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Vol.15 フィリピンのコウモリ王国

2018.12.14

 前回、フィリピンのネグロス島に行った話を書いたが、フィリピンはそれ以前にも3回訪れている。いちばん最初に行ったのは2003年12月28日から10日間、ルソン島のスービック経済特別区を訪れた。ここはもともとアメリカ海軍の基地だった場所だが、1991年に返還され、670平方キロメートルのフェンスで囲まれた区域に、港、空港、ホテル、ゴルフ場、ショッピングセンター、免税店、瀟洒な住宅地が並んでいる。そこに熱帯雨林まであって、Bat Kingdomコウモリ王国と呼ばれるジャワオオコウモリとフィリピンオオコウモリの1万頭以上のねぐらがある。この経済特別区内は、外国企業や観光客を呼ぶためだろうか、警官が敷地内を巡回していて、周囲とは別世界、夜歩き回っても危険を感じない。

スービック位置図

 マニラ近郊のバスターミナルからスービックの入り口の町オロンガポまで120km、バスで3時間ほどだ(142ペソ)。郊外へ出ると一面の水田地帯で、高架の高速道路の下には延々と崩れ落ちそうなバラックが建ち並ぶ。フィリピンの長距離バスは、冷房が効きすぎて寒く、上着が必要だ。アジアの熱帯では、冷房があるときは徹底的に効かせるのだ。
終点のオロンガポのバスターミナルに着くと、降りたとたんに「スービックへ行くのか」と声をかけられる。オートバイにサイドカーを付けたトライシクルの運転手なのだが、クラウンピークホテルまでいくらで行くか、と聞いても「ノープロブラム」というばかりでなかなか値段を言わない。何度もたずねると「6」というので、600ペソであることを確認して乗せてもらうことにする。トライシクルではスービックのゲート内には入れないようで、入り口で別の車に乗り換えてホテルへ行く。
 ゲートの中は、混沌としたオロンガポとは別世界のように静かで道も広々としている。外国企業の工業団地が建ち並ぶ中を通り過ぎて、奥にあるクラウンピークホテルへ到着。ここでトライシクルの運転手が、エアコンつきの車を雇ったので1600ペソになるといいだした。「乗る前にいくらだと何度も聞いたはずだ。あんたは600ペソだ、ノープロブラムと言ったではないか。」と言い返すと、「だからあと400ペソでいい」と、突然値下げした。「あんたが言ったとおり600ペソ払った。」と言うと、「だからあと100ペソ足せ。」というが、「払う必要はない。」とねばると、結局「OK」と言って立ち去った。今から思えばターミナルからここまで10kmかそこらで、600ペソでも十分高い。乗る前に交渉すれば安くなったかもしれないが、どのくらいが相場なのかわからないので仕方ない。

 ホテルのすぐ脇にオオコウモリ展望台があって、世界最大のジャワオオコウモリ Pteropus vampyrusが何千頭も木にぶら下がっていた。これがコウモリ王国だ。ただ、残念なことに、遠すぎて写真は撮りにくい。

ジャワオオコウモリが鈴なりになっている。

 コウモリ王国を見ていると、ニホンザルのしっぽを長くしたような、カニクイザルMacaca fascicularisが何頭かぞろぞろとやってきた。餌をやると罰金ですという看板があったが、車が次々止まっては餌をやっていく。車から子供が降りると脅かしたり、上を向いて器用に缶ジュースを飲んでいる奴もいる。水の入ったペットボトルを開けようとキャップをいじっている奴もいるが、中身が水だと知ったらがっかりするだろう。写真を撮っていたらサルが三脚を登ろうとした。「コラッ」というと今度は近くのつるを伝わってカメラの上に降りてこようとする。怒ると威嚇してきた。

