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Vol.30 ハロウィーンカラーのコウモリ

2020.3.19

 タイ北東部のコーンケン県パポー村は、水田とサトウキビ畑の広がるのどかな農村地帯だ。あちこちに小さなため池が点在し、そのほとりなどにバナナが植えてある。このバナナの葉の先端が枯れて丸まった部分に、インドヒオドシコウモリKerivoula pictaがねぐらをとっていて、コウモリの会ではその調査も毎年行っていた。コウモリといえば黒いと思っている人も多いかと思うが、このコウモリは体毛が明るいオレンジ色、耳や前腕、尾膜、翼の各指や足に沿った皮膜は鮮やかなオレンジ色をしている。指と指の間にあたる部分の翼の膜は対照的な黒い色をしていて、ハロウィーンの仮装を一人でしているような派手な色彩なのだが、枯れたバナナの葉の中で翼を閉じで寝ていると、これがうまく保護色となっている。

インドヒオドシコウモリ。捕獲して計測をした後に飛んで行くところ。昼間なので、ハロウィーン柄がとても目立つ。

インドヒオドシコウモリ。左はバナナの葉の先端部で寝ているところ。右は捕獲時の写真。

 バナナの葉のねぐらでは、単独のこともあるが2-3頭でいることが多いので、バンドを着けて個体識別をして関係を調べたり、電波発信機をつけて行動を調べていくと、コウモリには珍しく、オスとメスがペアをつくって幼獣と過ごしていることがわかった。コウモリのほとんどの種類は、オスは交尾が終わるとあとはまったく子育てには関与せず、メスとはねぐらも別にする。一夫一婦制をとるコウモリ自体が17種しか知られていない。この場合の一夫一婦は必ずしも両親が子どもの面倒を見るということではなく、餌資源やねぐら資源が限られているときに確保するためかと思われている。インドヒオドシコウモリもペアは一定期間維持されるが、翌年にはほとんど解消して新たなペアとなるので、一生添い遂げるわけではないようだ。糞を分析すると主に造網性のクモを食べていることなどがわかってきた。結果は、哺乳類学会の英文誌Mammal Studyにまとめられている。
 調査では、田んぼの間の未舗装道路をトラクターが牽引するリヤカーで移動する。一緒に乗っている村の子たちはリヤカーの中から道路沿いの杭にいるトカゲをめざとく見つけては飛びおりて捕ってくる。確かに手で押さえていたのに、杭から飛び下りて逃げるトカゲが見えた。切れた尻尾を手にして戻ってきたが、切り口の先端には血が付いていた。トカゲは尻尾を切って逃げるのは知ってはいるが、実際に見たのは初めてだ。
 パポー村では昆虫もけっこう調理されて食卓に乗る。調査途中のため池のほとりにあった木から、村の人たちがみんな夢中で緑色のカナブンのような虫を落としていたので何かと思ったら、夕食の時に素揚げになってでてきた。他にもコオロギの煮たものとか、蚕のさなぎが並ぶこともある。
 昼ご飯を食べるのは田んぼの中の高床式休憩所で、風が通って涼しくて快適だ。このあたりでは餅米を竹で編んだ籠に入れて蒸したものが主食で、指で丸めて食べる。ずっしりとして腹持ちがいい。余ったご飯を練って串に刺して火で焼いた、きりたんぽのようなものもおいしい。

高床式の休憩場所

 餅米はココナッツミルクと砂糖を入れて甘く炊いて、マンゴーと一緒におやつに食べることもあるが、ちょっとボリュームがありすぎる。竹の中に餅米とココナツミルクを入れて焼いたものもある。主食はおかゆの日もあった。

ある日のごちそう。手前の籠が蒸した餅米を入れる「おひつ」

左は昆虫の素揚げと肉(何の肉かは忘れてしまった)の串焼き。右はおかゆ。

 バナナの葉で寝ているコウモリは、インドヒオドシコウモリだけではない。バナナの葉がまだ開く前の丸い筒状の状態だと、その中をたくさんのムリコロホオヒゲコウモリMyotis muricolaがねぐらにしていることがある。Vol.5 グヌン・ムル国立公園で見たのと同じコウモリだ。

ムリコロホオヒゲコウモリは、左の写真のバナナの株のこの部分にいた。右は筒状の葉を上からのぞいたところ。

 田んぼの中にぽつんと立つ椰子の木は、アジアコイエローハウスコウモリScotophilus kuhliiがねぐらにしている。枯れて垂れ下がった葉にいるものを、巨大な捕虫網のようなもので捕獲した。逃げてしまったのもだいぶいるし、椰子の葉の中にもぐっていて捕まらないのもいたが、62頭も一気に捕獲できた。62頭のコウモリの重みで網は田んぼのぬかるみにいったん倒れてしまったが、なかなか頑強なコウモリのようで、泥だらけになりながら、人間に噛みついてきた。

アジアコイエローハウスコウモリを捕獲しているところと顔のアップ。

 村の人達が蓮の花のような華麗なお菓子をつくってくれた。凹凸のあるお玉杓子のようなものにタネを入れて、油に入れて揚げ、油から出したら小さな壺のようなものにしばらくのせる。余分な油を落としているのだろう。さらに紙を敷いた籠にしばらく置いて油切りをしてできあがり。カリッとした歯触りで甘すぎず食べ始めると止まらなくなる。綺麗な袋に5つずつ入れるとお店で売っているかのようになる。どこかに卸しているのだろうか。コウモリ調査のメンバー一人一人に一袋ずつお土産に持たせてくれた。一袋は、お土産に買った蒸した餅米を入れる竹籠に入れて帰ったので比較的無事だったけど、もう一袋はそのままザックに入れて持ち帰ったらバラバラになってしまった。

蓮の花のようなお菓子を作っているところと完成品

著者プロフィール

大沢啓子(おおさわ・けいこ)・大沢夕志(おおさわ・ゆうし)

1988年に南大東島でオオコウモリに出会って以来、コウモリに惹きつけられ、世界を巡って観察している。講演会や観察会、企画展示、書籍など、コウモリの魅力をたくさんの人に伝える活動をしている。動物園にやってくる野生のコウモリの観察会をすることもある。コウモリの会評議員、日本自然科学写真協会理事(夕志)。主な著書『身近で観察するコウモリの世界』『コウモリの謎』(誠文堂新光社)、『オオコウモリの飛ぶ島』『ふたりのロタ島動物記』(山と渓谷社)、『南大東島自然ガイドブック』(ボーダーインク)など。

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