか知らない私にモグラクンはモグラと研究の面白さを私に色々と教えてくれました。モグラの行動を調査するために発信器を取り付けたモグラを受信機とアンテナをもって追跡し、モグラの地中利用の季節変化などを明らかにしました。多くの学生が実験室で試験管をもって研究するすがたに憧れるなか、フィールドで地道にデータを収集し、大きな成果をあげている若手研究者です。
よく動物園でモグラの展示を、と言っていたのですがなかなか実現できなかったとき、職員が園内で1頭のモグラを保護したのがきっかけでモグラクンのアドバイスのもとフェニックス自然動物園モグラ展示がはじまりました。

なかでもモグラクンとの自信作はモグラの毛皮のハンズオン展示(写真)です。

モグラの毛を触ったことがありますか?モグラは自分のからだの幅と同じくらいのトンネルの中を前に後ろに想像以上のすばやさで移動します。普通、ネズミなど動物の毛は頭から尾に向かって斜めに生えています。モグラの場合ネズミと同じ毛の生え方をしているとトンネル内でバックした場合、毛がトンネルに引っかかって動きにくくなってしまいます。そのためモグラの毛は体から垂直に生えています。さらに引っかかりにくいように毛は柔らかくしなやかです。
そのためモグラの毛の手触りはとても気持ちいいものです。来園者のみなさんもモグラの毛を触った瞬間あまりの手触りのよさにびっくりします。

ちなみにこのモグラの毛皮、フラットスキン標本というもので学術標本のひとつです。標本には本剥製、仮剥製、フラットスキンがあります。一般的に博物館などで展示されるのは生きていたときのすがたを再現した本剥製ですが学術標本として用いられるのは多くの場合保管しやすいフラットスキンか仮剥製で、頭骨標本とセットで保管します。種を同定する時はこの毛皮と頭骨を使って比較します。(画像上:コウベモグラとジャコウネズミの本剥製、画像左:コウベモグラ・イスラエルトゲマウス・ステップレミングのフラットスキン標本、画像右下:コットンラット・クマネズミ・コウベモグラの仮剥製)

このフラットスキン標本、あまりに手触りが良いもので、来園者のみなさんにも好評で触られ続け、果てはその部分の毛がすっかりなくなってしまいました。そんな理由で現在は「モグラの毛にさわってみよう」コーナーはお休みしていますがそろそろ新バージョンを登場させようと企んでいます。

著者プロフィール

渡部大介(わたなべ・だいすけ)

1980年生まれ香川県出身。
宮崎大学大学院農学工学総合研究科博士後期課程修了、農学博士。
2005年より宮崎市フェニックス自然動物園勤務。
趣味は飼育できる動物は何でも飼育してみることと標本作製。中学時代は小鳥飼育に夢中になりすぎて先生につけられたあだ名が「ジュウシマツ」。

カテゴリー

カテゴリー一覧

このカテゴリーの他の記事

ページTOPへ

Copyrights © 2010 Doubutu-no-kuni All Rights Reserved.
誌面、Webにおけるあらゆるコンテンツの無断複写・転載を禁じます。