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Vol.26 タイプーケット2  世界にコウモリは何種類?

2019.11.16

 2019年の国際コウモリ研究会議は、7月29日から本格的に始まった。
 朝の基調講演以外は、3部屋か4部屋に分かれて口頭発表が同時進行で行われる。われわれの興味は主にオオコウモリなのだが、オオコウモリ保護の話と亜種の分類の話が平行して別の部屋で行われることもあり、またオオコウモリ以外でも聞きたい発表があって、階段を上ったり降りたり慌ただしい。
 アメリカ自然史博物館の哺乳類担当のナンシー・シモンズさんはアメリカ哺乳類学会の世界哺乳類リストのコウモリ部門のまとめも行っている。書籍になった世界哺乳類リストは残念ながら2005年発行の第3版以来出版されていないが、新種の発見、DNAや形態による研究が進んで種数はどんどん増えている。そのため、「世界にコウモリは何種類いるか」という質問の答えは、ナンシーさんがコウモリ関係の会議などで発表する数字に頼るのがいちばん確かなのだ。

ナンシーさんの講演 世界のコウモリは何種になるかを聞きに、たくさんの人が集まった

 そして今回、ナンシーさんはここ何回かの国際会議で恒例の、コウモリの種数が大きくプリントされたTシャツを着ていて、そこには「1406」と書いてあった。われわれがコウモリを見始めた30年くらい前は、例えば『世界哺乳類和名辞典』(1988 今泉吉典監修 平凡社)では993種だったから、30年で400種以上増えたことになる。ナンシーさんがとりまとめている世界コウモリ目リストはWeb上では度々更新されているhttp://batnames.org/ 。2019年11月14日参照したところ更に増えて1411種となっている。

 今回の発表で多かったのは、コウモリにGPSを装着した調査だ。最近小型化が著しく、コウモリにも着けられるようになってきたのだ。長期に稼働するためにはバッテリーが大きくなって、飛翔するコウモリには負担が生じるので難しかったのだが、ここにきて、オオコウモリサイズなら何ヶ月もデータを送ることができるものもでてきた。食虫コウモリでもサイズの大きなコウモリなら装着が可能になって、コウモリの生活圏や移動はGPSで追った研究が多くなった。衛星からデータを送ってくるものもあって、一時代前と比べると夢のようだ。GPSではないが世界最小のキティブタバナコウモリに挿入できる個体識別ICチップもある。

29日夜のウエルカムパーティー。会場の真上の木にはオオコウモリがやって来るはずだ

 この連載の「Vol.5 グヌン・ムル国立公園 巻いた葉をねぐらとするコウモリ」でお世話になったエレン・マッカーサーさんとも2年半ぶりの再会だ。覚えていてくれて嬉しかった。われわれの、昼間にコウモリが飛ぶことについてのポスター発表を聞きに来てくれた。グヌンムル国立公園では小型のホオヒゲコウモリの仲間が川で日中飛翔をしているという。洞窟の近くだとコウモリ同士の競争が激しいのかもしれないという。ボルネオでは捕食者がたくさんいそうだが大丈夫なのだろうか。やはりコウモリは奥が深い。
 今までわれわれが参加した国際的なコウモリ研究会議では、日本からの参加者はせいぜい一桁だった。前回2016年に南アフリカで行なわれた国際コウモリ研究会議はわれわれを含めて日本からの参加者は6人。ほかにもいくつか国際的なコウモリ研究会議にでたことがあるが、いつも日本からの参加はだいたい5人前後。今回は事前登録した参加者377人(駆け込み参加がもう少しいたかも)のうち日本からの参加は16人と賑やかだった。コウモリの研究は国内でもいろいろ行われているが、哺乳類研究の主流とは言いがたいし、文献も日本語のだけだと世界のコウモリ研究の流れがわからない。今回日本から特に大学院生がけっこう参加していて、学生ポスター賞と口頭発表賞が計6人選ばれたのだが、日本から3人入賞していた。若い世代の研究者が元気だ。頑張れ!