三脚に手をかけるカニクイザル

 17時過ぎ、展望台から望遠鏡でコロニーを見ていると、次々と人がやって来て、のぞいてもいいかと聞いてくるので、臨時のオオコウモリ案内係となる。フィリピン語でコウモリを意味する「パニキ」という言葉が聞きとれる。オオコウモリたちは皆静かに寝ている。17時45分、オオコウモリはまだ静かにぶらさがっているのだが、目の前を小さなコウモリが蝶のようにひらひらとたくさん飛び始めた。超音波を捉えるバットディテクターには60kHzほどの音声が入るが、体が小さいだけあって音も弱い。姿が見えていても、ちょっと離れるとバットディテクターに音声が入ってこない。世界で2番目に小さいというタケコウモリだろうか。
 オオコウモリは18時をちょっと過ぎて飛び始めた。海の方に飛んでいくものも結構いる。われわれの立っている展望台の方に来るものもいるのだが、既にほとんど真っ暗だ。オオコウモリはホテル前の谷間のあちこちに広くいるようで、飛んでいく方向も様々だ。別の日の夕方、オオコウモリ展望台で会った男性は、何年か前にはすぐ目の前で見られたと言っていた。確かに直ぐ目の前にある何本かの木は、オオコウモリのコロニーによくあるように葉が落ちて裸になっている。木が痛むので森の中で何年かごとにお気に入りの木が変わるのだろうか。
 朝はオオコウモリがハイウェイ状になって戻って来るのが見られ、やがて、流れが途切れてねぐらの上をバラバラに飛び交うようになる。

ビジターセンターはあるのだが、いろいろ聞きたいことがあったのに、いつ行っても職員はいなかった。

 ホテル脇からHidden trailという森の中の道を降りていくと、南側ゲートのすぐそばの舗装道路に出る。道の途中に竹林がところどころにあり、節と節の間に縦長の穴(スリット)が空いている竹がたくさんある。もしかしてタケコウモリがいないかと夕方行ってみる。17時25分、狙いを付けたスリットとは別の竹から飛び出したような気がして、目を離した隙に、注目していたスリットからも1頭目が飛び出した。一瞬のことだった。その後、次々と出てきて、全部で5頭。いつの間にか空はタケコウモリでいっぱいだ。よく見ると少し大きめのコウモリもいるような気がする。

スリットから出るタケコウモリ

タケコウモリの足の裏に当たる部分は、竹の内側にとりつきやすいように吸盤状になっている。(他の場所で捕獲調査をしたときに撮影)

 翌日と翌々日も夕方はタケコウモリを観察。スリットを正面から見ていると、出巣の10分以上前から時々、スリットから翼の一部がちょっとだけ見える。竹の中でかさこそ動いている音もする。
 最初の1頭が飛び出したが、晴れていて空が明るいせいか次がなかなか出てこないと思っていたら、20分ほどして、外から帰ってきた1頭が、同じ節間の上の方にもう一つあったスリットに入ってしまった。注目していたよりも一つ下のスリットに入った奴もいた。また別の夜には、今まで使っていたスリットよりも1段上の節にあるスリットから飛び出した。ねぐらをけっこう変えるのだろうか。カメラやビデオカメラをセットしている我々をからかっているようだ。

 タケコウモリ属には3種類のコウモリがいる。文献によればスービックにはタケコウモリTylonycteris pachypusとオオタケコウモリTylonycteris robustulaの2種類がいるのだが、2種とも竹をねぐらにし、外見も似ている。捕獲して測定していないため、今回見たのはオオタケコウモリだった可能性もある。

スリットは長さ5cm、幅5mmほど。タケノコの時代にハムシが空けたものだ。

 オオコウモリを間近で見たくて、Hidden trailを降りて途中からオオコウモリの声を頼りにやぶの中に入ってみた。群れの根元近くに出たが、樹高50mはあるかと思われる大木の樹冠にいるので、木の間隠れに遠くにしか見えない。葉と枝に隠れるようにして、黄色の模様が後頭部から背中にかけてくっきり出ている個体がいたが、あれがフィリピンオオコウモリだったのだろうか。今ならフィリピンオオコウモリは頭にはっきりと黄色い部分があるし、飛んだ時にほかの大型オオコウモリよりも翼が透明で染みのような模様が一面に出るので識別できるが、この頃はこの2種の識別点がはっきりわかる図鑑がなくて、結局よくわからないまま、初めてのフィリピン滞在は終わった。

ジャワオオコウモリの飛翔

著者プロフィール

大沢啓子(おおさわ・けいこ)・大沢夕志(おおさわ・ゆうし)

1988年に南大東島でオオコウモリに出会って以来、コウモリに惹きつけられ、世界を巡って観察している。講演会や観察会、企画展示、書籍など、コウモリの魅力をたくさんの人に伝える活動をしている。動物園にやってくる野生のコウモリの観察会をすることもある。コウモリの会評議員、日本自然科学写真協会理事(夕志)。主な著書『身近で観察するコウモリの世界』『コウモリの謎』(誠文堂新光社)、『オオコウモリの飛ぶ島』『ふたりのロタ島動物記』(山と渓谷社)、『南大東島自然ガイドブック』(ボーダーインク)など。

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