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「アクアスケープ」

2011.6.26

岸田劉生は、芸術家の作品は、作家がどこまで自然を理解したかの証(あかし)であるとまで言い切っています。私は、水族館の水槽を観ればその水族館の自然の理解度をはかることができると言ってもよいと思っています。

ランドスケープとは都市計画や造園をいいますが、私は、水族館の水槽の景観をアクアスケープと呼ぶことにしています。実際、水族館の水槽の中にいかにして疑似自然をつくりだすかは興味深い仕事です。

私は、この仕事に就いてから水槽をデザインする機会があれば、進んでアクアスケープづくりをやってきました。失敗した水槽もあれば、これはまずまず良くできた、と自画自賛するものもありました。魚や水生生物が健康に生活できる空間であり、なおかつ観る側にとっても生息場所の自然を彷彿(ほうふつ)させる環境であることが必要です。これは演出家や芸術家の世界でもあります。

アクアスケープの分野にお手本がないわけではありません。日本庭園の技法は水族館のアクアスケープづくりに大いに参考になりました。日本庭園の空間は、よく知られる「借景(しゃっけい)」も含めて自然全体を意味します。わざわざ先が見えないようにして期待をいだかせる「障景(しょうけい)」、煩(わずら)わしいものを障子(しょうじ)などのフレームでカットする「框景(かまちけい)」などの技法は使えます。

アクアスケープづくりは、自然を再現するリアリズムばかりでなく、いかに抽象化するかのプロセスでもあります。抽象化の行き着くところは、水も草もない竜安寺の石庭でしょう。1450年に最初につくられたというこの庭園は、100坪の空間に水も植物もありません。苔(こけ)を周りに生やした15の岩が7、5、3の奇数のグループで配置されています。単純な油壁が庭とマッチしています。塀の外の樹木が借景となっています。禅宗の僧侶の瞑想(めいそう)の場としてつくられた石庭は優れた自然の抽象です。

華道や盆栽もやはり自然を象徴して表現する芸術です。盆栽はむしろ日本庭園よりも起源は古いらしく日本人の自然観を反映しているといわれます。つまり、盆栽は人の内なる自然を反映した、理想の樹木に仕立てられたものです。

アクアマリンふくしまでは豊富な太陽光を取り入れ、動物も植物もセットになった水陸境界域の生態系を展示するアクアスケープになっています。そこには、自然を抽象化した「小宇宙」MICROCOSMがあります。

皆様の評価をお待ちしております。

※ この文章は2001年09月11日に安部館長が書かれたもので、テキストならびに館の外観などは当時のまま掲載しています

著者プロフィール

安部義孝(あべ・よしたか)

1940年東京都生まれ
東京水産大学増殖学科魚類学教室卒業後、東京都恩賜上野動物園水族館勤務
1968-69年、クウェート科学研究所所員となる
帰国後、東京都多摩動物園昆虫園勤務を経て、東京都葛西臨海水族園長、東京都恩賜上野動物園長を歴任
2000年より(財)ふくしま海洋科学館・アクアマリンふくしま海洋科学館・アクアマリンふくしま館長
主な著書に「クウェートの魚」など

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