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Vol.9 モグラとジネズミ

2014.4.16

 ある日のこと、仕事休みに家にいた私の携帯に同僚から一本のメールが届きました。「園内の道路に(死体が)落ちてたんだけどジネズミだろうか?」画像も添付されていました。私はそれを確認して、おそらくそれはジネズミだろう、確認するから冷凍保存しておいてほしいと返信しました。
 翌日、出勤して昨日の死体を確認すると下半身は何者かに食べられてしまったのでしょう、ちぎれてしまってはいましたが間違いなくジネズミの上半身でした。過去にも私は園内でジネズミの死体を2回、回収していたので今回で3頭目だな、と思っただけでした。

↑園内で飼育員が発見した問題の(?)死体。手のひらと比べてその大きさがわかるでしょう。

ところが他の飼育員にはかなりインパクトが強かったようです。発見した飼育員は代番で私の担当しているジャコウネズミ(スンクスともいいます。以下ジャコウネズミは長いのでスンクスとよびます。コラムVol.1参照)を管理しているのですが、見つけた直後はスンクスの子どもが脱走して園内を徘徊、それを捕食者によって食べられてしまったと思っていたようです。「こんなの初めて見ました。」という彼に「モグラのところにジネズミも仮剥製標本展示してるんだけど・・・。」「こんな形じゃなかったです。」
たしかに仮剥製は中を綿に置き換えているから生前の姿とはちょっと違います。

↑スンクス(上)とジネズミ(下)の仮剥製標本。

ジネズミとはトガリネズミ形目トガリネズミ科に分類される動物で、学名がCrocidura dsinezumi、ニホンジネズミともよばれ、日本だけにすんでいます。当園の飼育員がとっさに思ったスンクスも同じ仲間のトガリネズミ形目トガリネズミ科に分類されています(ジャコウネズミもジネズミもネズミという名前がついてはいますがネズミではなくトンネルを掘らないモグラの仲間です)。そのためぱっと見ただけではあまり違いがわかりません。

↑ジャコウネズミ(スンクス)。尾がジネズミより太くて長めの毛が生えています。画像の個体は長崎県に移入・生息していた野生由来個体の系統です。

 しかしとても大きな違いがあります。それは大きさ。スンクスは系統にもよりますが、頭胴長(とうどうちょう:頭から尾の付け根までの長さ)116-157mm、尾長(びちょう:尾の付け根から先まで(毛は含めない)の長さ)61-77mm、体重45-78g、反対にジネズミは頭胴長61-84mm、尾長39-54mm、体重は5-12.5g※しかありません。体重にいたってはスンクスの10分の1程度なのです。スンクスは産まれて1週間程度で10g前後ですがこのときはまだ鼻先は少し横に広く、子どもっぽい顔をしているのでジネズミとは区別できます。ジネズミと同じような顔になるには生後1ヶ月程度たってからだから5gくらいの体重でいることはないよ、と伝えてあげました。

↑生後1週間くらいのスンクスと母親。おそらくこの子どもで既に5gくらいあるでしょう。親との顔の違いがわかりますか?

 ジネズミは北海道〜トカラ列島まで広く日本中の人家のまわりや森林などにすんでいます(北海道のものは東北地方から入り込んだ国内外来種だといわれています)。学生時代には私は畜舎で生きた個体を捕獲したこともありますが、さほど珍しい動物ではないと思います。しかし、この動物と初めて対面した人はこの不思議な容姿からきっと私がかつてスンクスに対面した時と同じような驚きと感動を与えられたことでしょう(私の驚きと感動についてもコラムVol.1参照)。その後、彼には過去に私が園内で回収・保管していたアルコール標本で完全体を見せてあげました。普段からスンクスを見慣れている飼育員でも(普段スンクスを見慣れている飼育員だから??)、ジネズミの存在は印象深かったようです。
 今回の一件で私たちの身近にすんでいるちょっとおもしろい動物はモグラだけじゃないんだよ、ということをこのコラムや動物園の展示でみなさんにお伝えしていきたいなと思っています。
※The Wild Mammals of Japan(2009)より引用

↑宮崎県串間市で捕獲したジネズミ。尾が細くて長い毛がないのがスンクスと違うところです。(この個体は7gくらいだったと思います。)

著者プロフィール

渡部大介(わたなべ・だいすけ)

1980年生まれ香川県出身。
宮崎大学大学院農学工学総合研究科博士後期課程修了、農学博士。
2005年より宮崎市フェニックス自然動物園勤務。
趣味は飼育できる動物は何でも飼育してみることと標本作製。中学時代は小鳥飼育に夢中になりすぎて先生につけられたあだ名が「ジュウシマツ」。

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