日本全国の動物園と水族館をつなぐ情報誌、「どうぶつのくに」「どうぶつえんとすいぞくかん」公式Webサイト

どうぶつのくに どうぶつえんとすいぞくかん

Vol.28 タイのコウモリはお寺が好き2

2020.1.16

 バンコクからの日帰りコウモリツアー、午前中にライルオオコウモリを堪能した後は、バンコクの西100km程の所にある大きなお寺、カオチョンプラン寺院が目的地だ。
 このお寺の裏にある洞窟は、ヒダクチオヒキコウモリの大きなねぐらになっていて、その出巣は、ボルネオのグヌン・ムル国立公園同様、観光名所となっている。グヌン・ムルの場合は山奥の洞窟だが、こちらは、集落にあるお寺の裏山から出巣する。

このお寺の裏山にコウモリのすむ洞窟がある

 出巣は1時間以上にわたって龍のようにうねうねと続く。出巣する個体数は季節により年により大きく異なるが、1997年から2005年までの調査の平均は184万頭である。この壮大な出巣を見るためにたくさんの観光客がやってくる。王立森林局のスタッフによる概算では年間10万人という。この観光客やお寺の参拝客をあてこんで、食べ物からTシャツ、雑貨やおもちゃを売る屋台がたくさん建ち並ぶ。2011年に来たときにはコウモリのぬいぐるみを売る屋台もあったのだが、今回は見当たらなかった。「Vol.8 アメリカ合衆国コウモリ旅行3」で紹介したテキサス州のコングレスアベニュー橋と同じように、地域への経済効果は膨大なものだろう。

2011年11月に来たときのコウモリぬいぐるみ屋台。同じ型紙から大中小を作っているようだが、なかなか正確だ。小25バーツ(60円)、中35バーツ(84円)。後ろのオレンジ色の巨大なコウモリも、行事とかに飾ったら映えそうなので欲しかったのだが、売り物ではないそうだ。お店の後ろで奥さんがチクチクと目玉を縫い付けている。

 またカオチョンプランの周辺は田んぼが広がっているが、この田んぼの主要な害虫ウンカSogathella furciferaをヒダクチオヒキコウモリは大量に食べている。タイ全体ではヒダクチオヒキコウモリは800万頭いると見積もられているが、コウモリがウンカを食べることによって、年間約2900トンの米が失われずにすみ、これは120万US$に相当するという論文が2014年に出ている。カオチョンプランは、ヒダクチオヒキコウモリのタイ最大のコロニーである。

 経済効果はそれだけではない。このコウモリたちが洞窟の床に落とすフン(グアノ)も、集めて肥料として売られていて、お寺の大きな収入となっている。アメリカのコウモリ保護団体Bat Conservation Internationalの創設者で初代会長のマーリン・タトルさんが1981年に訪れたときに、グアノの生産量が大幅に落ちていくのをお寺の僧侶たちから相談されたタトルさんは、夜僧侶たちの目が届かなくなったころ、この洞窟にいっしょに棲んでいる植物食のジョフロワルーセットオオコウモリやヨアケオオコウモリを入り口に網を張って捕り、レストランに売っている密猟者を見つけた。ヒダクチオヒキコウモリも大量にかかってしまうので捨てられていたのだ。タトルさんのアドバイスにより密猟の監視員を雇うと12500US$だったグアノの販売収入は10年たつと89000US$に回復した。その後も洞窟入り口を覆う蔓植物や木を、コウモリが出入りしやすいように刈り払うなどのアドバイスをしているそうだ。

グアノを採集する人用の値段表

 着いたときにサラシンに、18時頃出巣が始まるよと言われた。まだ30分以上余裕があったのでお寺の敷地内を見て回る。
 コウモリを観察する広場には大きなコウモリの像がある。以前は黒くて耳の長いオヒキコウモリをかたどったと思われる像だったのだが、今回みたらオレンジ色と黒の華やかなコウモリ像になっていた。タイにはいないクロアカコウモリだろうか、それともインドヒオドシコウモリもオレンジと黒のツートンカラーだから、これならタイに生息しているが、尾がオヒキコウモリ風に尾膜から突き出している。その他にも敷地内にはあちこちにコウモリの像がある。タイにいないチスイコウモリ風の像もある。とにかくコウモリづくしだ。

コウモリの像いろいろ

 何か風を切るような音がするなと思ったら、洞窟から丘に沿って西の方へコウモリの流れがすでに始まっていた。まだ17時40分だ。

出巣が始まった。今回は「龍」は西に向かった

「龍」を拡大。足の間に尾がはっきりと見える。これが「オヒキ」の名前の由来。

 あとで調べたところでは、出巣の始まる時間は日によって異なり、必ずしも季節や日没時間と連動していないようだ。やがて境内にタイ語のアナウンスが流れる。タイ語は全くわからないが、たぶんコウモリの出巣が始まったことを告げているのだろう、屋台やお寺の他の部分にいた観光客が、丘の麓に集まってくる。最初の30分くらいは高密度でコウモリの群れが流れていく。コウモリを捕まえようとタカが上空に何羽かいる。

タカの仲間がコウモリを狙っている

密集しているところはこのくらいの密度

 われわれがカオチョンプランに来るのは3回目である。1回目は2008年9月のコウモリの会の調査の時、他のメンバーが帰国したあと訪れた。このときはヒダクチオヒキコウモリは見物人の立っている広場の方へ向かって出巣してきたので、頭上を低く飛ぶとファサファサファサという羽ばたきの音が聞こえて楽しかったが、コウモリとともに洞窟の中に籠もった糞尿の匂いと思われる悪臭も広場いっぱいに漂ってきた。たくさんの観光客が屋台の食べ物などを持って見物していたのだが、1時間ほどの出巣の途中でふと気がついたら、みんな逃げ出してわれわれしかいなかった。2回目は2011年11月で、このときはヒダクチオヒキコウモリは丘の斜面の手前を東へ向かい、集落の方に向かって出巣した。その先の田んぼを目指していったのだろうか。

洞窟の出口付近

 始まって1時間以上たってあたりが真っ暗になってもまだ出巣は続いているが、かなりまばらになってきた。群れから分かれてばらばらに広がってお寺の上を飛ぶコウモリもいるので、空一面にコウモリが飛んでいるが、暗くて見づらくなってきた。屋台を一通り歩き回ったけど、コウモリグッズのお土産は見当たらないので諦めてバンコクに帰る。再び2時間ほどのドライブである。深夜にホテルに戻り、翌朝早朝の飛行機で帰国した。

市場の様子

著者プロフィール

大沢啓子(おおさわ・けいこ)・大沢夕志(おおさわ・ゆうし)

1988年に南大東島でオオコウモリに出会って以来、コウモリに惹きつけられ、世界を巡って観察している。講演会や観察会、企画展示、書籍など、コウモリの魅力をたくさんの人に伝える活動をしている。動物園にやってくる野生のコウモリの観察会をすることもある。コウモリの会評議員、日本自然科学写真協会理事(夕志)。主な著書『身近で観察するコウモリの世界』『コウモリの謎』(誠文堂新光社)、『オオコウモリの飛ぶ島』『ふたりのロタ島動物記』(山と渓谷社)、『南大東島自然ガイドブック』(ボーダーインク)など。

カテゴリー

カテゴリー一覧

このカテゴリーの他の記事

ページTOPへ

Copyrights © 2010 Doubutu-no-kuni All Rights Reserved.
誌面、Webにおけるあらゆるコンテンツの無断複写・転載を禁じます。