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Vol.6 モグラの爪切り

2013.9.23

 動物園で飼育しているモグラの一番の悩みは「メタボ」(コラムVol.3参照)でしたが、それに次ぐ悩みは「爪の伸びすぎ」。野生下でトンネルを掘ったり、トンネルの中を走り回っている場合は問題ないのです。ところが動物園の限られた空間で飼育される場合はどうしても野生のものより運動量が減ってしまうため爪が少しずつ伸びてきます。人間でも爪を伸びっぱなしにしておくと大変なことになりますがモグラもそれは同じ。最後にはねじれていきます。放っておくと根元から爪をはがしてしまう場合もあります。

伸びすぎたモグラの爪(黄色丸内)。

 そこで爪の伸びた個体は定期的に爪切りをするのですがこれがなかなかの重労働です。ネズミ類に比べてモグラは前足の力が強く、皮膚のたるみも少ないので保定(動物が暴れたりしないように動かないようにしておくこと)が難しく、そう簡単に爪を切らせてはくれません。当初は皮手袋をし、咬まれてもいいような装備をした上でモグラをおさえ、爪を切っていました。それでもモグラはジタバタと暴れうまく切ることができません。それにあまりにもモグラが暴れるのでモグラへの負担も考慮してこの方法はやめることにしました。

 次に試してみたのが何も入っていないケージにモグラを入れておき、動きを止めた瞬間さっとニッパで爪を切るというもの。おさえることなく爪を切れるのでモグラへの負担はかなり軽減したようでした。しかしながら狙った爪を素早くニッパではさみ、切るというのはこれまた至難の業です。かなり時間をかけて丁度いい長さになるまでそれを繰り返します。何となくいいアイデアも浮かばなかったので1年近くその方法で爪を切っていました。

ケージに移したモグラ。床材もなく不安定なので落ち着きがありません。そのため通常よりも動きまわるので爪切りは動きを止めた一瞬のスキを狙います。

 ある時、前述の方法でモグラの爪切りに悪戦苦闘している私を見てある飼育員が、「網のトンネルに入れて切ったら?」と言いました。なるほどモグラは網のトンネルを垂直に登るときは爪を網に引っ掛けてよじ登っていきます。長すぎる爪は網からはみ出すはずです。適当な長さの網トンネルを用意して頭側をクリップで止めておきます。そこにモグラを入れておしり側も閉じてしまいます。元々モグラが落ち着くようにモグラの大きさに合わせて作ったトンネルですのでモグラはトンネル内で暴れることなくあっさり爪切り終了。仕上がりも今までの切り方とは比べものになりません。何故今まで思いつかなかったんだ!と自分の発想の貧困さにがっかりしつつ、この飼育員の発想に関心と感謝しています。

網のトンネルに入れられ爪を切る前のモグラ。網からはみ出た長い爪をニッパで1本ずつ切っていきます。

正常なモグラの前あしの爪の長さは画像ぐらいです。これは骨格標本ですので実際皮膚から突き出しているのは点線より左側くらいでしょうか。モグラの前あしの骨を見てみると五本指の他にもう一つ三日月形の骨(黄色矢印)があります。この骨のおかげで一度にたくさんの土をかき出すことができるのです。

著者プロフィール

渡部大介(わたなべ・だいすけ)

1980年生まれ香川県出身。
宮崎大学大学院農学工学総合研究科博士後期課程修了、農学博士。
2005年より宮崎市フェニックス自然動物園勤務。
趣味は飼育できる動物は何でも飼育してみることと標本作製。中学時代は小鳥飼育に夢中になりすぎて先生につけられたあだ名が「ジュウシマツ」。

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