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Vol.10 モグラとヒミズ

2014.5.26

 モグラという生き物の名前はたいていの人が知っていますが、ヒミズというちょっと変な(?)モグラが身近にすんでいるのをみなさんご存知でしょうか。

ヒミズ。モグラに比べて前あしが小さく、尾も長くなっていてブラシのように毛が生えています。

 ヒミズはトガリネズミ形目モグラ科ヒミズ属に分類される動物で、日本にだけすんでいます。ぱっと見た感じはしっぽの長い小型のモグラといったところでしょうが、本家モグラと異なるところがあります。モグラの最大の特徴である大きな前あしですがヒミズの前足はネズミよりは大きいものの、モグラに比べるととても小さいものです。これではもちろんモグラのように深く長いトンネルを掘ることはできませんから森林の落ち葉の下などに浅いトンネルを掘ってくらしています。モグラに比べて地表で活動することも多く、半地中型の生活をしています。

ヒミズの前あしは穴を掘るモグラ(左下)に比べてかなり貧弱ですが地面に踏ん張ることができます。

 またモグラは完全な肉食性ですが、ヒミズはモグラのように昆虫やミミズなどの小型の土壌生物以外に植物の種子や果実なども食べる雑食性です。前回紹介したジネズミとモグラの中間的な存在といえるかもしれません。私たちがフィールドでネズミ類の捕獲調査をする際には、エサにオートミール(燕麦を食べやすく加工した食品:ヨーロッパなどではポピュラーな食品)をよく用います。モグラではまずエサとして認識しないであろうこのオートミールにつられてヒミズはよくトラップに入ります。見た目はほとんどモグラなのにその生態はモグラとはかなりかけはなれている、かわった生き物がヒミズです。

コウベモグラ。モグラは構造上、ヒミズのように前あしで地面に踏ん張ることはできません。

 最近、このヒミズの驚くべき能力を教えてもらいました。研究用のヒミズを飼育していたところ、あるときそのヒミズの元気が良すぎて飼育容器のフタを押し上げ脱走してしまいました。モグラが脱走した場合はとりあえず床の隠れそうな場所をしらみつぶしに探すとよく冷蔵庫の下などで発見します。ところがいくら探してもヒミズの気配がありません。しばらく探しているうちに高さ1メートル弱の実験台の上にヒミズの痕跡があったそうです。そして近くにおいてある高さ2メートルくらいある冷蔵庫の上から姿をのぞかせていました。そのヒミズはさらに姿をくらませて最終的には空腹になったのか、自分がもといたケースのところまで戻って来ていたところを御用になったそうです。立体活動の得意なネズミでも2メートルもの高さのところで遭遇することはほとんどありません。この個体が特殊だったのかもしれませんが、縦方向は地下にしか移動しないと思っていたモグラの仲間、ヒミズの立体活動能力にとてもびっくりさせられました。

コウベモグラ(上)とヒミズ(下)の標本剥製。

 さてこのヒミズ、私とはかなり相性が悪いようです。捕獲調査に出向いても、なぜか私のトラップには入りません。わずか調査数回目の学生が捕獲できても私には捕獲できません。今までいろんなネズミやモグラを捕獲してきましたが、いまだかつて一度も捕獲したことが無いのがヒミズなのです。さらに飼育しても相性が悪いようです。単に私の技術的問題なのかもしれませんが、モグラやジネズミは数年飼育できるのにヒミズだけはなぜか短命に終わってしまいます。過去に動物園でモグラと比較展示をしたこともあるのですが、わずか2週間ほどで死なせてしまいました。大学でも何度かチャレンジしたことはありますがどうしても飼育がうまくいかないのがヒミズでした。ヒミズの名前の由来は普段は地中にいて地表に出てくるのはおもに夜なので日の当たるところには出てこないので「日見ず」=「ヒミズ」になったといわれています。私は「捕獲しようとしても捕まらず、展示しようとするとすぐ死んでしまい、動物園でもなかなか日の目を見せることができない」のでヒミズなのだと勝手な解釈をしています。

著者プロフィール

渡部大介(わたなべ・だいすけ)

1980年生まれ香川県出身。
宮崎大学大学院農学工学総合研究科博士後期課程修了、農学博士。
2005年より宮崎市フェニックス自然動物園勤務。
趣味は飼育できる動物は何でも飼育してみることと標本作製。中学時代は小鳥飼育に夢中になりすぎて先生につけられたあだ名が「ジュウシマツ」。

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