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Vol.1 クリスマス島にクロミミオオコウモリを見に行く(その1)

2017.10.29

 バードウォッチングではなくてバットウォッチング。世の中には野鳥観察を趣味としている人もいるのだから、コウモリを観察して楽しむ人がいたっていいではないか。
 コウモリというと、怖い・不気味・襲われるなどと思っている人もいるかもしれないが、その悪いイメージの発信元の欧米も含めて、現在はバットウォッチングを楽しむ人も多い。たくさんのコウモリが飛び出すのを見るために世界中から観光客を集める洞窟だってあるし、アメリカの都会の真ん中には数千人の見物客がコウモリを観察しに集まる場所もある。そんな有名、無名のコウモリ観察場所を巡る旅をこれからお伝えしていこうと思う。バードウォッチング紀行ならいざ知らず、バットウォッチング紀行では大多数の日本人の参考にはならないとは思うのだが・・・。

夕暮れ時、橋の下の隙間からメキシコオヒキコウモリが出巣する。夏には150万頭にもなり、橋の欄干はその様子を見学する人達で埋まる。アメリカ合衆国テキサス州の州都オースチン。

 第1回目は、クリスマス島にしよう。クリスマスにはまだ少し早いのになぜクリスマス島なのかはあとで述べるとして、この島の名前を聞いて、自然好きな人なら「アカガニが大移動する島」だというかもしれないし、地理に詳しい人ならば「どっちの島のことだ?」と疑問符を付けるだろうし(クリスマス島と呼ばれる島は、太平洋にあるキリバス共和国の島と、インド洋にあるオーストラリア領の島の2つがあって、今回は後者の話である)、オーストラリアに詳しい人ならば難民収容施設があって、近海では難民船のことがよくニュースになる島だと知っていることだろう。

クリスマス島位置図

 オーストラリア領とはいっても、オーストラリア大陸よりもインドネシアに近い。ジャワ島の南360kmほどのところにある宮古島くらいの大きさの熱帯雨林に覆われた島である。1888年にイギリス領となるまでは無人島だったが、その後のリン鉱石の採掘によって石灰岩が露出した荒れ地となっている所もある。1958年にはオーストラリア領となり、島の面積の63%が国立公園に指定され、荒れ地を熱帯雨林に再生しようとしているが、まだ長い年月がかかりそうだ。
 ごく最近、この島のコウモリのことが日本でもニュースになった。ちょうど連載の最初をどこにしようかと考えている最中だったので、せっかくだからこの島にしよう。ただし嬉しいニュースではない。国際自然保護連合(IUCN)が2017年9月14日に発表したレッドリスト最新版で、クリスマス島固有種のマリアブラコウモリPipistrellus murrayiが新たに絶滅とされたのだ。1980年代には広く生息していたが、個体数も島内での分布も急激に減少し、2009年8月26日に音声が記録されたのを最後に、その後まったく生息が確認できていない。音声調査等が継続して行われてきたが、この島ではエコーロケーション(超音波をつかった探索)をするコウモリはマリアブラコウモリ一種類だけなので、一回もエコーロケーション音が感知されないということは、どこかで秘かに生きている可能性はないとされたのだ。

日本の都会にもいるアブラコウモリは、マリアブラコウモリに近い仲間。ただし、マリアブラコウモリは森林棲。

 

