日本全国の動物園と水族館をつなぐ情報誌、「どうぶつのくに」「どうぶつえんとすいぞくかん」公式Webサイト

どうぶつのくに どうぶつえんとすいぞくかん

Vol.18 フィリピンサマル島1 180万頭のオオコウモリ洞窟を所有する女性

2019.3.16

 2010年10月、コウモリの会の事務局宛に、フィリピンのミンダナオ島ダバオの近くにあるサマル島のノーマ・モンフォートさんからメールが届いた。アメリカのコウモリ保護団体Bat Conservation International(BCI)と共に2011年1月にバットキャンプという行事を行うので、日本からも参加しないか、という誘いだった。

サマル島地図

 バットキャンプは1週間にわたるお祭りで、ジョフロワルーセットオオコウモリRousettus amplexicaudatusのねぐらがあるコウモリ公園に売店が出たり、ジップラインという遊び道具が設置されたり、コウモリ観察会が行われる。関連行事として、BCIが中心になってディズニー社の環境保護基金を利用し、フィリピンの洞窟探検家や生物学者を集めてコウモリネットワークをつくる4日間のワークショップも開催される。さらにミンダナオ島の教師を対象にした2日間のワークショップや、アメリカとフィリピンのコウモリ保護についてのフォーラムも行われる。またダバオの日系人会が経営するミンダナオ国際大学と中国系の学校の生徒をそれぞれ招いての行事もある。
 バットキャンプが開催されるコウモリ公園はモンフォート家の敷地にあって、洞窟には180万頭ものジョフロワルーセットオオコウモリがいる。2006年からオーナーのノーマ・モンフォートさんとBCIが協力して保護に当たり、世界一の規模ということでギネスブックにも認定されている。ジョフロワルーセットオオコウモリは他の国で見たことがあるものの、この場所を一度は見てみたいと思っていたので、コウモリの会のメンバーとして日本のコウモリについての展示を持参して、われわれふたりが参加することになった。(招かれたとはいえ、交通費も滞在費も自腹ではあるが・・・)

コウモリ公園の看板

 2011年1月23日ダバオ空港に到着。ノーマさんにコウモリの会を紹介したダバオ在住の足立さんと奥さんネルマさんが出迎えてくれた。
 ダバオとサマル島の間は数カ所でフェリーが頻繁に行き来している。ダバオ側のフェリー乗り場で待っていると、ノーマさんの助手がジプニーという派手な車両で迎えに来た。ノーマさん自身も別の車で来たのだが、これから本土で記者会見があるということで、慌ただしく挨拶をして分かれた。なかなかエネルギッシュな想像通りの女性であった。

ノーマさん

 ジプニーごと20分ほどフェリーに乗ってサマル島に渡り、さらに20分ほど凹凸のある夜道を走ってたどり着いた時には深夜になっていた。バットキャンプのスタッフたちが泊まっている家の一室に案内された。竹を編んだ壁と椰子葺きの屋根の熱帯仕様の家である。フィリピンのコウモリ学者ニナ・イングルさん、ワークショップの講師としてアメリカから来たティガ・キングストンさんとその学生、ワークショップを運営するフィリピンのコウモリの会のメンバーたちも泊まっていた。
 翌朝、同じ家に泊まっている人たちはみな自分の仕事をしにでかけてしまったようだ。家の周囲を歩いてみると、ほんの一分足らずのところに洞窟の入り口があった。モンフォートコウモリ洞窟は5つあると案内などには書かれているが、実際はつながった一つの水平な洞窟で、なだらかな斜面に入り口が5つ開いていて、一番手前だけは横穴になっているが、あとは天井が陥没した形の開口部になっている。それぞれの入り口付近にたくさんのジョフロワルーセットオオコウモリがあふれている。

洞窟入り口の直射日光が当たる場所にもたくさんいる

 小コウモリが壁にとまるときは、通常腹を壁につけた形になるが、ジョフロワルーセットオオコウモリは背中を壁につけてとまる。この方が外敵が見えるので、洞窟の入り口に住むコウモリとしては実用的だ。コウモリは通常ほかの哺乳類と違って、足の裏が前向きになるように脚がついていて、腹を壁につけたスタイルで壁の凹凸に爪が引っかかるようになっているのだが、このオオコウモリの場合は、足の付き方が他のコウモリと逆、すなわちコウモリ以外の哺乳類と同じ方向になっている。

