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Vol.21 ロタ島1 昼間から飛ぶマリアナオオコウモリ

2019.6.17

 サイパンとグアムの間にロタという島がある。サイパンと同じ北マリアナ自治領(CNMI)という国に属する。面積は85平方キロメートル、伊豆大島と同じくらいで、平地と台地が段状になった隆起石灰岩からできている。

ロタ島の位置

ロタ島内地図

 台地も低地も、果樹園や農場、その昔はサトウキビ畑だったりして森が切り開かれているが、台地の斜面は急峻で森に覆われていて、鳥やオオコウモリの良い生息地となっている。

かつてはこんなサトウキビ列車が走っていた

 グアム(アメリカ領)とCNMIを合わせたマリアナ諸島に生息するマリアナオオコウモリPteropus mariannusは、日本のオガサワラオオコウモリや絶滅したオキナワオオコウモリに近縁とされていて、ロタ島が唯一かなりの個体数を維持している。1983年の6-8月の調査では1500~2000頭生息すると推定されている。その後1984年から2003年の間もだいたい600~2600頭くらいと推定されてきた。数が変動するのは、正確にカウントするのが難しいということもあるが、密猟や台風の影響もあるようだ。

昔の密猟防止のポスター。「子供達にオオコウモリを見せよう」。Fanihiは現地チャモロ人の言葉でオオコウモリ。皆がオオコウモリを守っていけば、近い将来合法的な猟期を設定することができるだろう、と書いてある。

 ロタ島へ行くには、日本からサイパンないしはグアムへ飛行機で3時間半ほど、乗り換えて更にプロペラ機で30分、サラリーマンでも短い休暇で行けるので、国内のオオコウモリの生息する島を一通り見て回った後、まず思い立ったのがこのロタ島だった。1990年代後半のことである。遠くはないけれど直行便だけでは行けず、乗り換えて30分というのがちょうどよい距離で、サイパンやグアムとはくらべものにならない素朴さが島にはあり、日本でマイナーな島巡りをしてきたわれわれの感覚にぴったり合った。1996年2月に初めて行き、その後1998年まで計6回訪れて、この島のガイドブック(『ふたりのロタ島動物記』山と渓谷社 絶版)も書いた。しかし、その後はなかなか行く機会がなく、やっと今回2019年1月に20年ぶりに訪問した。

現在のプロペラ機 以前もプロペラ機だったが、30人乗りくらいの飛行機が飛んでいた。

 20年の間にロタ島への交通の便は大きく変わってしまった。2019年1月現在日本からサイパンに行く直行便はなく、グアム経由でしか行くことができないが、グアムへの直行便も少なくなってしまった。ロタに行く飛行機は逆に、サイパンからならば一日3往復飛んでいるのだが、グアムからは1日に1往復しか出ていないので、成田空港からその日のうちにロタまではたどり着けない。またロタとグアムを結んでいるのは乗客8人しか乗れない小型プロペラ機だ。グアムの空港を出て、駐車場の先にある倉庫の一角みたいな小さな事務所でチェックインをする。ずいぶん不便な島になってしまったものだ。サラリーマンだった頃なら、天候が悪いと予定した日に帰れなくなるので、行くのをためらっただろう。飛行機がこれだけ減ったのは旅行者が減ったからだと思うが、行きづらくなれば更に旅行者が減ってしまう悪循環だ。
 ロタ島も、素朴な島であったとはいえ、90年代にはホテルは10以上あって日本語のできるスタッフがいるホテルもいくつかあったのだが、ほとんどがもう営業をやめてしまっている。レストランも売店も数えるほどしかなく、6日間滞在すると同じレストランに何回も行くことになる。島の人口も1995年には3509人いたのが、2010年には2527人になり、滞在した島の中心地ソンソン村も空き家が多い。かなり寂れた雰囲気になってしまった。

 ロタに到着して車を借りて、チェックインまでの間に千本ヤシ公園へ行った。すぐに目の前にあるタイピンゴット山(通称ウェディング・ケーキ・マウンテン)をマリアナオオコウモリが飛んでいくのを見つけた。まだ14時くらいだ。その後島の中を車で移動すると、あちこちで木立の上などを低く飛ぶオオコウモリの姿が観察できた。最初のうちはここにもいた、あっちにもいたとGPSで位置を記録していたのだが、ほとんど島の全域にいることがわかって記録はやめてしまった。

タイピンゴット山とソンソン村 手前がソンソン村。屋根が潰れてしまった建物も見える。奥がタイピンゴット山で、通称のウエディング・ケーキ・マウンテンが言い表しているように、積み木を積み上げたような形をしている。ロタ島全体もこんな風に平地に台地が積み上がっている形だ。

 マリアナの先住民であるチャモロの人たちは昔からオオコウモリを食料としている。70年代にグアムとCNMIではオオコウモリの狩猟は原則禁止されたが、実際は密猟が絶えず、そのせいでここのオオコウモリは人のアクセスが難しい斜面や台地の上などにコロニーを作っている。たまにオウチュウという移入された攻撃的な鳥に追われて飛び出すことはあるが、通常は昼間飛ぶことはなかった。しかし今回の6日間の滞在で、昼間の明るい太陽の下、低く飛んだり、道路近くの木にとまるのを何度も目にし、過去6回の滞在中にオオコウモリを見た回数を全部足したよりも遙かにたくさんの個体を観察できた。

昼間飛ぶマリアナオオコウモリ

 島の魚類野生生物局の職員ジョシュア・ギルバートさんはコウモリの専門家だが、彼によると、今回われわれが訪れた3ヶ月程前の2018年10月25日にこの地域を襲ったカテゴリー5の2018年最強のスーパー台風Yutuが、餌になる果実をつける木やねぐらの木を痛めつけたためコロニーがバラバラになり、現在オオコウモリたちは島中に散らばって真っ昼間から餌探しをしているそうだ。観察する側にとっては、見やすくてありがたいのだが、彼らにとっては、命に関わる災難の真っ最中にお邪魔してしまったことになる。

昼間飛ぶマリアナオオコウモリ

著者プロフィール

大沢啓子(おおさわ・けいこ)・大沢夕志(おおさわ・ゆうし)

1988年に南大東島でオオコウモリに出会って以来、コウモリに惹きつけられ、世界を巡って観察している。講演会や観察会、企画展示、書籍など、コウモリの魅力をたくさんの人に伝える活動をしている。動物園にやってくる野生のコウモリの観察会をすることもある。コウモリの会評議員、日本自然科学写真協会理事(夕志)。主な著書『身近で観察するコウモリの世界』『コウモリの謎』(誠文堂新光社)、『オオコウモリの飛ぶ島』『ふたりのロタ島動物記』(山と渓谷社)、『南大東島自然ガイドブック』(ボーダーインク)など。

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