 われわれがクリスマス島に行ったのは、その最後に生息が確認された直後の2009年10月17日から30日である。島で記録されているコウモリは2種類いて、今回絶滅が宣言されたマリアブラコウモリ以外に、クロミミオオコウモリPteropus natalisが生息している。われわれの目的はどちらかというとクロミミオオコウモリの方だ。
 われわれがコウモリに興味を持つようになったのは、1988年に南大東島でダイトウオオコウモリ(クビワオオコウモリの亜種)を見たのがきっかけで、元々はオオコウモリに魅せられた。今でこそコウモリ全般に興味の対象は広がっているが、最初は世界中のオオコウモリ科200種弱を全部見るのが夢だった。200種というのはコンプリートするのにちょうどいい種数だ。ところが、ほどなくこの夢は絶対に無理だということを悟った。オオコウモリ科はアジア、オーストラリア、太平洋やインド洋の島、そしてアフリカに分布し、ヨーロッパやアメリカ大陸にはいない。政治的に不安定だったり治安が悪かったり、アクセスが難しかったり、コウモリの情報などほとんど手に入らない国や地域が多く、1年間に増やせる数はどんなに頑張ってもせいぜい数種だ。それに、新たに発見される種や分類が変わってひとつだった種が2つに分かれたりと、目標値も少しずつ増えてしまう。

このダイトウオオコウモリがきっかけでコウモリの虜になってしまった。

 クロミミオオコウモリはクリスマス島以外にもアンダマン諸島や二コバル諸島、スマトラ島に分布しているが、交通の便とか、観察のしやすさとか、治安とか、いろいろ考えると、この島に見に行くのがいちばん現実的だ。マリアブラコウモリの後を追うように、個体数も減ってきているようなので、優先順位も高い。島へ行くには、日本からであれば、シンガポールから週1便飛行機がある。あとはオーストラリアのパースから週3便飛んでいる。(いずれも当時)

人が住んでいるのは、島の北東部。台地の縁にある展望台から海岸沿いにある街を望む。

 飛行機から見るとよくわかるのだが、島の地形は台地状になっていて、海岸から急な斜面が標高約200mまで続き、その途中にテラスと呼ばれる平坦な部分がところどころある。その斜面の森やテラスが、海鳥の繁殖場所やオオコウモリのねぐらになっている。
 マリアブラコウモリについては、オーストラリアのコウモリ研究者リンディ・ラムズデンさんらが詳しく調査をし、90年代から保護を訴え続けていた。しかしその後も激減していき、自力での回復は困難だとして、最後の手段として飼育下で繁殖させるプロジェクトを進めるため全頭捕獲を目指した。2009年8月、最後の2頭が樹皮の下にねぐらをとっているのがわかり、周到な準備をして臨んだものの捕獲は失敗し、見失ってしまった。その時の彼らのがっかりしていた様子を、国立公園のビジターセンタの職員が話してくれた。オーストラリア政府の腰が重くて間に合わなかったのだ。絶滅の原因はいろいろいわれているが、はっきりわかっていない。
 そんなドラマのあった直後なので、マリアブラコウモリを見つけられる可能性はゼロに近いとはわかっていたが、われわれも一応バットディテクターを持って行った。マリアブラコウモリが生息していれば、その超音波をこれで聞くことができる。オオコウモリは超音波を使わないので、オオコウモリウォッチングには不要な装備なのだが、万が一ということもある。

バットディテクター。超音波を人間の耳にも聞こえる音に変換してくれる機械。

 結果的に、マリアブラコウモリの辞世の句を聞くことはなかった。オーストラリアのコウモリ研究者の精鋭部隊が長期間島に入ってもうダメだといった場所なので、われわれ二人で見つかるはずもない。

月齢5の月とクロミミオオコウモリ

       

<クリスマス島続く>

著者プロフィール

大沢啓子(おおさわ・けいこ)・大沢夕志(おおさわ・ゆうし)

1988年に南大東島でオオコウモリに出会って以来、コウモリに惹きつけられ、世界を巡って観察している。講演会や観察会、企画展示、書籍など、コウモリの魅力をたくさんの人に伝える活動をしている。動物園にやってくる野生のコウモリの観察会をすることもある。コウモリの会評議員、日本自然科学写真協会理事(夕志)。主な著書『身近で観察するコウモリの世界』『コウモリの謎』(誠文堂新光社)、『オオコウモリの飛ぶ島』『ふたりのロタ島動物記』(山と渓谷社)、『南大東島自然ガイドブック』(ボーダーインク)など。

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