 31日の夕方には、バットディテクターを販売しているワイルドライフ・アコースティックス社主催のコウモリ観察会がホテルの芝生庭であった。

Echo Meter Touch2 Proの説明をする担当者

 Echo Meter Touch2 Proという、スマートフォンに接続して専用アプリケーションをダウンロードするとバットディテクターとして使える機器が、参加者にたくさん貸し出された。こういった機器はAndroidだと機種によって使えないことが多くて、iPhoneが圧倒的に有利なのだが、今回 Android用もたくさん貸し出していて、実際にちゃんと使えるかどうか確かめることができた。啓子のスマートフォンがUSBタイプCでないと接続できないのを見て変換アダプターをわざわざとりにいってくれた。ホテル内なのでwifiで専用アプリケーションもその場でダウンロードできる。啓子のスマートフォンで動くことは確認できたが、同時にこのスマートフォンでは機能を100%使えないこともわかった。Androidタブレットを宿に置いてきてしまったけど、タブレットや夕志のスマートフォンもつないでみれば良かった。いずれにせよ、この大盤振る舞いのコウモリ観察会はすごい宣伝効果で、「買う」といっている人がまわりで少なくとも二人いた。われわれは同じワイルドライフ・アコースティックス社の、今は発売していないEcho Meter EM3というバットディテクターを持っていて、少なくともこれが壊れるまでは買わないけど。

啓子のスマートフォンでも基本的な操作はできることがわかった

 会場のスレートホテルとわれわれの泊まっているタッチグリーンナイヤンの間に、溝のような狭い川がある。夜、ここを通ると、コウモリが飛んでいるのが見える。目の前まで来て反転することもあって、なかなかいい写真スポットだった。バットディテクターによるとここにも4-5種類はいるようだ。多くの食虫コウモリは短い一回のパルスの間に大きく周波数(音の高さ)が変化するFM音を中心とした音声を出すのだが、キクガシラコウモリやカグラコウモリの仲間は、CF音という数十ミリ秒の一回のパルスの大部分が同じ高さの音となる音声を出していて、バットディテクターで聞いていると特徴的なのだが、この音を出すコウモリも近くにやってきた。また川辺にナンヨウザクラの花が咲いていて、ここに時々シタナガフルーツコウモリの仲間もやってくる。

シタナガフルーツコウモリの仲間(連写した写真を合成)

 コウモリの撮影をしていると、コウモリ会議の参加者が次々と通り、ミニ観察会となる。皆、口々に「○○かな」といろいろな種名を言っていくが、さすがに音声だけでは同定できない。このあたりには庶民的なホテルなどもたくさんあって、指定外の安いホテルに泊まっている参加者もけっこうたくさんいることがわかった。

飛翔写真いろいろ

採餌のために複雑な動きをしている(連写した写真を合成)

 国際コウモリ研究会議は8月1日が最終日。次回の開催地の候補はカナダのサスカチュワン州サスカトゥーンとアメリカ合衆国テキサス州のオースチンの2つがあり、双方の提案者がプレゼンテーションをした後、参加者が手を挙げて投票。まるでオリンピック開催地を決めるようだ。カナダは行ったことがないので興味はあるのだが、オースチンになったときのフィールドトリップの候補として、連載Vol.6-9の2013年のアメリカ合衆国コウモリ旅行で、本当は行きたかったけれど、旅程の関係から行き損ねたビッグベンド国立公園をあげているのを見て、われわれはオースチンに投票。こちらに決まった。

次回の会場がオースチンに決まった。アメリカ開催では中東の一部の国からの参加が難しくなるのではないか、という懸念もでた

 コウモリ会議終了後、8月2日から5日まで4日間にわたるタイのコウモリ生息地をめぐるエクスカーションがあったのだが、用事があってわれわれは参加できなかった。定員20人だったのだが、インターネットで参加者に提示されてほんの2週間ほどで、定員を30人に拡大したのに満員御礼。その後参加者がフェイスブックなどに報告しているのを見ると、ラチャブリ県のカオチョンプラン寺院で有名なヒダクチオヒキコウモリChaerephon plicatusの大出巣を見たほか、その近くの洞窟でホースフィールドカグラコウモリHipposideros larvatusを見たり、カンチャナブリ県でコアラコウモリMegaderma spasmaや世界最小のキティブタバナコウモリCraseonycteris thonglongyaiを観察したり充実していたようだ。参加できなくて残念。
 しかしタイはコウモリの宝庫。4日間は滞在できないけれど、われわれももう少しコウモリを見ていくことにした。

著者プロフィール

大沢啓子(おおさわ・けいこ)・大沢夕志(おおさわ・ゆうし)

1988年に南大東島でオオコウモリに出会って以来、コウモリに惹きつけられ、世界を巡って観察している。講演会や観察会、企画展示、書籍など、コウモリの魅力をたくさんの人に伝える活動をしている。動物園にやってくる野生のコウモリの観察会をすることもある。コウモリの会評議員、日本自然科学写真協会理事(夕志)。主な著書『身近で観察するコウモリの世界』『コウモリの謎』(誠文堂新光社)、『オオコウモリの飛ぶ島』『ふたりのロタ島動物記』(山と渓谷社)、『南大東島自然ガイドブック』(ボーダーインク)など。

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