背中を壁に付けたジョフロワルーセットオオコウモリ

 われわれの泊まっている家は、ノーマさんの娘さん一家が借りている家で、コウモリ公園の敷地外になるのだが、敷地内のノーマさんの家の一角に、男性コウモリ研究者が何人か泊まっていて、こちらにwifiがあるし、使用人のコックがここの台所で食事をつくってくれるので、昼間はみなこの家にいることが多い。昨日来たばかりだというアジアのコウモリ保護を進めているSEABCRUの代表のティガ・キングストンさんも「眠い」とつぶやきながら、防塵防水のごついデルのラップトップコンピューターで仕事をしていた。
 近くに大きな休憩所があり、コウモリの展示がいろいろあり、講演会などもできるようになっている。洞窟にはビデオカメラが設置してあって、この場所でその映像が見られるようになっている。ニナさんとBCIのデイブさんが、ビデオカメラの方向を変えたり拡大したりして、洞窟のコウモリの様子や底にネズミがうろついているのを見せてくれた。ネズミはコウモリの赤ちゃんの死体などを食べているそうだ。
 夜になるとBCIの研究グループが持ち込んだ強力な赤外線ライトが点灯する。便乗してわれわれもナイトショットのビデオを撮らせてもらった。18時前からパラパラとオオコウモリが飛び始め、やがて怒濤のような流れとなる。海を越えて対岸のミンダナオ島に採餌に行くようだ。1時間以上も流れは続きやがて真っ暗になって見にくくなった。

われわれは洞窟の入り口ではストロボを使うのを遠慮していたのだが、使っている人がいたので、その光を利用して出巣の様子を撮影

 3日目の1月25日、洞窟前の休憩所の一部を借りて、朝から展示の準備を始める。休憩所は壁がないので風が吹き抜ける。事前にわかっていたので、持参した寒冷紗を張ってから、日本のコウモリの写真、コウモリ保護やコウモリの会についての解説などを付けていく。午後までかかってやっと終わった。日本のコウモリグッズとして手ぬぐいをいくつか展示したのだが、これが好評で、取材のために来ていたGMAニューステレビ局のスタッフから、販売しないのかと聞かれる。

展示の様子。裏面は日本のコウモリグッズを中心に展示。

 この日の夜はコウモリ洞窟の目の前の桟橋でコウモリが海を越えて対岸のミンダナオ島に向かって飛んで行くのを観察する。洞窟から出たコウモリたちは、森の中を通って次々と急降下して海面低く飛んでいく。なかなかロマンチックな光景だが、モンフォート洞窟にこれだけたくさんのジョフロワルーセットオオコウモリが集まっているのは理由がある。ここのコウモリはモンフォート家が代々守ってきたが、他の洞窟では狩猟されて食料にされてしまうからだ。朝早くには、庭のイチジクの仲間の大木の周辺を、帰ってきたコウモリたちがたくさん飛び交っているのだが、夜間餌場で捕獲され、昨晩出て行ったきり二度と帰らぬ個体もいるのだろう。

夜明け前、イチジクの仲間の大木の回りを飛ぶコウモリ

著者プロフィール

大沢啓子(おおさわ・けいこ)・大沢夕志(おおさわ・ゆうし)

1988年に南大東島でオオコウモリに出会って以来、コウモリに惹きつけられ、世界を巡って観察している。講演会や観察会、企画展示、書籍など、コウモリの魅力をたくさんの人に伝える活動をしている。動物園にやってくる野生のコウモリの観察会をすることもある。コウモリの会評議員、日本自然科学写真協会理事(夕志)。主な著書『身近で観察するコウモリの世界』『コウモリの謎』(誠文堂新光社)、『オオコウモリの飛ぶ島』『ふたりのロタ島動物記』(山と渓谷社)、『南大東島自然ガイドブック』(ボーダーインク)など。

カテゴリー

カテゴリー一覧

このカテゴリーの他の記事

ページTOPへ

Copyrights © 2010 Doubutu-no-kuni All Rights Reserved.
誌面、Webにおけるあらゆるコンテンツの無断複写・転載を禁じます。