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Vol.20 フィリピンサマル島3 コウモリに衝突される

2019.5.10

 バットキャンプ2011は明日までなのだが、行事はだいたい終了したし、われわれの役目も終わったので、2011年1月30日ダバオから内陸に少し入ったマラゴスガーデンリゾートに向かう。ノーマさんの助手と運転手がフェリーまで車で送ってくれた。そしてフェリーに荷物を運び込んでそのまま対岸まで来てタクシーの交渉までしてくれた。タクシーで1時間半くらい、マラゴスガーデンリゾートは広い敷地にミニ動物園やプール、体験乗馬などがある小さなテーマパークのような所で、ダバオから日帰りで遊びに来る人が多い。宿泊施設は簡素だが、われわれにとっては、夜間安全に敷地内を歩き回れるので都合がいい。近くにフィリピンワシ保護センターがあり、視察に来た日本の動物園関係者も泊まっていた。

マラゴスガーデンリゾート

 翌日、ニナさんやBCIのデイブさん、リックさん、そしてフィリピン人のスタッフ2人と合流。フィリピンワシ保護センターまでニナさんの80年代の赤いジムニーで2往復して運んでもらう。この奥の森にオオコウモリのコロニーがあり、許可を得て入る。ライフル銃とトランシーバーを持ったガイドが5人付いてくる。だいぶ安全になってきたとはいえ、ミンダナオ島は、町を外れるとまだ安心はできないようだ。

オオコウモリのねぐらを見るメンバー。奥にライフルを持ったガイドがいる

 森の中の2カ所でオオコウモリのねぐらを見る。片方はジャワオオコウモリPteropus vampyrusが多く、もう一方はフィリピンオオコウモリAcerodon jubatusが多かった。ジャワオオコウモリとフィリピンオオコウモリは、われわれは前の年にフィリピンのルソン島にあるスービックで間近に見ているので、フィリピンオオコウモリの顕著な頭の黄色が見えなくても、空を背景に飛んでくれれば、ジャワオオコウモリなら翼がシミ一つなくつるっとして見えるし、フィリピンオオコウモリは透けてシミがたくさんあるように見えるので見分けられる。しかし皆オオコウモリは得意じゃないのか、知らなかったようで、あとで昨年撮った写真(連載Vol.17フィリピンの写真を参照)を見せて説明したら感心された。
水源地である森に入る許可を取ったので報告書を出す必要があるということで、ニナさんはオオコウモリの数を数えてメモをとっている。

オオコウモリのねぐら

 最初は道を歩いていたが、途中で休憩してからは小川の中を歩き、泥だらけになりながら、ジャワオオコウモリのねぐらの真下にでた。帰る頃は真っ暗になり、啓子は泥にはまってひっぱりだしてもらった。泥だらけになった靴は宿に帰った後、敷地内に流れる小川で丸洗いした。

 

 サマル島滞在中にコウモリ洞窟のそばの海岸沿いの道を歩いていたら、道路脇のヤシの木の樹洞から小さなコウモリが次々と飛び出すのを見つけた。デイブさんが2006年にサマル島でコウモリの捕獲調査をやっているので聞いてみたら、コバネコウモリPhiletor brachypterusだという。そのコバネコウモリが、このマラゴスガーデンリゾートでも、庭にあるマランというジャックフルーツやパンノキの仲間の樹洞をねぐらにしていた。目の高さくらいの位置から飛び出すので、すぐそばで観察することができた。

コバネコウモリのねぐら

 小コウモリは超音波でエコーロケーションをして障害物を避けているので、人間にぶつかってくることは滅多にないが、ここでは何回かコバネコウモリにぶつかられた。朝夕観察していて、啓子は計3回コウモリにぶつかられた。一度など真正面から飛んできて頭の左のあたりに衝突したので、すごく驚いた。西洋の言い伝えにコウモリは女性の髪にからみつくというのがあって、コウモリはエコーロケーションで髪の毛の太さのものでも感知できるので、これは間違いであると言われているけど、本当かも。夕志にも一回ぶつかったし、カメラの三脚にもぶつかったから、女性だけというわけではなさそうだが。超音波を人間にも聞こえるように変換してくれるバットディテクターで聞いていると、常に超音波を発しているように聞こえるが、虫を捕り終えてお腹がいっぱいになった奴は、いつもの勝手知ったる帰り道、エコーロケーションは使わずに戻ってきて、まさか突然障害物があるとは思わなかったのかもしれない。

飛翔するコバネコウモリ

 それともアップで見るとなにやら寄生虫が山ほどついているので、人になすりつけようとして意識的にぶつかってきたように思ったのは、気のせいか。

頭にクモバエの仲間をつけているコバネコウモリ

 2月1日は午前中みんなでフィリピンワシ保護センターに行く。ここで研究をしている学生に園内を案内してもらった。ここでは怪我して保護されたフィリピンワシなどを人工授精も含めて繁殖させている。餌を採れるようになるためには先輩ワシから教わる必要があり、訓練中だということだ。他にもイリエワニ、ミミズクの仲間などいろいろ飼育されていた。

フィリピンワシ

 ここで10日近く一緒にいたバットキャンプのスタッフ達ともお別れ。ホテルに一番近いカリナンの町までニナさんのジムニーで送ってもらって、お金を下ろそうとATMを回ったもののなぜか引き出せず、両替屋で予備に持っていた米ドルを両替してホテルに帰る。今日の宿泊客はわれわれだけだそうで、レストランは19時で終わるという。wi-fiはここしかないので、夜遅く閉店後のレストランに行ったら、壁のないオープンエアのレストランは、ネズミが走り回っていた。
 われわれはもう2泊してコバネコウモリを撮ったりしたあと、2月3日、帰国の日にもう一度モンフォートコウモリ洞窟に戻って念願のジョフロワルーセットオオコウモリの出産を撮影。その後、今回の旅のきっかけを作ってくれた足立さんにダバオの博物館や市場を案内してもらった。こちらの人は人なつっこくてカメラを向けるとみんなにこにこする。

 ノーマさんはヨーロッパやハワイでビジネスをやっていた経験もあるとのことで、エネルギッシュで大きな行事を仕切って飛び回っていた。忙しいのでわれわれは「招待」されたとはいえ、けっこう放っておかれて戸惑うこともあったが、オオコウモリの大生息地なので飽きることもなく、みんなが忙しく飛び回る中、じっくり観察ができて楽しかった。

著者プロフィール

大沢啓子(おおさわ・けいこ)・大沢夕志(おおさわ・ゆうし)

1988年に南大東島でオオコウモリに出会って以来、コウモリに惹きつけられ、世界を巡って観察している。講演会や観察会、企画展示、書籍など、コウモリの魅力をたくさんの人に伝える活動をしている。動物園にやってくる野生のコウモリの観察会をすることもある。コウモリの会評議員、日本自然科学写真協会理事(夕志)。主な著書『身近で観察するコウモリの世界』『コウモリの謎』(誠文堂新光社)、『オオコウモリの飛ぶ島』『ふたりのロタ島動物記』(山と渓谷社)、『南大東島自然ガイドブック』(ボーダーインク)など。

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