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Vol.29 世界一小さいコウモリ

2020.2.14

 コウモリの会では2002年からタイ西部のカンチャナブリ県のサイヨーク国立公園と東北部のコーンケン県でコウモリの調査を行っている。われわれは2008年と2009年、2011年に参加したのだが、その時に見られたコウモリを3回にわたって紹介したい。

地図

 初めて行った2008年9月、他のメンバーより一足先にバンコクに着いてホテルにチェックイン。まずは、出版されたばかりの、タイとその周辺をカバーする哺乳類図鑑を探したい。日本ではまだ入手できなかったのだ。海外に出かける時、その地域のコウモリの図鑑があればいちばんいいのだが、信頼できるコウモリ図鑑がある国は限られている。次善の策として、哺乳類図鑑を探すことになるのだが、コウモリについて、どの程度しっかりと書いてあるかは、入手してみないとわからない。
 ホテルのフロントで大きな本屋はどこにあるか、聞く。フロントにいた二人の男性はタイ語で何やら話し合っていたが、ホテルの前の道を二駅先のアソーク駅まで行ったあたりを、ここに本屋があると英語で言って指差した。英語ではそれだけだが、タイ語で二人で話しているときに「ロビンソン」という言葉が聞き取れた。散歩がてらアソーク駅まで歩いていくと、確かにロビンソン百貨店があり、その3階に本屋があった。探していたタイの哺乳類図鑑があり、鳥の図鑑もあったので一緒に買う。哺乳類図鑑のコウモリの部分はかなり詳しく記述されていて、これは使える。

左がタイの哺乳類図鑑。この本は『A field guide to the mammals of South-East Asia』という名前でも出版されている。タイを中心に東南アジア大陸部、ミャンマーからベトナム、シンガポールにかけてカバーしている。最近、改訂されて第2版が出た。右は同時に買った鳥の図鑑。

 夕方遅れて日本からの調査メンバーが3人到着。哺乳類図鑑を買った話をすると3人とも欲しいということになり、もう一度ロビンソン百貨店まで歩く。ちょうど3冊残っていたので買い占める。お店の人はわれわれのことを覚えていたようで「あれ」というような顔をしてノートをサービスしてくれた。滅多に売れることはないだろう専門的な図鑑が、1日のうちに在庫4冊すべて売れてしまったのだから画期的だ。

 バンコクから西に4時間ほどドライブしたところに、カンチャナブリ県のサイヨーク国立公園がある。公園を流れるクウェイ川沿いには洞窟が点々とあり、キティブタバナコウモリが生息している。車やボートで移動しながらいくつかの洞窟で調査を行った。

 キティブタバナコウモリは、一科一属一種で、ブタバナコウモリ科の唯一の属ブタバナコウモリ属の唯一の種だ。体重2g、体長3cmほどで翼を広げても16cmくらいしかない、世界最小のコウモリで、トウキョウトガリネズミと並んで世界最小の哺乳類である。

キティブタバナコウモリ

鼻の周りに鼻葉が発達しているコウモリはたくさんいるが、キティブタバナコウモリはシンプルな豚鼻だ。世界中でタイの西部とお隣ミャンマーの東部にしか生息していない。

キティブタバナコウモリ

 洞窟の中に仏像があって、お寺としての参拝の場になっているところがあったり、お寺の敷地の一部に洞窟があるところもある。仏教の信心が厚いタイでは、神聖な場所としてコウモリの生息地が結果的に守られているようだ。

 洞窟にはその他にも巨大なヒマラヤカグラコウモリHipposideros armigerやハチマキカグラコウモリHipposideros diademaなどカグラコウモリの仲間、トマスキクガシラコウモリRhinolophus thomasi、ピーターキクガシラコウモリRhinolophus coelophyllusなどキクガシラコウモリの仲間がいる。キクガシラコウモリの仲間の識別は鼻葉の形を横から見るのがポイントだ。

ヒマラヤカグラコウモリ

トマスキクガシラコウモリ

 ほかにも肉食のコアラコウモリMegaderma spasmaがいたり、クロヒゲツームコウモリTaphozous melanopogonやジャイアントユビナガコウモリMiniopterus magnaterなどもいた。

コアラコウモリ オーストラリアのコアラとは関係ない。小荒蝙蝠

クロヒゲツームコウモリ

 サイヨーク国立公園の入口近くで、夜、かすみ網を使った捕獲調査もした。コイヌガオフルーツコウモリCynopterus brachyotisやその拡大コピーのようなコバナフルーツコウモリCynopterus sphinx、更に拡大版のホースフィールドフルーツコウモリCynopterus horsfieldiiが捕獲された。このコバナフルーツコウモリ属は耳の縁と翼の骨のところが白いという共通点があり外見は似ているので、捕獲して測定しないと同定は難しい。

コバナフルーツコウモリ

 洞窟棲のオオコウモリであるヨアケオオコウモリEonycteris spelaeaや、タケコウモリTylonycteris pachypusも捕獲された。タケコウモリはタケノコの時代に羽虫の幼虫が入り込んだ縦長のスリットを利用して竹の中をねぐらにしているのだが、狭いスリットに入るために頭骨が平べったいことや、つるつるする内側ですべらないように足に吸盤のような構造があることもよく観察できた(Vol.15 フィリピンのコウモリ王国に詳述)。

 クウェイ川を少し下流に行くと、映画「戦場にかける橋」で有名な泰緬鉄道のクウェイ川鉄橋がある。大観光地で、お土産屋さんや川を見下ろすレストラン、水上レストランなどもある。橋は歩いて渡れるが、手すりも柵もないのでちょっと怖かった。

著者プロフィール

大沢啓子(おおさわ・けいこ)・大沢夕志(おおさわ・ゆうし)

1988年に南大東島でオオコウモリに出会って以来、コウモリに惹きつけられ、世界を巡って観察している。講演会や観察会、企画展示、書籍など、コウモリの魅力をたくさんの人に伝える活動をしている。動物園にやってくる野生のコウモリの観察会をすることもある。コウモリの会評議員、日本自然科学写真協会理事(夕志)。主な著書『身近で観察するコウモリの世界』『コウモリの謎』(誠文堂新光社)、『オオコウモリの飛ぶ島』『ふたりのロタ島動物記』(山と渓谷社)、『南大東島自然ガイドブック』(ボーダーインク)など。

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